隣の部屋に行くと廉然漣れんぜんれんが食卓の椅子に腰かけてお茶をすすっている。

廉然漣れんぜんれん様、少々やり過ぎではありませんか? 自分の時でもあそこまでの拒否反応は出ませんでしたけれど」

 廉然漣れんぜんれんの斜め前の位置にある椅子に腰かけ、差し出されたお茶を飲みながら道祖土さいどが言えば廉然漣れんぜんれんはそれじゃ駄目だと首を横に振った。

久義ひさよしにはあきらと違ってちゃんと私の眷属だと誰が見てもわかるような力を渡しておかないと駄目なのよ」

憑代よりしろ体質だからですか? それにしてはあまりにも」

久義ひさよし神子みこちゃんとは天と地の差だけど普通の連中じゃなく端くれ神仏が降りることが出来るのよ。それがどんなに雑魚であろうと神は神、それに耐えうる体を持っているということになる。利用しようと思えばいくらでもできちゃうからね、人であれ雑魚であれそんなのに目を付けられないようにしっかり刻んでおかないと。どうやら大神殿おおかみどのは餌には興味あっても久義ひさよしの能力には興味ゼロだったみたいだし。今さっさと手早く刻んであげらえるのは私ぐらいでしょ。私としてもね、あの力を別のに利用されるのは困るのよ」

廉然漣れんぜんれん様でも困ることがあるんですね」

「当たり前でしょ。私は神じゃない、ただの神使。しかもその使いの内容がこの現世の混乱を事前に鎮める事なんて漠然としたものだから困ることだらけよ。だから混乱になる原因が目の前に在ったら出来るだけ早急に、混乱になる前に押さえておきたい物じゃない。憑代よりしろ体質は珍しい物件、百目鬼どめき瑞葉みずはじゃないけど私だって手元においておくと便利そうだと思うし、大神殿おおかみどのは違ったけど他の眷属だって欲しがるはずよ。でも今回はラッキーよね、災いごとの原因が自分から来てくれたんだから。あぁ、だからって浮かれて手加減してないってことはないわよ、加減してやっているし久義ひさよしはあの図体ですもの多少の事は大丈夫よ」

「神使ともあろう方がそんなことで良いんですかねぇ。ま、俗世に浸かり切っている廉然漣れんぜんれん様に言っても無駄でしょうけど。そう言えば、香御堂こうみどうに居たもう一人のあの方はよろしいのですか?」

 道祖土さいどの言葉に生意気ばかり言うと少し不貞腐れていた廉然漣れんぜんれんは、不貞腐れたまま道祖土さいどの質問に答えた。

「だってあれは神子みこちゃんの仕事だもん。私がとったら怒るだろうし、私には多分あの子を破壊するしか方法が無い。良く似ているように感じるけど憑代よりしろとはまた別で久義ひさよしとは違う。どうやら神子みこちゃんはあの子の破壊は望んでないみたいだし」

「しかし、可能なんですか? 彼を彼として取り戻す方法なんて」

「さぁ、私には分からないわ、神子みこちゃんがどうしようとしているのか……。ただ、あの子についている物をどうにかすればあの子の体が無くなる、かといってあれをどうにかしなければあの子自身ではない。身体だけを彼の家族に返すと言うのも難しいでしょうし、それが目的では無いような気がするのよね。本当にどうするつもりなのかしら」

 大きく息を吸って吐き出した廉然漣れんぜんれんは、肩と首を回して立ち上がり辺りを眺めた後、道祖土さいどを眺める。

 道祖土さいどもまた廉然漣れんぜんれんを見つめ返し深く頷いて席を立った。

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