第9話 ナイスボート

淑女的しゅくじょてきパンチ」

「「ぐわ!?」」


 俺のワンパンで数人の兵士が吹っ飛んだ。


「淑女的キック」

「「ぐは!?」」


 俺のキックの風圧で騎士達が吹っ飛んだ。


「淑女的ウインク!」

「「オゲロ!!」」


 俺のウインクで残りが全滅した!


「く、くそ。この化け物め」


 ジルベール王子だけが剣を床に突き立て、それを支えにして持ちこたえている。

 足はもうプルップルだが。


「お――ほっほっほ! これが淑女の力! 偉大なる我が主、フランシス王女から授かった力ですわ!」


 ジルベール王子の視線が横のフランシスへ移り、フランシスが全力で首をブンブンと横に振っていた。


 くっくっく。

 このままだと俺が主犯にされるからな。

 フランシスが主犯だと、ジルベール王子達にはきっちりと認識してもらわなければなるまい!


「フ、フランシス。お前はそこまで落ちたのか。この下郎に、自らのモゴモゴを与えるなど! 恥を知れ!」

「ふ、ふんっ。大いなる理想の為には必要な投資ですわ!」


 フランシスの顔がめっちゃ赤い。


「王子!」「王子!」「王子!」「王子!」「王子!」「王子!」「王子!」と、続々新手が現れ切りが無い。

 また兵士に混じって武装した学生も加わり大広間は密集状態。


 秘密裏に城を抜ける計画は失敗しており、もう普通に空を飛んで脱出すべきだろう。


 だが、その為には戦刃竜気を解放しなければならない。

 

 チラリ、とフランシスを見る。


「……何か手があるのですね」

「ああ、察しが良いな。しかし大きなリスクがあってね、躊躇ためらっている」


 フッとフランシスが笑う。

 透徹とうてつした、全てお見通しだという目をしていた。


「あなたらしくありませんわね。構いません。使いなさい」

「いいのか?」


「ええ。あなたと会ったのはついさっきですが、あなたの事はそれなりにわかったつもりです。バカで無遠慮で恥知らずで無学」

「……おい」


「ですが、悪い人ではないようです」


 楽しそうな、穏やかなフランシスの声。

 それが俺の体の奥に染み込んでいった。


「いくぞ。覚悟はいいか」


 フランシスが頷き、俺は淑女モードを解除した。

 右手でフランシスを抱え、高めに高めた体内のエネルギーを解放しようとした時だった。


「ロイ!」

「エディス?」


 広間にエディスの声が響き、兵士達の上空を少女の影がけた。


「何だ?」「勇者様だ!」「くそ、パンツ見えなかった!」という兵士達の騒めきを背に、エディスが俺の目の間に着地した。


「エディス君ここは危険だ! 下がりたまえ!」

「王子、ちょっと黙ってください」


 極大の殺気を乗せた視線を向けられ、ジルベールが黙る。俺も黙る。

 エディス、マジ怖え。


「ロイ、私ね、あなたに伝えたい事があるの!」


 冷徹れいてつ殺戮さつりくマシ―ンのような表情から一転、可憐で花のように美しい、頬染めたエディスが近付いて来た。


 俺の心臓が早鐘はやがねを打ち、背中を冷たい汗が流れ落ちる。


 これが、恋?


「あなた今、ゾンビみたいな顔ですわよ」


 右から何か聞こえたが気にしない。


「エディス、俺も」


 エディスへ左手を伸ばす。


「ロイ、私ね」


 あと一歩でエディスに手が届くかという瞬間、目の前を影が覆った。

 そして右頬に、少しだけ熱い、何かが触れた。


「ごめんなさいねエディスさん。この人はもう、私のものなの」

「え?」


 フランシスが俺の右頬にキスをしたのだ。

 それを認識した瞬間、俺の中の戦刃竜気が爆発した。



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