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「アスラがね、教えてくれたのよ。百目鬼どめき瑞葉みずはが切り札と称して知哉ともや君の魂入りの玉を持っているんですって。ただ、瑞葉みずははあれが誰であるかは分かってないみたいで、あれをどうやら何かしらの神仏の魂玉こんぎょくだと思っているらしいわ。半年ほど前に手に入れて憑代よりしろ体質の久義ひさよしにそれを入れてなんていう神仏なのか見極め、仕えそうなら香御堂こうみどうの件にも使おうと思っていたらしいわよ」

「それでどうして知哉ともやだとわかったんだ?」

「もちろん見てきたからよ。私本人が行くのはまずいから子狐達に行かせてみたの。ただ、あの子たちは霊体だからね物を持ち運ぶことは出来ないから取ってくることは無理。それに妙なものの中に入っていて、遠くからだとそれが何であるか特定できないし、近くでやっと分かる程度の気配を出しているだけだったわ。見つからないように何かしらの術をかけているのかもね」

「それじゃ、知哉ともや百目鬼どめきの所に居るんだな」

「そういうこと。しかもとんだ勘違いをされてね。神仏と人間の魂の違いも分からないなんて笑っちゃうわよね」

 けらけらと声を立てて笑う廉然漣れんぜんれんとは違い、またしても面倒なことになったとみことは落胆する。

 知哉ともや本人をもとの体に戻すのも大変だというのに、その知哉ともやの本体が見つかった場所がよりにもよってあの百目鬼どめき瑞葉みずはの所。いっそのこと広い海の波間に漂ってくれていた方がずっとましだったとみことは頭を抱えた。

 悩むみこととは対照的に大神おおかみはならばことは簡単ではないかと言う。

「要はその百目鬼どめき瑞葉みずはとやらに玉を持ってこさせればいいではないか。幸いにも廉然漣れんぜんれん百目鬼どめきの手の者を捕まえていることだしな」

「それは無理だ。この地に百目鬼どめきの血を持った者を入れるわけにはいかない」

「あら、どうして? その方が手っ取り早いじゃない」

「なんだ、俗世をふらふらしている廉然漣れんぜんれんも気付いてないのか?」

 好きでふらついているわけじゃないわよと少々機嫌悪くなった廉然漣れんぜんれん大神おおかみが嘘つきめがと小さく言えば、悪態ついていた廉然漣れんぜんれんは頬を膨らませるだけで反論をしなくなる。

 廉然漣れんぜんれんの様子に大神おおかみは口角を少し上げてにやりと微笑み「主の動向、我が知らぬわけがなかろう」と廉然漣れんぜんれんに言い放った。

 不貞腐れる廉然漣れんぜんれんを自業自得だと言い放ってみことは続ける。

廉然漣れんぜんれん。この山には決して百目鬼どめきの血を持った、血があるモノを入れてはいけない」

百目鬼どめきの血があるってことは百目鬼どめきの血肉で出来ている人工生命体も入るのかしら?」

「当然だ。連中をこの地に入れた時点でこちら側の負けになる。私が周囲の連中、誰一人としてこの山に無断では入れないのも、どんなことがあっても結界を解かないのも、長年の子孫繁栄続けてきた百目鬼どめきの血の者が何処に居るか分からないからだ。そのものが百目鬼どめきと知らず、現世うつつよにて百目鬼どめきとの繫がりが全く無くとも、血がある限りは決して許されない。宿香御堂やどこうみどうにしても予約が入り、血返しを使って確認したうえで百目鬼どめきの者であれば断る客もいる」

「あら、久義ひさよしは良かったの?」

「血の者に限っての話だからな、多少百目鬼どめきと顔見知り、知り合いであるだけの者は問題ない。ただし、血の類のアイテムを持っていれば別だ。それは拒否する」

「そこまで徹底する理由は?」

 あまりの徹底ぶりに首をかしげながら廉然漣れんぜんれんが聞けば、みことは眉間に深い皺を作って答えた。

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