「本当に神様って自分勝手だわ。そのせいであたしの数年は馬鹿を見て無駄にした気分よ。お父様が香御堂こうみどうに手を出さなくなった理由はそう言うことだったのね」

「貴様の父親は神仏が何であるのかをよく体験し、香御堂こうみどうの存在理由を知ったからな。己の分という物を理解してしまった面白味のない奴だ」

「なるほどね。お父様も教えてくれればよかったのよ。まぁ、聞いたところでお父様の言う事なんか聞かなかったでしょうけど」

「よく己を分かっているじゃないか」

「アンタに褒められても嬉しくないわ。結局、あたしは悪を気取っている馬鹿だったってことね。アンタの言う通り悪になりきれないなら初めからやらなければよかったかもしれない。そうね、決めた」

 瑞葉みずはの決めたという言葉にみことは巻き付いている弦に向かって息を吹きかけ、息がかかった場所から青い炎が現れて巻き付いた弦だけを燃やし尽くした。

 肌にまだ締め付けられた赤い痕が残る瑞葉みずはに「それで? 」とみことが聞くと、瑞葉みずはは振り返って片方の口角をゆっくり引き上げる。

「殺してくれていいわ」

 瑞葉みずはの答えに少々つまらなさそうに唇を尖らせたみことが、命乞いをしないのかと聞けば、瑞葉みずははその言葉を鼻息で吹き飛ばした。

「アンタが喜びそうなことをあたしがすると思う? 生か死かって選ばせれば、当然のように生にすがるとでも思っているんでしょ。泣いて生かしてくださいなんてやるぐらいなら死ぬ方がいいわ」

「貴様の父親は泣いてすがってきたんだがな」

「あれと一緒にしないでちょうだい。方法は何でも構わないわよ、苦しんで苦しんで死んで行くのも良いかもしれないし、楽に死のうなんて元から考えてないから。そうね、欲を言うなら死んだあとの肉体が綺麗な方がいいわ」

 開き直ったような態度ではなく、本当にそれでいいと全てを受け入れる様な物言いにみことは小さく声を漏らして笑った。

 そして暫く考えた後、くるりと踵を返して、未だうずくまったままの那岐なきを軽々と小脇に抱え部屋の入口の方へと歩いていく。

 瑞葉みずはは黙ってその様子を見ていたが、普通に帰ろうとするみことの後ろ姿に慌てて声をかけた。

「また聞かないから言わないつもり? あたしの殺し方位教えてくれてもいいでしょ。内緒で驚かそうっていうならそれでもいいけど。それに那岐なきをどうするつもりよ」

 背中から声がかけられ、足を止めたみことは楽しそうな笑顔を向けて瑞葉みずはに言う。

「貴様の希望通りにするのはしゃくだからな、止めることにした」

「はぁ?」

「だから、止めた。貴様は生かしてやることにした、感謝しろ。那岐なきというのか、中々気に入った。これは貰って行くぞ」

「生かしてやるとか、那岐なきを連れて行くとか、それって単なる嫌がらせじゃない」

「何だ喜ばしいだろ? 生きられるんだぞ。それに鬱陶しい弟の存在も無くなるんだ。この決定に納得してないなら条件を付ければ納得するか? 生かしてやる代わりに、香御堂こうみどうの周りに施した方陣を解除しろっていうのはどうだ。何重にも罠を仕掛けた面倒な方陣だからな、あれを解除となれば相当苦労する、生を与えてやると言う条件にぴったりだろう。私の決定に異論を唱え聞き分けのない事を言うなら、貴様から寿命を無くしてやることにしよう。共に寿命の無い、死ぬことのない『人』が出来あがると思うと私は楽しみだ」

 口角を引き上げ悪巧みを楽しむような微笑みに、瑞葉みずはは飽きれたような顔を向け溜息を吐き出した。

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