第19話 今後の方針と不和解

「えっと、イネちゃんたちは成り行きとは言え人類軍とことを構えてしまったわけだけど今後の方針どうしようか」

「そこはあちらの主神がこちらのバックなのですからあまりけ負いすぎる必要はないのでは」

「神託という形ですらチャンネルを用意しておかなかった私のせいで……本当にすみません……」

 決闘の後の神様顕現から半日、ヒロ君たちを加えつつ今後の方針を話し合っていた。

 ただヒロ君たちは状況を把握……はできているみたいだけど飲み込めないようで、キハグレイス側は神様であるスクラミアスさんしか話に混ざってきていない。

 あ、スクラミアスさんたっての希望でイネちゃんがスクラミアスさんを呼ぶときは絶対に様をつけないでと言われたので敬称はさん付けにさせてもらってるよ。

「ということはキハグレイスの信仰拠点や組織はスクラミアスさんの意図を知るすべが無いってことだね」

「すみませんすみません……」

「いや事実確認をしただけだから謝る必要はないよ。現実問題として遺跡を狙ったのは地方貴族の暴走だったのか、背後に人類軍全体を統括できる人間が関わっているかってことでしょ?」

「関わってたら準男爵様みたいにサクッと殺すつもりか?」

 ヒロ君が決闘前と変わらず喧嘩腰でようやく会話に混ざってくれたよ。

「状況次第だね。可能なら対話をした上で理解を求めるし、場合によっては協力出来きるかもしれないわけだからね」

「命を簡単に奪う奴の言葉を信じると思うのか」

「あちらが統治者、為政者であるというのならこちらの出せる情報と持ってる力次第では信じるんじゃないかな。ただの人類軍指揮官というファクター……いやこの場合はアクターって言った方がいいのかな、そっちに徹する人なら無理って可能性は出てくるかもだけど」

「違いがわからん」

「種の存続を最重要としているか、勝利だけを求めるかの違い。前者ならあの遺跡を利用した場合のリスクの大きさを理解するだろうし、後者ならリスクガン無視で利用しようとするだろうから」

 うーん、ヒロ君の居た地球でも核というファクターが重いのであれば例え話を核にすることもできるけれど、そのへんは全く話してくれないからどうしようも無いんだよなぁ、地球出身だろうってのは当人の言動とスクラミアスさんの言葉から察することができるけど、世界の詳しい内容に関しては聞いても答えてくれないので判断できない。

「後者なら殺すって宣言してるじゃねぇか」

「手段の1つから外れはしないけど確定でもないよ。要は魔軍と同時並行で遺跡争奪戦をやるだけのメリットデメリットの釣り合いが取れないって認識してくれれば手を引くだろうし……これに関しては魔軍が来ても同様だしね」

 返事は来なかったけれど、ヒロ君とそのPTメンバーの表情を見る限り納得していないっていうのは理解できた。

「少なくともヌーリエ教会、大陸代表として動くのであれば完全中立という立場だからね。まぁ厳密な永世中立ってわけでもないけどさ」

「中立を名乗りながら戦って殺すってか、聞いて呆れるな」

「中立って言葉を勘違いしてない?降りかかる火の粉は容赦なく払うんだよ?」

「乗り込んで来ておいて……」

「個人的な憤りは流石にスルーさせてもらうからね、そちらが望めばこちらの情報は開示される旨はこの会議が始まる前に伝えてあるわけだからね」

「こっちの事情も……」

「それを調査しようとした矢先に今回の騒動。それを言うならキハグレイスの社会情勢やらなんやらの情報をこちらに提供してもらえれば助かるよ」

「調べられるはずだろうが!こんな力や機械があるし組織としてもデケェんだからよ!」

 ヒロ君が耐え切れなかったのか大声を出して机を強く叩いた。

 スクラミアスさんがヒィって感じの情けない声を出してたけど、これはヒロ君にビビったわけじゃなくイネちゃんが怒ってしまうかっていうことが不安で漏れた声らしい……らしいってのは後で聞いた話だからである。

「今、君が考えてるような事をやればそれこそ戦争になるよ。こっちにそのつもりがなかろうがね」

 このイネちゃんの発言にバツが悪そうにしているのがアングロサンから出向している部隊長さんである。

 アングロサンは大陸に対して威力偵察みたいなことをしちゃった結果、一時的に紛争に近い状況になっちゃったからね、こっちはそれほど争うつもりがなかったっていうのと、手を取り合って戦うべき存在がいたからこそ問題を棚上げしてことに当たってたらうやむやになったけれど、こっちも迎撃時にちょいとやりすぎ感あったのでお互い様という流れにはなった。

 これはアングロサン側の文明レベルが高かったことと、連邦制の民主主義国家で交易相手として対等になりうるのであれば同盟という形で連邦に編入せずとも有効な関係を築くだけの土壌があったのがとても大きい。

 そして今目の前のヒロ君はその辺を理解できていないだろうことは言動と表情から察しがつく。

「例え少数だとしても、宇宙にまで出られる文明レベルの存在が古代から中世ヨーロッパくらいの文明のところを歩けばどうなるか、どういう認識をされるのか、少し想像してみて」

