(凄い、鹿に牛、鶴や蜂の神使まで。眷属がここまで集まることがあるだろうか。知哉ともやの体があるからまだ耐えられているがアヤカシの身であれば耐えると言うレベルの話じゃない。私みたいなアヤカシモノなど一瞬で存在が無くなってしまう)

 自分の横で膝から崩れる様に蹲っていくトモカヅキに向かって、みことは銀色の鎖がついた涙型の輝く石を目の前に差し出した。

「やはり、香をたきしめた衣服だけでは辛いか。これを付けておけ、随分楽になるはずだ」

 言われてネックレスを受け取った途端、締め付けられるような空気から解き放たれ、未だ毛が逆立つような感覚があるが動けぬほどではなくなる。

 ペンダントトップには多面にカットされた無色透明の石が月明かりを反射して美しく輝いていた。

「ダイヤモンド?」

「違うな、それはゴシェナイトだ。香を携帯することも可能だが、香だとアヤカシの部分で辛くなる可能性があるだろうし、石の方が持ち運びには向いている。それに石は香よりも直接的に力が発動するから今使うのが一番適しているんだ。それはベリルという石だがその色によって名前が変わる。緑になればエメラルドだが、無色透明のそれはゴシェナイトと言って陰陽のバランスを取り、弱ったチャクラを活性化させる。人間の場合は本人が信じなければ力を発揮してはくれないが、アヤカシであるお前の存在は神々と近しい場所にあるからな、信じる信じないは関係ない。これから更に神気は強くなる、私の傍に居れば居る程な。そのゴシェナイトにひびが入るようなら言え」

「ひびが入ったらどうなるんです」

「当然石の力は無くなる。それに石が耐えられないほどの神気が満ちていると言うことだ。下手をすればお前の存在は消し飛んでしまうぞ。いいな、必ず報告しろ。知哉ともやの肉体を持ったお前が居なくては知哉ともやの魂の場所がこの馬鹿みたいに広い屋敷のどこにあるのかが分からん」

 みことはそう言うと瞳を紅く輝かせ、それと同時に髪の毛が風もないのに浮き上がり、生きているかのようにうねり動く。夜の少し冷えた空気が徐々に暖まり始めみことの体の周囲に橙色の靄が立ち込めた。

「おぉ、みこと殿が降ろされた」

「いつ見ても素晴らしきかな」

「神々しい、宴にはなんとも良い光景じゃ」

 神使が口々に話し、その声を聞きながらため息を付いてみことはトモカヅキを見つめる。

「面倒だ、一気に行くぞ」

「は、はい」

廉然漣れんぜんれん、私は瑞葉みずは一筋で行くから、他の連中は好きに可愛がってやってくれ」

「言われなくてもそのつもりだし、皆食欲旺盛でさっきからうずうずしているわ。こっちの心配は全くしなくていいからね」

 廉然漣れんぜんれんに不気味な微笑みを返し、橙色の光をまとったみことはゆっくり右手を前に差し出す。

火之迦具土ひのかぐつち、なぎはらえ」

 静かに響いたみことの言葉に応える様に橙色の光はより一層朱く輝き、右手から白に近い紅色の炎が噴き出した。その炎はあたりの木々を燃やすことなく大きく頑丈な鉄の門扉だけを一瞬にして液体に変え、どろりと溶けた鉄は地面に落ちて再び硬く固まる。

(凄い、火の神を降ろしたんだ)

 溶けてなくなった鉄の門扉を見つめながらトモカヅキは隣から発せられてくる圧倒的な神気に中てられて、乾いてくる喉に唾液を送り込んだ。

 そこにある気配は人間ではなく明らかに神。

 これだけの神気をまとっていながら自らの意思を持ち、体が腐って行かない事実にただただ驚くしかない。

 橙色の光が和らぎ、髪の毛がその意思をなくしたかのように下りてくればみことは颯爽と自分が開けた門扉の穴から中へと入っていく。

 中からやってきた無数の木偶はみことが一睨みすれば道を譲り、己の分をわきまえているかのよう。

 しかし人間はそうはいかず不甲斐ない木偶に代ってと、その力を推し量ることもできない能力者がみことに襲い掛かってくる。

 だが、能力者たちはみことの体に触れることもできずにその場に崩れ落ちた。

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