「まぁ、確かにな。だが、力が湧き出しあふれているという点では違いがある。あの場所は神仏を癒やすほど力があるからな。話をもどすが、龍穴の力が閉ざされてしまったり龍脈が届かない場所であったりすれば、私は神前域に捕らわれてしまった連中と同じことになる。まぁ、そんなことは万物が生きているこの地上ではあり得ないし、神仏が許すはずがない。何より、全ての龍脈が閉ざされるということはこの世の終わりを示し、その時は香御堂こうみどうの龍穴自体がなくなっているだろうしな。そして、神仏が私を壊すことも、龍穴や龍脈を操れないようにすることもない。現世うつつよを楽しむための折角の器をむざむざと手放す神仏はいないからな。連中は我儘だから飽きるまでおもちゃは手放さない。私は無限数居る神仏のおもちゃだ。誰か数名が飽きたとしても、全員が飽きるなどどのくらいの年月が必要か」

「なるほど。でも、神前域に捕らわれてしまった人はかわいそうだ」

「それはお前の思う所であって本人がどう思うかは別だ。おそらく現世うつつよで人であった時の記憶も理も全てが白く無かったことにされる。懐かしいなんて言葉が出てくることは一切ないし、神前域に捕らわれた人間もどうしても現世うつつよに戻りたければ戻るだろ。生きていけないだけで戻ることは容易に出来るからな。己の感情で他者に対してどう思うかは自由だが、それが本人の感情とリンクしているかと言うと別問題だ。かわいそうなどという言葉は、本人が己をかわいそうだと思っていて同情してやる時に使えばいい。本人の感情が無いの所で使うものじゃない。何にしてもこいつが居てくれれば私は連中の相手をしなくてよくなるから調度いいんだ」

 大きく笑って良い物をもらったと喜ぶみことに、廉然漣れんぜんれんが眷属たちから「またパーティーがあればぜひ呼んでくれ」と言っていた事を伝えれば、みことは、今回は思わず百目鬼どめきに世話になってしまったな、礼に高級な香木でも送っておこうと再び大きく笑った。

「さて、さっさと帰って面倒を終わらせよう」

 玉を廉然漣れんぜんれんに見せながら言い、廉然漣れんぜんれんはその体を銀色に光らせて大きな狐へと変化する。

「随分喰ったもんだ。毛艶が良すぎるだろ」

「あら、そのおかげで乗って帰れるんだから良いでしょ」

 廉然漣れんぜんれんの背中に乗り、毛触りを確かめながら言ったみことに、少し得意げに言う廉然漣れんぜんれんは地面を軽く蹴った。

 空に浮かび上がった廉然漣れんぜんれんは上空の風をつかみ、その風の中疾走する。

 周りの景色はそれは速く流れていくのに、身体には全くと言っていいほど風圧を感じることなく、あっという間に香御堂こうみどうに到着した。

 みことの指示で廉然漣れんぜんれんは少し低空飛行しながら宿香御堂やどこうみどうの龍穴がある温泉部分の真上を通り、みことはその温泉に那岐なきを放り込む。

 トモカヅキが驚き、温泉の底床に那岐なきが激突してしまうと、慌てて廉然漣れんぜんれんの背中から下を覗き込めば大きな水音を立てて那岐なきはゆっくり深く温泉の中に吸い込まれるように入って行った。

 どうなっているのだろうと覗き込んだままのトモカヅキにみことは「死にはしない。ちゃんと道を開いてから落としている」と少々楽しそうに微笑みながら言う。

 温泉の龍穴はみことの意思により神域との門を開く。

 開いていない時は龍穴の力が溶けだしている単なる温泉だが、門が開けば神前域があり更にもう一つの門を開くと神域となっていた。

 驚きながらもほっと肩をなでおろしたトモカヅキと、アヤカシらしくないとトモカヅキの様子を見ながらみことは笑った。


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