「人が作らなきゃ誰が作っているっていうのよ。そりゃね、今は大量に生産するためとかで機械が作ってくれるけど、元々機械の工程を人間がやっていたのよ。作れないわけ無いでしょ」

 言われてみればその通りではあるのだが、なんだか馬鹿にされたようで気分を損ねていれば、みことが不機嫌そのものを顔に出して居間に現れる。

廉然漣れんぜんれん、お前こんなところで何をしている?」

「ちょっと報告に来ただけだったんだけど、知哉ともやくんが面白いからつい、ね」

「ほぉ、其れは其れはいい御身分だな。私も面白いものを見たくなってきた、今すぐ滅してやるから来い」

「……冗談がきっついわ~」

「そうか? 冗談じゃないからきつくはないだろう」

 にこやかなみことの表情とは違い、引きつった顔を見せながら廉然漣れんぜんれん知哉ともやに「また会えたら、会いましょう」と涙目で言い、その姿を見て知哉ともやは決してみことには逆らってはならないと改めて肝に銘じた。

 昼食を終え、梱包作業は空が赤く染まる間際に終わる。

 数多くの香の中から注文の品を探しだすのに時間がかるため、知哉ともやが一人でやれば一日作業になってしまうが、みことが言うには慣れれば半日も使わないとのこと。

 梱包した荷物を台車に乗せて持っていくるのは家の裏手。

 初めてこの仕事を任された時に大量の梱包品を持ってふもとまで、あの山道を歩いていくのかと知哉ともやが溜息をつくとみことが、

「そんな面倒な事、日々やってられるわけがないだろう」

 と言う。

 それなら誰かあの山道を取りに来るのかと思って、知哉ともやが閃いたとばかりに聞けば、

「そんな鬱陶しい事、日々やってくれる人が居るわけがないだろう」

 と返された。そして、荷物を台車に乗せてついて来いと言われるままについて行けば、今知哉ともやがいる家の裏手にやってきた。

「ここから下を見てみろ」

 みことに言われて覗き込めば、数件の家屋とその向こうには線路が見える。

「あれはここに来る時に使った電車?」

「そう、ここはこの山で唯一町の方に面している部分。荷物はここから下に送る」

「まさか、此処から投げ落とすとか?」

「するわけがないだろう、客の荷物をそんな風に扱うやつに商売をする資格はない。そこの崖の際の地面にある赤いペダルを踏んでみろ」

 みことに言われ、辺りを見回せば崖に真っ逆さまという位置にペダルを見つけ知哉ともやはそれを踏みこんだ。

 錆びた見た目に反して抵抗なくすんなりと踏み込め、途端、あたりにサイレンが鳴り響く。

 いったい何が起こるのかとビクビクする知哉ともやの姿を少し口の端を上げて微笑んだみことが斜め下を指させば、崖の下からゴンドラの様な物が上がってきた。

 知哉ともやが再び辺りを見渡すと、先ほどは気付かなかったが崖下と建物近くにある物見櫓の天井部分にロープが張られており、崖近くのペダルを踏むことでロープに設置されているゴンドラが上がってくる仕組みのようだった。

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