第10話 パイプオルガンが奏でるラスボス戦BGM

 戦刃竜気は強大な力を発揮するが、同時に繊細な制御も必要となる。


 その出力は俺の感情の変化に大きく左右され、時に苦労して作ったログハウスをぶっ飛ばし、一張羅いっちょうらさえも爆散させてしまう事がある。


 そして……。


 中身は宇宙のかなたにぶん投げるとして、外側だけは文句の付けようがない美少女に! ほっぺにキスをされた場合!


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「え? キャアアア!!」


 戦刃竜気は制御不能となるのである。

 俺は全裸マッパになり、フランシスもその輝く程の裸体をさらす事になってしまった。


「なあ、フランシス」

「あ、あ、あ、あ」


 顔中真っ赤で目がぐるぐる。

 さっきまでのクールな表情は欠片も残っていなかった。


―― けど、今はそれじゃ駄目なんだ。


「おまえってさ、偽乳パッドだったんだな」


 バチコンッ!!


「ぶっ殺すわよあんた!!」


 右頬をぶっ叩かれた。

 腰の入った良い左だったよ。


「お前さ、いつか天下を取れるぜ」

「こんな時にふざけないで下さい。ここに居る者達は後で処刑するとして、今はリトルブルー公国へ急ぎましょう」


 フランシスの声に理性が戻っていた。


「一応、事前に覚悟は出来てるか聞いたぞ?」

「忘れましたわ、そんな事」


 まあ、いい。

 ほんとに、もうどうでもいい。


「じゃあ追加だ。覚悟を決めろ」

「何ですか。また破廉恥はれんちな事でもするんですか?」


 俺は左手で正面を指さした。

 フランシスの顔がそっちを向き、そして秒で真っ青になった。


「な、エ、エディス、さん?」


 表情の抜け落ちた、まるで人形のようにたたずむエディスがいた。

 瞳孔は開き、口から小さな鈴の音のような声で、絶えず「浮気者は殺す浮気者は殺す浮気者は殺す浮気者は殺す浮気者は殺す浮気者は殺す浮気者は殺す」と呟いている。


 そして、冷たい、魔王を凌駕りょうがする程の!死を覚悟するほどの殺気!!


「ルユザ!」

『グオオオオオオオッ!』


 エディスの声と共に大広間の天井が消し飛び、天空を背に翼を広げる黄金の竜が姿を現した!


「出でよ聖剣【デスエンド】」


 エディスの右手に神々しい光が集まり、真っ赤な聖剣となった。


「ねえ、ロイ」


 エディスが跳躍し、ルユザの背中に着地する。


―― 黄金の竜の背に立つ、聖剣を握る勇者。


 それはまるで終末を描いた、荘厳そうごんな宗教画のようであった。


「覚悟はいい?」

「ふっ」


 土下座したらエディスは許してくれるかな?

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俺は勇者よりも強い男 山雲 青以(やまくも あおい) @gakuha

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