「契約と言っても自分らが日常行っている契約書みたいな細かい甲乙丙的な条項があるわけじゃないんだよ。今まで通りの生活を続けても良いし、今までの生活を捨てて廉然漣れんぜんれん様の傍に仕えても良い、それは個人の自由。自分は前者で廉然漣れんぜんれん様の弟子って形になっているけど下働きとか一緒に住んだりとかはしてない、今まで通りで自由にやっているよ。力の使い方は廉然漣れんぜんれん様の源の一部を分け与えてもらっているから体が自然と分かってくれるようになる。だから細かい説明は不要だし、基本的に守らなきゃいけないのは自分は狐である廉然漣れんぜんれん様の眷属従いになったと言う事で、他の眷属の仲間になる事や廉然漣れんぜんれん様に逆らう事は駄目。ただし、気分屋だけど廉然漣れんぜんれん様は無理強いはしない人だから今までの生活を続けるならある程度の融通はきいてくれるよ。明日すぐに来い! って言われても仕事があるからって言えば日付はずらしてくれるしね。そう言う面では俗世に浸かりきっている廉然漣れんぜんれん様は良いよ、他の眷属は絶対服従的だからさ」

「だ、だからって」

 じりじりと自分に乗りかかろうとするように近づいてくる廉然漣れんぜんれんから逃げる辻堂つじどうの後頭部が等々壁につき逃げ場が無くなる。

 しかしそれでもなんかほかに方法があるだろうと抵抗を見せる辻堂つじどうの嫌がり方に少々気分を慨し始めた廉然漣れんぜんれんの体からは白い湯気のような靄が立ち始め、それを見た道祖土さいどはやれやれと言った風にため息を吐いた。

「あのねぇ、辻堂つじどう。これは儀式のようなものであって、そこに性的な意味は含まれないんだよ。幾ら君が初めてのキスだと言ってもそこまで怖がる必要はないだろ?」

 道祖土さいどの言葉にぴくりと耳を動かした廉然漣れんぜんれんの体から湯気が消え、怪しげな笑みで鼻息で笑うようにして廉然漣れんぜんれんは尻のあたりから数本の尻尾を出して辻堂に巻き付けた。

「あら、あちらの方だけじゃなくキスも初めてなの?」

 体に巻き付く尻尾は辻堂つじどうの体の自由を奪い、力自慢の辻堂つじどうがどんなに筋肉に力を込めてもびくともしない。

「おい! 何が性的な意味がないだ! こいつの目は明らかに」

「あぁ、ごめん辻堂つじどう廉然漣れんぜんれん様は一番が好きなんだよ。辻堂つじどうの初めてってところに食付いちゃったみたい。やる気満々になった廉然漣れんぜんれん様は誰にも止められないんだ。あきらめて」

「お前、それを知っていてわざと教えやがったなぁ!」

「さぁ、何の事かなぁ。そんなに心配しなくても大丈夫だよ辻堂つじどう、なんせ自分も通った道だから」

 道祖土さいどはふっと何かを諦めたような悟っているような表情をしたかと思えば慈愛に満ちた瞳で微笑む。

 辻堂つじどうは目の前に迫ってきた艶めかしく本来なら喜ばしい光景に寒気を覚えながらされるがまま唇をふさがれてしまった。

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