第18話 決闘後、神様2柱
「勝者、イネ様!」
ヒロ君が気を失ってから少しして、スーさんが倒れているヒロ君の状態を確認してからそうコールした。
「決着でいいよね?ヒロ君側の面々も」
観客席に向けてそう語りかけてみるけれど、信じられないって様子で困惑していて返事が返ってこない。
「映像記録もしていますので、大丈夫ですよ。そもそもこのベースキャンプに生中継されていましたし、アングロサンと地球のそれぞれの媒体にて保存してありますから、後々無効試合だと言い出したとしても物的証拠として機能します……それよりも競技場の原状回復をお願いしてもよろしいでしょうか、これほどの規模となるとベースキャンプに滞在している面々ではイネ様以外にできませんので」
「あぁうん、防御するにもちょっと派手にやりすぎたからわかったよ」
勇者の力でヒロ君の出した溶岩とか、それを防ぐために変動させた地形をもりもり直す。
「そんな……ヒロ!」
召喚勇者PTで1番最初に戻ってきたのはあの時にイネちゃんがあの時ホールドアップしたヒーラーちゃんが駆け寄ってくるけれど、スーさんが一応制止して。
「命に別状はありませんよ。イネ様は受身を取らないにしても即死するような攻撃はしておりませんし、こちらで確認した際にも内部に出血は認められませんでしたので」
スーさんの説明を無視する形で治癒魔法だろうか、ヒロ君に向かってかけ始めた。
別に治療なら止める必要もないし、スーさんもそう判断したのか制止をやめて事後処理の準備を始めた。
「イネ様、当初の口約束ではこれで彼は納得してくれるはずですが、そんな感触はありましたか?」
「ない。間違いなく反発するだろうね」
「あなたたちは……人として恥ずかしくないのですか!?」
「それ、ブーメランしてるからね?決闘開始と同時に時間停止して女の子を性的に乱暴しようとした挙句、自分の思い通りにならなかったら逆ギレして決められたルールを守ろうとすらせずに大量破壊に該当する攻撃を連続する方がイネちゃんは恥ずかしいと思うし」
「イネ様、事実のナイフが鋭すぎますよ」
「ヘイト集めるなら大抵のことに対処できる人間がやらないとダメでしょ?」
「今後の活動を鑑みてくださればと思います。あちらで活動するのはイネ様なのですからね?」
「あぁうん、そういうこと……次からは気をつけるよ」
「あなただって使ったじゃないですか!あの光の剣は大量破壊を起こすものでしょう!」
……まぁ文明レベル的には間違いではないけれど、大陸だとビームを素手で殴って消したり、木の枝1本あればいなせる人とかいてそれはイネちゃんが麻痺ってたと言えなくはない、言えなくはないけれど。
「あまりにルール違反してたから決闘ではなく暴動、テロの範疇だったから鎮圧のための威圧行為だったからね?」
「テロ?分からない言葉でごまかさないでください!」
あぁうん、テロって概念は存在しないか。
『イネちゃん、少しよろしいでしょうか』
おやヌーリエ様……なんか珍しいタイミングな気がするけれどどうしたんだろう。
『この子たちの神様、スクラミアスちゃんと色々とお話をしてきたので少し変わってくれないでしょうか。私の顕現に合わせてスクラミアスちゃんが顕現できる環境も作りますので、介入する必要があるんです』
神様同士のあれこれが何かあったのかな……でもまぁ神様が顕現してお話を聞かせてくれるっていうのなら凄く手っ取り早くて凄く助かるし、ここはヌーリエ様に体を使ってもらうことにする。
『ありがとうございます』
ヌーリエ様の言葉の直後にイネちゃんと切り替わり、ヌーリエ様が表に出る。
イネちゃんの勇者の力ってヌーリエ様の寄り代としての役割もあるからだけれど、これに関してはまぁ乗っ取りとかそういうのを考えない神様だってことを認識できるし既に過去に何度もやってて感覚的にもむしろ優しいお母さんに抱っこされてるとかそんな感じなので安心できる……というかヌーリエ様が表に出ている状態でも、いつでもイネちゃんが表に戻れるようになってるのがヌーリエ様っていう神様の性質なんだと思う。
「何……雰囲気が……」
「ちょっと待っていてくださいね」
あ、今のはヌーリエ様の言葉ね。
この状態のイネちゃんはいつもイーアの意識がある場所に一緒にいるものだから結構状況を俯瞰して見られるんだよねぇ、今のヌーリエ様がほかの世界とチャンネル繋いで何かやって、ヒロ君の横の空間がものすごい光に包まれて白い大きな翼を持った綺麗な女性が姿を現して……。
「もう本当勘弁してください!私より上位のヌーリエ様に助けを求めたのに私の信者がヌーリエ様の使わしてくださった方々を全力で攻撃するのは勘弁してください!」
泣きながらヒロ君たちにまくし立てた。
