「それでも御主おぬしは神使か? なんと身勝手で自己主義な」

「あら、知らないの? この世で一番自分勝手で自己主義、気まぐれで気分屋なのは神仏様達なのよ、その次は神が作り上げた人間。そして私は神の使いですもの、神仏様達と同じで当然でしょ」

 満面の笑みで当然だと答える廉然漣れんぜんれんの姿に、アスラはぐっと瞳を閉じる。廉然漣れんぜんれんの言い分は酷く勝手。

 しかし、自分が滅びると言うことは何を意味するのかが分からないほどアスラは愚かではなかった。

 どんなでも自分にとっては主人であり、自らを生み出した御仁であると、アスラは廉然漣れんぜんれんの提案に乗ることにし、あたりの呪縛を解いた。

 灰色だった世界に色が戻れば風が吹き、周囲の止められていた時間が動き始める。

「賢い選択だと思うわよ、アスラ」

 足を前に運び、空中を歩いてアスラに近づいた廉然漣れんぜんれんは自分の尾から毛を数本引き抜き空中に飛ばした。

 毛は風を受けるほどに太く長く、そして数本が繋がり一本となってアスラの体に巻き付く。

 ロープのようになったその先を廉然漣れんぜんれんが握り、変化した体を元の人間姿に戻しながらゆっくりと下へ降りて行った。

 光の球体は廉然漣れんぜんれんの指の音と共に無くなり、二人は辻堂つじどうが眠っている部屋に入る。

 焼香の煙と香りにアスラが眉をひそめた。それを見た廉然漣れんぜんれんは「やっぱり瑞葉みずはが作っただけあるわ」と小さく笑う。

 自分達を見張るように辺りに満ちていた影たちの気配が無くなって部屋に廉然漣れんぜんれんがやってきたことで道祖土さいどはほっと肩をなでおろした。

「終わったんですね、廉然漣れんぜんれん様。というかそちらの方はどうしてここにいらっしゃるんです?」

 廉然漣れんぜんれんを見ればその後ろに明らかに瑞葉みずはの手の者がいて、道祖土さいどはまた廉然漣れんぜんれんが要らないことをしようとしているのではと、ほっとなでおろした肩を再びこわばらせた。

「そんな嫌そうにしないの。少しね、取引をしようと思って捕まってもらったのよ。ところで久義ひさよしはまだ起きないの?」

「だからやり過ぎだって言ったでしょ。この調子だと暫くは起きませんね、あちらでお茶でも入れて待ちましょうか。何より、お客様はこちらの香がお気に召さないよいうですから」

「そうね、本来は力が満ち溢れる香りのはずなんだけど、瑞葉みずはが作ったまがい物だから香りを嫌がっても仕方ないわね」

 道祖土さいどは大丈夫だと言う廉然漣れんぜんれんの言葉にそうですねと返事だけで同意を示しつつ、何かあってはいけないと用心の為に最後に一つまみの焼香をして部屋を後にし、廉然漣れんぜんれんにつれられるようにアスラも嫌な香りのする部屋から遠ざかった。

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