宇受賣うぶめの抹消は反対する神々を抑えて国造りの神が決定した重要事項。

 故にしばしの間は神々の間にも亀裂が生まれ修復するまで時間を要し、何度となく宇受賣うぶめを抹消したことが正しかったのかと神自身が自問自答する出来事であった。

 数千年後の今、結果的にそれが正しかったのだと証明されたわけだが、あまり気分のいいものではない。

 廉然漣れんぜんれんの主でもある宇迦之うかの御魂神みたまのかみはその時に反対をした一人であり、百目鬼どめきというよりも宇受賣うぶめを案じて常に見守り、廉然漣れんぜんれんに指示を送っていた。

 そうして今回、百目鬼どめき瑞葉みずはの所業に耐えかね、廉然漣れんぜんれんに事が大きくなる前に何とかせよと指示していたのだ。

「ところで廉然漣れんぜんれん、この山を獲得する第一段階が憑代よろしろとはどういうことだ。それにどうしてそれを知った」

「言ったでしょ、瑞葉の所の人工生命体を捕まえたって。アスラって名前でね、その名前のせいか瑞葉みずはが作ったにしては話の分かるやつで、こちらの事情も説明しつつあちらさんの目論見も教えてもらったの。瑞葉みずははどうやら久義ひさよしを利用してこの世界に別天津神ことあまつかみを降ろしてこの山に関する全ての事柄を都合よく運ぼうとしているらしいわよ」

別天津神ことあまつかみを降ろすとは。天地開闢てんちかいびゃくを繰り返そうというのか?」

 眉間の皺をさらに深く刻んだ大神おおかみが白い息を吐き出しながら言えば、廉然漣れんぜんれんもまたため息を付く。

「全てを百目鬼どめき瑞葉みずはの思うままの世界にしたくなければ山をよこしなさいとでも言うつもりだたんでしょ?」

「愚かな。別天津神ことあまつかみを降ろそうと思うこともそうだが、それを一人の憑代よりしろ体質の人間にやらせようとすることが間違っておる。別天津神ことあまつかみとは神一人を指す言葉ではない上に、一神の力は途方もなく強い」

「まぁ、初めは外国産の混沌の神を降ろそうとしていたらしいけど、それで自分もこの山も混沌に飲み込まれたら意味ないでしょ、それでやめて別天津神ことあまつかみにすることにしたらしいわ。ここは多種多様な神様が訪れるけど、なかでも日本の神々が現世うつつよに現れるために利用する回数が多いから、その方が香御堂こうみどうとも相性がいいと判断したんでしょうね。でもこの山の支配者は神子みこちゃんなわけで、その辺をどうするつもりなのかは全く見当つかないけど」

「馬鹿馬鹿しい、私とは違うただ単なる人の身に別天津神ことあまつかみなど降ろしてみろ、そいつの人としての人格は一気に破壊され砕け散るぞ」

「相手はあの百目鬼どめき瑞葉みずはよ。憑代よりしろがどうなろうと知ったことではないって考えて当然でしょ。彼女にとって大事なのは自分自身、それ以外のことはとるに足らないことだわ。とはいえ、神子みこちゃんじゃないんだから、百目鬼どめきごときが何かをしたところで既に隠れてしまっている神が現世うつつよに現れてくれるとは思えないんだけど。あの瑞葉みずはだからね、そこは何かしらの怪しい力を使うのかもしれないわ。もちろん、私が久義ひさよしを眷属に加えちゃったから手出しが出来なくなっているはずなんだけど、どうやら関係なしの無理やりにやっちゃおうって魂胆ね、山を取っちゃえばその後はどうとでもなるって考えているのかも」

「何とも面倒な連中だな」

 みこと大神おおかみは大きなため息をついて面倒なことが起こってしまったと考え込んでいたが、廉然漣れんぜんれんは問題はそこではないとさらに話を続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る