Ep1-3

 日が沈んで夜も更けてくると、辺りは静かになって一日の生活に終わりが訪れる。

 しかし、それは人が密集する都市部では通用はしない話であり、時計の針がもうすぐ夜の八時を差そうとしているのに大通りの店舗はまだお客さんで賑わっていた。

 それに比例するように、私たちの仕事も忙しくなる。

 バイト先が駅前に近いこともあって、今は仕事帰りの会社員が夕飯を食べに来る割合が多くなっていた。


「牧村さん、これお願い」


 キッチンから作られる料理は絶え間なく現れ、その度に私たちホール担当はひたすらにテーブルへと届ける。

 今日はシフトに入ってからずっとこの調子なので、いい加減休憩にも入りたいところだった。

 

「牧村さん、こっちもお願い。それ終わったら一旦休憩入って」

「助かります」


 キッチン担当にして私たちのチーフである野村さんが口早に伝えてくる。

 彼女とは出会ってもうじき一年が経ち、勤め始めてから色んなことを教えてくれた人でもあるので、お互いの意思はある程度通じ合うようになっていた。

 ようやく一区切りつくことが目に見えてきて、やる気は徐々に熱を持ち始める。その勢いで受け取ったサラダを運ぶ足は、とても軽やかなものになっていた。

 指定されたテーブルはお店の端に位置していて、すぐ隣の窓からは夜道を歩く人の姿がよく見えている。

 その席に座るお客さんは、私と同じ学校の制服を着ていて、髪を二つに結んでいて、学年の違うリボンをしていて……。


 よく見るまでもなく、その子はここに来る前に見ていたあの演劇の女の子だった。


「お待たせしました」


 偶然の再会となったわけだが、向こうは終始こちらに気付いていなかったので当然ながら何の反応もなく料理を持ってきたことに短く会釈をする。

 そして無言で手を合わせてから、フォークでサラダを食べ始めていた。

 その所作は丁寧で、本人も年相応の幼めな顔つきはしているがそれ以外で化粧やアクセサリーをつけたりしているわけでもない。

 そんな振舞いからは育ちの良さを感じさせ、あれだけ緩急のある動きが出来るとはイメージがつきにくいものだった。


 なんだか、不思議な子だなぁ。


 そう感じながらも、長居は無用なので素早く引き返していく。

 

「あの角にいる子、牧村さんと同じ制服着てるけど知り合い?」


 キッチンの近くにまで戻ると、一仕事終えた野村さんが顔を出して私にそう尋ねてくる。


「いえ。今日来るときに公園にいただけですよ」

「その割にはなんか戻ってくるの遅かったけど、何か話してたの?」

「全然」


 淡々と答えてはいるが、冷静に考えればたまたま見かけた子を気にかけているように聞こえてしまい、訪ねてきた野村さんもなんとも言えないような表情をしていた。


「まぁ……あまり不用意な行動はしないようにね」


 その注意に短く返事をして、一度だけ彼女に振り返ってから私は控室に入っていった。

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