第14話 この日は私が(優衣視点)
「私、そんな事してません。」
もちろんやったのは私ではなかった。しかし、先生が手に持っていた筆には出席番号六番のシールが貼られてあった。
「別に筆を壊した事には怒ってはいません。それを報告しなかった事に怒っているんです。」
「だから、私じゃないんです.......。」
「ちゃんと自分が壊したと謝れば許してあげます。でも、そうでなければ両親を呼ぶことになりますよ。」
今考えるとこの程度では両親を呼ばれない事は分かっているが、当時の私はそんな考えは頭に無かった。
この時の私は謝りたくなかった。それはそうだ。でも、この場を収めるための謝罪以外の方法を小学生の私は持ち合わせていなかった。
「筆を.......」
「もっと大きい声で話しなさい。」
「筆を壊してごめ.......」
その時だった。
「せんせーそれやったのゆいじゃないよ。」
「え?」
いつの間にか部屋の扉が空いていて、そこには連が立っていた。
「よく見てよシールを剥がした後があるでしょ。多分、誰かがゆいに責任を押し付けようとしてシールに細工をしたんだよ。」
先生はこう答える。
「私は筆を返す時見ていたけど、誰も筆のシールを交換しても無かった。その後美術室の鍵を閉めたから誰も筆には触れなかった。」
「ふーん。ところでせんせ。なんで筆が壊れてること気づいたの?」
「それは、昼休みにある生徒が教えてくれたのよ。」
「ある生徒って?」
「別に誰でもいいでしょ。」
「当ててあげよっか。」
「見てたの?」
「いーや。でも、分かるよ。こまき まい、だよね?」
「え.....。ど、どうして分かったのよ!?」
「簡単だよせんせ。」
「こまきさんは外で絵を描いてる時に筆を壊してしまった。そこで、ある作戦を思いついた。こまきさんは出席番号が九番だよね。だからその数字をひっくり返して六番の人のせいにしようとしたんだ。」
先生は何かを言おうとしたが考えがまとまらなかったのだろう。何も言わなかった。
「そして、昼休みに筆が壊れているのを見たと言って美術室に入れてもらい一瞬の隙を見てゆいの番号を六番から九番にした。」
「.......証拠もなくそんな事言えるわね。」
「せんせ、証拠ならあるよ。壊れた筆見てみて。オレンジの絵の具が残ってるよね。ゆいは木の絵を描いた。僕もゆいの絵を見たけどオレンジは使われてなかった。」
動かぬ証拠だった。
「優衣さん。疑って悪かったわ。本当に申し訳ないわ。」
「.......いえ、いいんです。」
私はそう答えていた。
「じゃあ、ゆい帰ろっか。」
「うん!」
美術室の扉を開けると、そこは天井だった。それと覗き込んでいる連の顔だった。
夢から覚めたのだと気づいた。
「優衣、大丈夫か?少し、うなされてたぞ。」
「昔の夢見てたの。」
そうすると、連は私の額に手を当てた。
「そうか。熱は下がったみたいだな。良かった。」
「連、いつもありがとね。」
「急にどうした?」
「お礼がしたくなっただけ。」
気まずくなり沈黙がやってくる。
「あ!そうだ。小学校の頃、連が描いた絵ってなんだったの?」
「.......あぁ。あれか。」
「教えてよ!」
言いにくそうにしていたが、悩んだ末に恥ずかしそうにしながら連はぼそっと呟いた。
「.......優衣が絵を描いている絵。」
連はいつから私のことを好きになったのだろう。今度、元気になったら聞いてみよう。ちなみに、あの日が私、大山優衣が河野連を好きになった日だ。
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