力を交流させたことで廉然漣れんぜんれんの中には辻堂つじどうの以前の記憶があったが、あまりの姿違いに廉然漣れんぜんれんは鼻息を一つ呆れた様につく。

「貴女のご主人様は余程久義ひさよしが欲しいのね。私の従いになった者を他の連中がどうにかしようなんて。自分がどうなるか分かっていないなんてことはないわよね? 分かった上で自らの力を全部解放させて奪って行こうっていうの、人工生命体」

「我が名はアスラ、そのような呼称で呼ぶでない」

 睨むように言ってくるアスラに、廉然漣れんぜんれんは口角を上げその隙間から空気を漏れ出させるようにして短く声を区切りだして笑った。

「あらあら偉そうね、たかが人工生命体のくせに。それにアスラですって? それはまた大層な名前を貰った物ね」

「何がおかしいか知らぬが、我は我に与えられし使命を全うする。辻堂つじどう久義ひさよしをこちらに渡してもらおう」

「姑息で卑怯な百目鬼どめきにしては珍しい堂々とした態度は褒めてあげるけど、久義ひさよしを渡すのはごめんよ。あれはね、もう私の物になったの。というより、もともとは誰のものでもなかったんだけど、百目鬼どめきが妙な手出しをするから久義ひさよし自身が身を守るために私の物になると決めたのよ。分かるわよね? アスラという名を持っているならばそれにどんな意味があるのか」

 試すように瞳を流してアスラを見下した廉然漣れんぜんれんの言葉に、アスラは「うむ」と言ったっきり無言となる。

 その様子を見ながらさらに廉然漣れんぜんれんは語りかけた。

「アスラという名を持ちながらも貴女はアスラ本体ではない。当然よ、人間如きが神を作り出すなど無理なこと。故に貴女は今揺れているはずよ、アスラの名と主人の命との間で」

御主おぬしは何事もお見通しか」

「これでも一応神使ですからね。貴女の主人は少々アスラを理解していないわね、何より百目鬼どめきは自分たちの役割をはき違えている上に道を外れてしまっているわ。面倒なことに、実はついさっきそれらをちゃんと元の導線に戻すようにって、私も私の主人から命令されてきたところなのよ。だからね、提案があるんだけど乗らない? 別に貴女が主人の命に従ってここで私と戦っても良いけれど、力の差ははっきりしているわよね? 言っておくけどまだ変化を全部解かずに残している私は今の状態が全力というわけじゃないわよ」

 言葉の最後で低く、威嚇をするような声色で言い放った廉然漣れんぜんれんはじんわりと体の周りに銀色の光を出し始める。それはアスラの体に纏わりついて嫌な気配となり体を締め付け始めた。

「再生が出来る身体とはいえ、その核を破壊してしまえば再生は出来ないわ。その核を消す事、それが何か貴女には分かるでしょ」

 どうするかと選択肢を用意しておきながら、その選択肢にはイエスしかないような態度を見せる廉然漣れんぜんれんにアスラは言う。

「我の答えるべき応えを一つしか用意しておらぬのであれば選ばせる必要はないのではないか?」

「いいえ、答えはちゃんと二つあるわよ。イエスかノーか、イエスであれば私の提案に乗る、ノーであればこの場で私に核ごと消される。ほら、ちゃんと二つでしょ。そしてそれを決めるのは私ではないわ。もちろん貴女に命令だけして自分は動こうとしない主人の瑞葉みずはでもない貴女自身。さぁ、どうする?」

 艶めかしくも厭らしく微笑む廉然漣れんぜんれんに、アスラは不愉快と言わんばかりの視線を向けた。

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