来訪

 瑞葉みずはと別れた廉然漣れんぜんれんはそのまま百目鬼どめきの父親の元へ行き、数日後香御堂こうみどうを訪れる。

 朝早かったからか宿香御堂やどこうみどうみことの姿は無く、香御堂こうみどうの方に回れば手に書類を持って店内の香を確認するみことと、香の発送準備をする知哉ともやの姿があった。

 ガラス戸をあけて中に入り、知哉ともやをじっと見つめた廉然漣れんぜんれんは、以前はぼやけて見えた知哉ともやの輪郭がはっきりとしていることに気付き知哉ともやに聞いた。

「貴方、覚醒したのね、トモカヅキとして」

「あぁ、昨日な」

 びくりと体を揺らすトモカヅキに変わって、みこと廉然漣れんぜんれんの問いかけに店の在庫を確認しながら返事をする。

 トモカヅキは少し廉然漣れんぜんれんを避ける様に後ずさってみことの方を見た。

「大丈夫だ。そいつは見た目は房主ぼうずだが中身は神使、やたらと理由を聞かずに何でもかんでも無にはしないし、知哉ともやに手を出すなと言っているから何かされると言うことはない」

 それでも少々警戒して上目づかいで自分を見てくるトモカヅキに「あら、可愛い」と廉然漣れんぜんれんは笑顔を見せた。

「意外ね、私の事覚えてないの?」

「覚えてないわけじゃない、ただトモカヅキとして覚醒してしまったから力に敏感なんだ。アヤカシモノなら当然だろう。己の存在を滅する可能性がある力を恐れるのは」

「そりゃそうね。覚醒したってことは例の話をここでしても大丈夫って事かしら?」

「あぁ、構わん」

 店の上り框に腰かけてトモカヅキが入れてきたお茶をすすり、百目鬼どめきに会って来た事、さらにその後、百目鬼どめきの父親にも会ってきたことをみことに伝える。

「父親の方は問題なしよ。というより瑞葉みずはがやたらと力にのめり込んでいるのは父親が原因かもしれないわね、もの凄い腑抜けになっていたわ。昔はあんなに百目鬼どめきは特別な人間だってわめいていたくせに、見る影もないって感じで普通の仕事に精を出していたわよ。百目鬼どめきとして一応払い系の仕事もしているみたいだけど、父親の方はそれほど大規模にはやってないわね。そっち方面はもっぱら瑞葉みずはが仕切っているみたい。神子みこちゃん、百目鬼どめきの父親にお灸をすえすぎたんじゃないの?」

 みこと廉然漣れんぜんれんの言葉を、仕事の手を止めずに聞いていたが小さく肩を揺らし小刻みな笑いを漏らしながら呟いた。

「なんだ、あの程度でそれでは仕方がないな。だが、その分娘は中々元気じゃないか。トモカヅキもどうやら協力してくれるらしいからな、瑞葉みずはがやる気満々なのであればその誘いに乗ってやらなくてはな。今晩行くか」

「今日行くんですか?」

「出来るだけ早い方がいい。お前の話を聞く限り、知哉ともやの魂は持って後三日だからな」

「楽しいパーティーになりそうね。そうそう、瑞葉みずはの父親は瑞葉みずはのすること、瑞葉みずはに起こること全て知らぬ存ぜぬで通すみたいよ」

「そうか、本当に腑抜けになったものだ」

「それじゃ、私は準備があるから帰るわね。あとで会いましょ」

 廉然漣れんぜんれんみことの言葉にそう言って片目を瞑り手を振りながら、楽しそうに跳ね帰っていった。

 トモカヅキはみことにどうするのかと聞けば、仕事の手を止め、トモカヅキもぞっとするような冷たい笑顔を見せて言う。

「私を誰だと思っている? 神降しの神子みこ、ありとあらゆる国と時代、人間が神や仏と呼んで敬ってきたすべての物をこの身に宿すことが出来る神が作りし人だ」

「まさか最高神を降ろすんですか?」

「お前が言う最高神がどの最高神かはしらないが、するもしないもそれは相手次第だろう? ただやんわりとやるつもりはない。この機会にぜひとも、一片たりとも一生この地に手出しをしようとする気持ちを持たぬようになってもらいたいからな」

 いかにも何かを企んでいる笑顔を見せるみことにトモカヅキは恐ろしさもあってそれ以上聞かずに仕事に集中することにした。

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