『お嬢様!俺の青春リベンジにお付き合い下さい!?』超ビンボー学生の俺。学園一の令嬢を騙して資産を奪おうとしたら、彼女もボロアパートでパンの耳をかじる偽物だったんですが!?〜人生逆転ラブコメ!?〜
第10.5話(幕間):裸の聖者たち、あるいは極限の銭湯
第10.5話(幕間):裸の聖者たち、あるいは極限の銭湯
【※時系列的には、10話の高級タワマンの件の夜の話しです】
午後八時。タワマンでの一件を終え、ボロアパートへ帰り着いた二人に、最大の試練が訪れる。
汗と、泥水と、そして何より「黄色いタオル(悠人)」と「ジャージ(麗華)」に染み付いた互いの匂い。これを洗い流さない限り、明日の「完璧な学園生活」は始まらない。
だが、家賃三万円の『あけぼの荘』に風呂などという文明の利器は存在しなかった。
(……汚れた。あの三つ編み女の安っぽい油の匂いがこびりついてやがる。一刻も早く、銭湯で削ぎ落とさなければ……)
(……信じられない。あのキャップ男の湿布のような匂いが肌にまで。西園寺の誇りにかけて、今すぐ除菌が必要だわ!)
二人は、お互いに隣の部屋から「桶(おけ)」の音が響かないよう細心の注意を払い、数分の差をつけてアパートを出た。
向かう先は、徒歩五分の場所にある古びた銭湯「松の湯」。
四百八十円の入浴料さえ惜しいが、身だしなみは「王子と女王」を演じるための必要経費だ。
男湯ののれんをくぐった悠人は、腰に巻いたボロタオルを隠すように脱衣所へ滑り込んだ。
(……あいつ(三つ編み女)は今頃、あのタワマンのジャグジーで優雅に泡風呂でも楽しんでいるんだろう。……クソ、俺はここで、じいさんたちに混じってカラスの行水だ)
一方、女湯。麗華もまた、毛玉ジャージを音速で脱ぎ捨てていた。
(……あのキャップ男、今頃はタワーマンションの最上階で、夜景を見ながらバスタイムを過ごしているに違いないわ。……それに引き換え、私はこの古ぼけたケロリン桶を相棒にするなんて……)
壁一枚隔てた男湯と女湯。
お互いに「相手は今、超高級マンションの風呂にいる」と確信しているからこそ、二人は完全に油断していた。
悠人がカランの前で、十円でも安く買った「全身用せっけん」でガシガシと頭を洗っている時。
麗華が隣(女湯側)のカランで、試供品のシャンプーを大切に泡立てている時。
壁の向こうから、聞き覚えのある「音」が聞こえてきた。
「ふぅ……」
「はぁ……」
同時に漏れた、深い溜息。
悠人がピクリと耳を動かす。
(……ん? どっかで聞いたような、疲れ切った女の溜息だな。……まさかな、あんな三つ編み女がこんなオンボロ銭湯にいるはずがない。タワマン住まいのセレブが銭湯? 冗談じゃねえ)
麗華もまた、湯船に浸かりながら首を傾げる。
(……今、隣から聞こえたおじさんのような呻き声。あのキャップ男の声に似ている気がしたわ……。いいえ、あり得ないわ。あの男は今頃、シャンパンでも片手にバスローブを着ているはずよ)
二人は、「相手が金持ちであること」を絶対の前提としているため、目の前(壁の向こう)にある真実を脳が拒絶した。
だが、脱衣所に戻った悠人の視線が、共有スペースの下駄箱で凍り付いた。
(……待て。あの女物の棚にある、左右で色の褪せ方が違う安物のサンダル。今日、あの三つ編み女が履いていたやつに酷似してやがる。……まさか、あいつが女湯に……!?)
一方の麗華も、暖簾の隙間から、共有スペースの棚に突っ込まれたアイテムを見つけていた。
(……あの泥のついた黒いキャップ。間違いないわ、マツバヤで私の前にいた男のものよ! 嘘でしょう、あの男はタワマン住まいのセレブのはず。……いいえ、あれはきっと庶民の暮らしを冷やかしに来た変人に違いないわ。でも、もし今ここで鉢合わせたら……)
((絶対にバカにされる!(わ!)))
二人は戦慄した。相手を金持ちだと思っているからこそ、ここでの自分の「底辺の姿」を見られることは、即ち社会的な死を意味する。
だが、待ち続けても相手は消えない。明日の学園生活を考えれば、一秒でも早く帰って寝る必要がある。二人は極限の緊張感の中、番台の老婆がテレビ番組の笑い所に釘付けになった一瞬を狙い澄ました。
(……今だ!)
悠人が男湯の暖簾から音もなく滑り出し、キャップを掴んで左の路地へ全速力で疾走する。
そのわずか三秒後、麗華もまた女湯の暖簾から残像のような速さで飛び出し、サンダルを引っ掛けて右の路地へと駆け抜けた。
お互いに「誰かが猛スピードで反対側へ逃げ去る気配」を背中で感じ取った。
(……あいつだ! タワマンの方へ走っていったな! きっと、金持ちなのに銭湯に来ているのが恥ずかしくて逃げて行きやがったんだ)
(……あの男だわ!きっと高貴な私に、銭湯姿を見られるのが恥ずかしくて逃げ出したのね。身の程を知ったようね!)
二人は勝利を確信し、それぞれ別ルートを辿って『あけぼの荘』へと帰還した。時間差で階段を駆け上がり、自室のドアを閉める。
((……ふぅ。今日も、完璧に『王子(女王)』を守り抜いた……))
壁一枚を隔てて、二人は「相手は今頃、タワマンのふかふかのベッドにいる」と信じ込みながら、冷たい煎餅布団へと潜り込んだ。
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