「はぐらかすんじゃねぇ」

「はぐらかすも何も、異国の武装勢力が鼻歌交じりに入ればどうなるかってことすら想像できない?」

「どちらも言葉のナイフを収めてください!お願いですから!」

 スクラミアスさんが空気に耐え切れなかったのか涙目で訴えてきた。

「口論が途切れましたので、話を次に進めます。こちらには根底として侵略する意図がない以上は個人ないし少人数での調査、情報収集が基本となり、そこには当該世界の技術レベル、文明レベルに可能な限り擦り寄るスタイルを普段とっています」

「その割には科学的な建物だったよなぁ」

「今回はゲートが安定しきってはいないこと、調査役であるイネ様が単独での調査活動に関しては今回が初めてであることなどを踏まえ、バックアップ体制を整える意味合いでゲート近辺においてはそう整備させていただいただけです」

「偉そうなこと言っておきながら新人なのか。あーあーいやだねぇお役所ってのは」

 これはもう1回か2回くらい殴っておいた方がいいよなぁ……イネちゃんも強めに言ったのはあるからアレコレ言うつもりはあまりないけれど、流石に都度進行を止めてくるのは問題行動すぎてね。

「少なくとも個人的感情で気に食わないからと誰彼構わずに噛み付く方ではないですから。ゲスなことをしようとして全部意趣返しされたところで後ろめたさを感じているのは構いませんが、恥の上塗りをする形での自罰行為は褒められたものではありませんよ」

「あんたに俺の何が分かるってんだ!」

「人となりと今までの経歴に関しては調べなければわかりませんが、今あなたが考えていることと胸の奥底に存在する無意識に関しましては把握していますよ。私はこれでもムーンラビット様に事務総括代行の任を任せていただける程度には上位の夢魔ですので」

「夢魔!?」

 ヒロ君PTがスーさんの言葉で戦闘態勢を取った。

「やっぱり魔軍の……」

「違います。この方々はキハグレイスではなくここ……大陸と呼ばれるヌーリエ様の作られた世界で生まれた方々なのです」

「だが人間じゃない」

「あぁ種族選民主義ですね。大陸でも数万年程度の昔にその思想が世界を分けた時代がありましたよ。私はその時代の生まれですから、その思想に家族を殺されたものです」

「それは魔軍が人を……」

「大陸の歴史において、後か先かを問いただすのであれば人が先だと明確に記録されておりますよ。これは王侯貴族側の蔵書に記されていますが……キハグレイスに関しましては今後の調査の対象ですから私が答えることはできかねます」

「じゃああんたはキハグレイスの同胞が人を殺そうが知ったことじゃないってことでいいのか」

「そのとおりです。そもそもの源流が違いますし、夢魔でありながら人との共存を考えられない時点で夢魔、淫魔を名乗らないで頂きたいくらいですから。もし、情報の内容次第では私自らキハグレイスで魔軍に所属している夢魔を名乗るものと戦っても構いませんよ?」

「人類軍の味方になると言うのですか?」

「今後の調査次第で、現時点では先日の遺跡の防衛以外では本格的な介入を行う予定はありませんよ。本来のやり方であれば大きな介入をせざるを得ない状況になるまでは今回のような介入も殆ど行いませんから」

「それを信じろって言うの?」

「出会いは最悪、会話もドッチボールな状況ですからそれは望みませんよ」

「だとよヒロ。少なくとも飯を出して拷問はされてねぇって点においては厚遇とも言えるわけだし、飲み込みにくいだろうがここは飲み込んでおいた方がいいだろ。そもそも俺だってあっさり負けてんだからよ」

 剣士さんは兄貴分だったのか、諭す形で攻撃的な態度を控えるように言ってくれてる……というかスーさんもそのへんわかってて言葉のナイフが鋭くなる直前に言葉を遮ってまで強引に話を進める手腕は流石の夢魔と言ったところだよなぁ。

「イネ様も言動の責任を取る覚悟があるのは結構ですが、今後はその覚悟が必要な場面を可能な限り避けてくださいね。情報収集調査を行うにしても必要以上の面倒を抱えることはないのですから」

「あ、はい」

「ともあれ、彼らにもこちらのことを知って頂く必要がありますから。もうしばらくは滞在して頂きたいと思います。その際にはあちらに急造した独房ではなく、このベースキャンプにて行うか、あちらのイネ様の休憩所に滞在して頂く予定ではありますが……勿論、彼らがよろしければですが」

「と、言うことはイネちゃんはこの会議の後は出発ってことになるのかな?」

「はい、最低限の情報はイネ様の端末にお送りしますので。そろそろ当初の予定を進めて頂ければと」

「情勢的には最悪な気がするんだけど……異邦人として通じるかね?」

「大丈夫です、イネ様の技量であれば潜り込むのが可能であろう組織の目処は着きましたので」

 そう言うスーさんの表情は変わらなかったけれど、なんとなく口角が上がったように見えたのはイネちゃんの気のせいでは無い気がする。

 ともあれヒロ君たちとの和解はできないままの状態で、イネちゃんはキハグレイスの世界を旅することになったのであった……いやまぁ本来ならとっくに歩き回ってる予定だったからいいんだけどね、うん。

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