瑞葉みずははアスラの入れた紅茶を手に取り喉へと送って深い息を吐く。

「アンタちょっとあたしを馬鹿にしすぎじゃない?」

「馬鹿になどしておらぬ。的確なアドバイスであろう。事実、現代のこの時間軸では香味堂こうみどうさかきが一番の憑代ではないか」

「あの女に手を出したら自分が危うくなることぐらい知ってるわよ。第一アレに手を出して手に入れられるならご先祖様達が苦労したりしないでしょ。出来ないからこそこの状況になっているんだし、だからこそあの男が欲しかったんじゃない。せっかく切り札になりそうなものも手に入れたのに」

 そう言いながら紅茶を置き、親指の爪を噛んで目の前のテーブルに置いてあるなつめが入る位の桐の箱を開けた。そこには丸い水晶玉のような球体があり、中ではゆらりゆらりと陽炎が存在する様に虹色の光が揺らめいている。その輝きを見つめながら瑞葉みずはは鼻息を球体に吹きかける様に吐いた。

香御堂こうみどうとそれが建っているあの山、二つを手に入れれば際限なく力は使えるし化身も傀儡も作り放題になるっていうのに、あの女、金を積んでも駄目、脅しても駄目だった。あの山に入りさえすれば何でも出来るのにあの山はあたしやアスラ、百目鬼どめきの血を持つ者が直接入ることが出来ないようになっている。なによりあの女の態度が気にくわないわ。山に入れないのだって絶対あの女が何かをしたからよ。せっかくの切り札になりそうなこれを手に入れ、辻堂つじどうという人材を見つけてやっとどうにかできると思えばアスラのせいで」

「お嬢は何か都合の悪い事柄が出てくればすぐに人のせいになさる、悪い癖ですぞ」

「何よ、今回は本当にアスラのせいじゃない。猶予とか与えちゃってさ、しかも六日も。好きなだけ影を連れて行っていいしどんな術を使っても構わないから、どうにかなさい命令よ」

 その言葉と共に瑞葉みずはが指を鳴らせば、屋敷中からざわりとした気配が漂い始め、アスラの体から緑色の光があふれた。

「しかし、よろしいのか? すでに眷属従いとなっている者に手を出しても」

香御堂こうみどうに喧嘩をふっかけるわけじゃないんだからかまいやしないわ。あの男を手に入れて神を降ろせばこっちのもんじゃない。廉然漣れんぜんれんが何を言ってこようと、連中ごと消滅させてやるわ。だからさっさとあの男を奪ってきなさい。さっきも言ったでしょ、命令よ」

 やれやれと言った態度を見せるアスラだったがその瞳は金色に輝く。

「御意、命令とあらば」

 金色の瞳を輝かせながら深く腰を折って瑞葉みずはに一礼したアスラはその場から一瞬にして消え失せた。

静かになった空間で瑞葉みずははもう一度紅茶を口に運びながら眩く虹色に揺れる球体を見つめる。

「本当に忌々しい、大嫌いだわ」

 瑞葉みずはは苦々しく眉をひそめて唇をかみしめた。

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