那岐なきが新しい父との同居を始めて数か月後、珍しく両親の屋敷の方にやってきた瑞葉みずはは、両親に向かって那岐なきを預かると申し出る。

 両親が忙しく誰も那岐なきをかまってやらないのはかわいそうだと、瑞葉みずはは自分の屋敷に連れて行くことを提案したのだ。

 突然の態度の変化に両親も迷ったが、かまってやれていないことは確かであり、瑞葉みずはの所にはアスラもいるから大丈夫だろうと預けることにした。

 那岐なきは不安になりながらも姉が自分を認めてくれたのだと喜んだが、屋敷に向かう道中で瑞葉みずははにっこりと微笑み「有効に使ってあげる」と那岐なきを自らの下僕としたのだ。

 瑞葉みずはの屋敷についた那岐なきは召使いの様な扱われ方をした。

 しかし、食事も洋服も部屋も与えられアスラの監視もあり生活に困ることはなく、どちらかと言えば様々な人物と仲良く暮らして、那岐なきはお坊ちゃまと扱われるよりもこちらの方がいいと思っていた。

 だが、その生活は瑞葉みずはの計画の始まりに過ぎなかった。

 徐々に体に力が入らなくなり、食事をきちんとしているにもかかわらず痩せ衰え、意識が朦朧もうろうとすることが多くなり、ベッドでの生活が主となってしまった。

 そんな生活が続き、瞼を動かすのすら困難な状況となった時、那岐なきの生活は一変する。

 那岐なきは冷たく暗い場所で瑞葉みずはの新たな術を試す実験動物となってしまったのだ。

 瑞葉みずはだけが知るその場所は湖の底に作られた実験室であり、当然屋敷の者もアスラも知らない場所。

 那岐なきが居なくなればアスラが騒ぎそうなものだが、瑞葉みずはに抜かりはなく、アスラや屋敷の者の記憶から那岐なきの存在は消されてしまっていた。

 繰り返し那岐なきには薬と術が施されていく。

 世間一般的には異常とも思える行為であったが、瑞葉みずはの中ではそれは大して異常な出来事ではなく、力を持たぬ者がそのような扱いを受けるのは当然であると言う考えであった。

 泣き叫び救いを求めていた那岐なきの自身の感情などという物は、繰り返される実験のせいでいつしかなくなり、瑞葉みずはは絶対的な存在の姉で逆らうことは許されないと言う思いだけとなる。

 那岐なきがそのように扱われてしまうようになった原因、それはただ力が無かった、それだけ。

 しかし百目鬼家どめきけに来てしまった那岐なきにとって力が無いと言う事実は、人として生きるすべての未来を失う事柄であり不幸な事柄でしかなかった。

 みことによって焼かれた仮面の下から出てきた顔は、繰り返された実験のせいで、すでにかつての面影はない。

 床に蹲りただただ、姉を求める那岐なき瑞葉みずはは鬱陶しいと言わんばかりの視線を送る。

「お姉様なんて呼ばないでよ、気持ちの悪い。足止めすら出来ないなんて流石は下等生物ね、最低だわ。力が無いからわざわざ力を宿した仮面を作ってやっているっていうのに、それを燃やされては力の無い物体が残るだけじゃない、意味がない。実験体としても成果を上げることが出来ない上に足止めも出来ない、仮面は燃やされる。本当に役立たずね」

 瑞葉みことの言い分にみことは炎を体から湧き立たせながらも、氷のような表情を浮かべ大きく足を運んで瑞葉みずはの元へ近づく。

 あたりに熱気が漂い地面からは陽炎が揺らめいていた。

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