那岐

 とたん、みことの立っている場所の床が抜け落とし穴が現れた。しかし、みことは失笑して碧色の風をまといながらその場に留まる。

「此処はアスレチックか忍者屋敷か? にしても、こんなに稚拙な仕掛けだと笑いしか出てこないな」

「ふん、落とし穴が目的じゃないわ。下僕、みことを足止めするのよ」

 瑞葉みずはが呟くと開いた穴から腕が伸びその場に浮かび上がっているみことの足首をつかむ。

 みことの体を這いずる様に上ってきた其れは木偶でくとは違った仮面をつけ、仮面の向こうにある瞳は金色に輝いていた。

「死ぬ気で止めなさい」

 口角を上げて下僕に言った瑞葉みずはは、アテーナー像の台座にある隠し扉を開いて中から知哉ともやの玉を取り出す。

 みことに取りつくように、瑞葉みずはの言葉を守ってその行く先を阻止している下僕に嘲る笑みを向けて、瑞葉みずはは隣の部屋に通じるドアの方へと歩き出した。

 その様子を何も言わずに眺めていたみことは、自分の体を這いながら不気味に腹の奥底が震える様な音を出してくる、瑞葉みずはが下僕と言ったそれの声聞いて瞳が紅く燃える。

「少々の痛めつけ程度で勘弁してやるかと思ったが、そうは行かなくなったか。貴様は中々醜いな」

 みことの髪の毛は紅く燃えながら逆立ち、一歩また一歩と空中を歩きみこと瑞葉みずはに近づいていった。

 碧の風はあっという間に紅い炎となってみことを包み込み、みことにしがみついていた其れの仮面はその炎によって燃やされ、瑞葉みずはの下僕は叫び声をあげながら床に落ちる。

 だが、その本体には火は付いておらず、焼けた仮面の下から出てきたのは痩せこけた髑髏の様な顔。

「お、姉、様」

 乾ききった口から出てきた言葉に瑞葉みずはは唇をかみしめて「役立たず」と罵った。

 痩せこけた体を小さくして地面にうずくまりすすり泣く、瑞葉みずはが下僕と呼んだそれは瑞葉みずはの異母弟、那岐なきだった。

 血の繋がりの無い弟であり、現在の母が連れてきた子供である。

 那岐なきの母親が瑞葉みずはの母になったのは、瑞葉みずはの母が病気で亡くなり四年が経った時。

 パートで働いていた所を瑞葉みずはの父親が見初めて妻に迎える。

 那岐なきにとっては初めての姉弟であり、これから姉と遊んだり楽しい毎日なのだろうと那岐なきは期待に満ちていた。

 瑞葉みずはに対しても「お姉ちゃん」と言っていたが、瑞葉みずはがその物言いを嫌ったため、何とか好かれようと言葉使いを直したり、態度も瑞葉みずはが好むようにと好かれるための努力した。

 だが、瑞葉みずははこの弟が好きでも嫌いでもなく、どちらかと言えばどうでもいい存在だった。

 何故なら特殊な能力が一片も無かったからだ。

 百目鬼どめきの血が入っていない、瑞葉みずはに言わせれば凡人の那岐なき

 少しは能力が目覚めるかと色々させてみたが全く能力が生まれることもなく、術を教えても使える術は無いうえに上達もしなかった。

 生まれ持った物が無いのであるから当然の事なのだが、瑞葉みずはの中では百目鬼どめきの名を名乗るにはふさわしくない、百目鬼どめきの汚点だと認識されていた。

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