「ちゃんと交信チャンネルを用意しないからですよ……それに、キハグレイスという世界はスクラミアスちゃんの実力からすると少々大きいですから。最初は練習としてどなたかの補助に回った方が……」
突然のことにヒロ君に治療詠術を使っていたヒーラーちゃんの動きが止まり、後を追ってきた残り2人も開いた口が塞がらないと言った感じに動きが止まった。
「スクラミアスって……流石に嘘、だよな」
「あ、信じてませんね?ほら私信者にもこんな感じなんですよ!私、やっぱ世界を管理する女神には向いていなかったんです……」
むしろその卑屈レベルの言動が原因なのではないだろうか。
「……いや、確かにスクラミアス様だよ」
「ヒロ!大丈夫だったんですね!」
「ロイのおかげでな……だけど今の話は本当なのかよ」
「はい。現在のキハグレイスの情勢では世界の楔たる神域の遺跡にもその手が伸びてしまいましたし……」
「ちょっと待ってくれ。その遺跡ってのはまさか……」
「はい、森の民に守ってもらっていた遺跡です。ヌーリエ様のおかげで守りは間に合いましたが……あの遺跡はキハグレイスの自然環境の制御を行っている場所ですので特定の誰かが所有するには危険すぎますから」
自然環境制御って、気象コントロールとか地殻変動とかかな……欲まみれの人が持ったら世界が滅びるタイプの奴だったんだなぁ、あの遺跡。
「まさか……では準男爵様は……」
「あの人間が何を考え、何を知っていたのかは私にもわかりません。ですが人にも魔軍にもあの遺跡は触れることは世界を滅ぼしてしまうかもというのは事実でした」
「状況などを把握するまで時間がありませんでしたので、大変申し訳なかったのですが最低でも守れる形にさせてもらいました」
「だからテメェが……」
「あぁダメです!今このお方は私より上位のお方なんです!」
「どういうことですかスクラミアス様……」
「今この方の肉体を寄り代として、この世界のヌーリエ様が顕現なさっているのです。ヌーリエ様の御力がなければ私もこうして顕現することはできませんでしたのですよ!」
「こいつがそんなにすげぇのかよ、そうは見えねぇんだが」
「ヌーリエ様は神々の休息地とも言えるこの地を管理なさっている凄い方なんですよ!どんな神でも包み込む包容力を持っている方なんです!」
あ、やたら褒められてることにヌーリエ様がまごまごしてる。
外からは分からないけれど、同居状態だとそういう機微がダイレクトに伝わってくるから案外面白かったり……というかあの剣士はやっぱ見た目だけで判断してるよなぁ、イネちゃん相手ですら実力差を認識できないレベルだったわけだし。
「だがなんで今になって出てきたんだよ、そんな大事な施設だったんなら……」
「ヒロ……あなたがキハグレイスに召喚される際に伝えたと思いますが、私は私が管理している世界に直接介入することができないのです。ヌーリエ様程の高位な方で、神々の協定の枠から外れている方であればその限りではありませんが、私は神の中では下位の神ですから……」
「他の世界に助けを求める神がいるかよ……」
ヒロ君の呟きにスクラミアスさ……んでいいか、なんというかイネちゃん辺りが様って呼ぶと凄く恐縮しちゃいそうだし、実際ヒロ君の呟きで凄くしょぼんとしちゃってるからかなり気弱な神様なんだなって思わざるを得ない。
『イネちゃんに任せて、大丈夫ですか?』
いやいやいや、こんな状態で主導権を返されても困りますよ?
『イネちゃんの言葉のナイフが、必要な時もあるんですよ』
ヌーリエ様にまで言葉がきついと言われてしまった……自覚したほうがいいんだろうなぁ、無意識でやっちゃうからアレだけど。
なんて思ってたらヌーリエ様が本当に体の主導権を戻してきて、ヌーリエ様パワーによる発光が消えたことでかなり気まずい感じになってるんですが……。
「……まぁ、実際そこにいるじゃん?しかもヒロ君、君に力をくれた女神なんでしょう?なんでそこまで否定するのさ」
「否定なんざしてない。だけど力を渡される時、俺は比類無き力となるでしょうとか言われてたんだぜ……」
「天狗の鼻を折りすぎちゃった?」
「そういうところだテメェ!」
ヒロ君が叫ぶものの、ダメージが残っているのか、直接戦って現在の実力差を理解してくれたのか……ともあれ殴りかかってきたりとかはなかったので、ひとまずは話し合いができるようにはなったのかな……正直なところ力を見せつけるってのは褒められたものではなかったんだろうけれど、運良く神様の顕現によって状況は好転して……いやこれイネちゃんの力はヌーリエ様の寄り代としてしか必要なかった奴だ。
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