「一回当たりの重量は二五キロまで、それ以上は壊れるから乗せるな。壊れた場合は給料を使って直してもらうから覚悟しておけ。当然その耐荷重だから人間が使うことは出来ない。それと操作はここのペダルで行う、赤がゴンドラを上にあげ、青がゴンドラを下げる。ここ以外では操作が出来ない。ゴンドラが麓に着いたら荷物をおろして、最寄りの宅配業者まで運べば配送業務は終了だ」

「おろしてって、麓に誰か居るんですか?」

「居るわけがないだろう。お前が下ろしに行くんだよ」

「えっ、僕?」

「他に誰が居る。麓には小屋がある。ゴンドラはその小屋に降りるようになっているから、お前は普通にあちらの山道を使って麓に降り、小屋に行ってゴンドラから荷物をおろして宅配業者まで運ぶんだ」

「結局、山登りはやるのか」

「当然だろう。はじめに言ったはずだ、トレーニングで体力をつけろと。此処では麓で何かをするには山登りは必須項目だ。他に分からないことは?」

「えっと、一応ないです」

「一応な。まぁ、分からなくなったらまた聞け。自分で勝手に何かしようとするなよ」

 みこと知哉ともやにそう念押しして宿の仕事に戻って行き、それ以降、知哉ともやは梱包作業が終わればここに来て下へと荷物をおろし、荷物の出荷作業をしていた。

 そうして合間を見て香の勉強を、さらに毎日の発送の為にさまざまな、商品である香に触れていると、全くの素人であった知哉ともやでもそれがどんな香りを放つのか感じてみたくなる。

 ある日、作業を終えて麓から戻ってきた知哉ともやは店の中にある香を手に取り眺めながらふと、以前 みことに試すときは自分に一言言うように言われたことを思い出した。

「夕食の時にでも聞いてみようか……、でもなぁ」

 みことにはどの商品でも一個だけは試していいと言われていて、試しをするときは奥の小さな和室を使うよう言われている。

 そしてそれを行うときは必ずみことに了解を得なければならない。分かってはいるが、最近のみことは少々難しい顔をして体中から話しかけるなと言わんばかりの雰囲気を放っている為、知哉ともやから声を掛けるには相当な勇気が必要だった。

 香を試してみたいと思い立ったのは片付けに終わりが見えてきて、比較的ゆっくり出来るようになった時。もう少し待ってみれば言う機会が出来るかもしれないとずるずる先延ばしにして現在に至る。

「待っていても仕方ないのはわかっているんだけどなぁ、どうすればいいかなぁ。彼なら一体どうするだろう?」

 そう勝手に口が呟いて、知哉ともやは自分自身の放った言葉に首をかしげた。「彼ならどうするだろう」そう呟いておきながらその「彼」が誰のことを言っているのか、自分自身で皆目見当がつかなかったからだ。

「彼? 彼って……、誰のこと?」

 知哉ともやはほのかに香ってくる手にとった香をじっと見つめた。

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