「して、その百目鬼どめきがどうした」

 大神おおかみが続きを聞こうとみことを見れば、みこと廉然漣れんぜんれんに視線を向ける。

 廉然漣れんぜんれんはその視線を受けて一度大きく息を吸い込んで、大神おおかみに牽制されたせいか少々丁寧な言葉使いで話し始めた。

「実はつい先日辻堂つじどう久義ひさよしという憑代よりしろ体質の青年を手に入れまして」

「ほぅ、あの者、結局貴様のところに下ったのか。聞きたいことがありそうだったので貴様の名前は出しておいたが。宇受賣うぶめが消去され、本来の我らの言葉を伝えるべき巫女みこが生まれなくなってしまった。故にどのような程度で自覚があろうとなかろうとその存在は貴重そのものだ」

「そう、貴重な存在だからこそ手に入れたいと思う者も多く、その一人が百目鬼どめきの現当主の娘、百目鬼どめき瑞葉みずは

「彼女は以前からこの香御堂こうみどうのある霊山を狙っていた。此処には龍穴もあり、彼女にとってはのどから手が出るほど欲しい物だろうな。だが、この場所は私が管理し私の所有となっている、手を出そうにも出すことが出来ない。私が作った結界があるから彼女や百目鬼どめきの血を濃く現している者はこの山には入れない、仕方なく彼女の木偶が何度か大金を持って山を登ってきたが門前払いしてやった。さぞかし悔しかっただろうよ」

 口角を引き上げ、まるでその事柄を楽しむ悪魔のように微笑んだみことに「本当に良い性格しているわね」と廉然漣れんぜんれんが言えば、私は私だからなとみことは言い返した。

「その百目鬼どめき瑞葉みずは神子みこちゃんのこの香御堂こうみどうと山を何とか手に入れようと、その第一段階として憑代よりしろとなる存在を探していたのよ。まぁ、それだけじゃなく憑代よりしろを手に入れれば自分の仕事にも有利だし便利だとも考えていたみたいだけど」

 廉然漣れんぜんれんの「仕事」という言葉を聞いてみことはそう言えばと廉然漣れんぜんれんに聞く。

瑞葉みずはの仕事ってなんだ?」

「ちょっと、神子みこちゃんそんなことも知らないで追っ払っていたの?」

「俗世がどうなろう、どうであろうと私の知ったことではない。私の役目はこの山と龍穴、香御堂こうみどうを護る事だからな」

神子みこちゃんらしいわね。瑞葉みずはは現代の陰陽師とか謳ってそこらじゅうのアヤカシや神を狩っているのよ。もともと百目鬼どめきはアヤカシ狩りだったけどそこに宇受賣うぶめの神の血が入ったからね、当然現世をさまよっている神も狩ることが出来るわ。そして狩ったそれ等の力を使って人工生命体や木偶を作っているのよ。ただ、百目鬼どめきの人間、全てができることじゃない。神から抹消された宇受賣うぶめの血であり、さらには何代も交尾を続けた事によってすでに人間へと変化しちゃっているんだもの。その中でも瑞葉みずはは別ね、交尾したことによって生まれて来た中にくすぶり続けた先祖の血が色濃く出ちゃっているから。といっても現世をさまよっている大したことのない神しか狩ることは出来ない。正当な神や眷属を狩ることは無理。出来るのは外れた神を狩る事だけ。それだけなら私達の手間を省いてくれているから問題視する必要はなかったけど、何事にも例外というものがある訳、それが憑代よりしろ憑代よりしろを手に入れて神を降ろし、それを使うって魂胆なんでしょうけど、まぁ、詳しい内容やら方法やらは本人たちに聞かないとわからないわね。あらゆる方法を会得している人道など持ち合わせていない残酷極まりない瑞葉みずはのすることだからそれはえげつないでしょうけどね」

「全く、故に我等はあの婚姻を反対したのだ。百目鬼どめき宇受賣うぶめと血を交える以前から善と悪の区別もつけずに狩りを行うことで問題有りとされていた。やはり早めに宇受賣うぶめを抹消処置しておいて正解であったな」

 眉間にしわを寄せ、唸るような低い声で大神おおかみは言った。

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