夜になり、トモカヅキを連れてみことがやってきたのは百目鬼どめき瑞葉みずはが住んでいる屋敷。

 一体どうやって侵入するんだろうとトモカヅキが見ていると、みことは普通にインターホンを押して呼び鈴を鳴らした。

「み、みことさん、良いんですか鳴らして?」

「何を言っている、人の家にお邪魔するならばまず呼び鈴を鳴らすのが常識だろう。相手が非常識な馬鹿であるからと言って、こちら側も礼儀を欠いていいと思うのは大きな間違いだぞ」

 みことの言葉は確かにその通りではあるが、今はどちらかと言えば敵とも言える相手の場所に来ているのに、その常識をきちんと守るのはどうなのだろうとトモカヅキは微妙な表情になった。

 そんなトモカヅキの様子を口角を上げてずる賢く笑い見たみことは「どちらさまですか」と聞いてくるインターホンに向かって瑞葉みずはを出せと静かに言う。

瑞葉みずは様を? こんな夜中に一体どなたでしょうか。それにお嬢様は先日よりご予約の無い方の面会をお断りしていらっしゃいます。申し訳ございませんが日を改めて」

「そうか、だが折角遠いところ足を運んできたのだ。少し取り次いでみてはくれないか、さかきみことが来たと言えば寝ていてもきっと飛び起きよう」

さかきみこと様。でしたら尚更お帰りください。お嬢様は玉を渡すつもりはないと申しており、万一現れたら丁重にお帰りいただくようにと仰せつかっております」

 みことが名乗った途端、インタホン越しに聞こえてくる声は少々低くなり、さらに屋敷全体がざわついて殺気を放ち始める。

 暫くすれば屋敷の中や庭、湖から木の仮面をつけた木偶が現れ、さらにその集団の中には百目鬼どめきが祓い屋として雇っている、様々な種類の特別な力を持った連中も居て、ゆっくりと確実にみことに向かって歩いてきた。

「丁重に、か。中々礼儀を知らない連中だな。わざわざ訪ねてきた客を追い払おうなどと。なぁ、廉然漣れんぜんれん?」

 半分ほど閉じた瞳を門扉の横にある茂みに移し、みことの視線につられるようにトモカヅキがそちらに視線を移せば、先ほどまで茂みであり闇だと認識していた場所が揺れ動いた。

 ぞわりぞわりと揺れ動きながら前進し、無数の小さな光が現れ、月明かりに照らされて見えたのは狐の姿をした廉然漣れんぜんれんとその呼びかけに応えたそのほかの神使、眷属達。

 そして廉然漣れんぜんれんは「本当ね」とみことに返事をし、そのほかの者達は口々に喋り始める。

「今日は喰い放題だと聞いたが」

「酒は有るのだろうのぉ」

「流石は蟒蛇うわばみ殿、しかしながら酒があるとは聞いておりませんぞ」

「左様、酒は無いが香木と雑霊雑神霊力を好きなだけ喰うて良いと聞いとります」

「おぉ、世に言うバイキングというやつですな」

「それはいい、一度行ってみたかったのだが我は人成る実体をもっておらぬゆえ行けずにいたのだ」

「わしもじゃ、楽しみじゃのぉ」

 様々な言葉が飛び交っているが何処か軽い感じがして、まるで宴にでも来ているような気配。

 先ほどまでの闇に隠れ重々しい空気を出していた者達とは思えない会話が聞こえてくる。

 しかしトモカヅキは和やかに話している者達が放つ神気に気圧され、息苦しく両手を胸に持ってきて握りしめた。

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