劉義真4 艱難を知らんか 

のろのろとしていた撤退に、

あっという間に追いつく赫連勃勃かくれんぼつぼつ軍。

その兵力は数万余。


しんがりを務める蒯恩かいおん

青泥せいでいで赫連勃勃軍を防ごうとしたが、

あっという間に粉砕され、

諸将や事務官の王賜おうしらは

捕らえられてしまった。


劉義真りゅうぎしんは前の方にいたため、

しんがりの状況を聞き、数百人と共に

全力での逃走を開始。

やがて日が暮れ、赫連勃勃は

いったん追跡を諦めた。


大慌てで逃げる中、劉義真は

まわりのものとはぐれてしまった。

どうしようもなくなり、

単身草むらの中に身を隠す。


劉義真の近衛隊に属する武将、

段宏だんこうはひとり馬を飛ばし、

みちみちで劉義真を呼び、探す。

段宏の声に気付くと、劉義真、

草むらから出て、姿を現した。


「その声は、我が中兵、

 段参軍ではないか?」


探し求めていた主と出会えた!

段宏は大いに喜び、

劉義真を馬に同乗させ、帰還した。

帰途にて劉義真は、段宏に言う。


「今日のできごとは、

 まことに見通しが甘かった、

 と申すより他ない。


 だが男児たる者、

 これらの苦境を経ずして、

 どうして苦難に立ち向かう

 強さを得られようか?」



一方の、彭城ほうじょう。劉裕は青泥で

劉義真軍が大敗し、

しかも劉義真の安否が不明と聞き、

使者がやってくるごとに

状況を確認していた。

しかし、帰ってくる答えは、全て

「闇夜のことでした、

 状況はわかりません」

でしかない。


もう劉裕、激怒である。

しまいにはすぐにも

北伐をするぞとか言いだす。

謝晦は必死になって止めたが、

まるで聞く耳も持たない。


そこに、段宏が劉義真の

保護に成功した、という知らせ。

ようやく劉裕は収まった。




賊追兵果至,騎數萬匹。輔國將軍蒯恩斷後不能禁,至青泥,後軍大敗,諸將及府功曹王賜悉被俘虜。義真在前,故得與數百人奔散,日暮,虜不復窮追。義真與左右相失,獨逃草中。中兵參軍段宏單騎追尋,緣道叫喚,義真識其聲,出就之,曰:「君非段中兵邪?身在此。」宏大喜,負之而歸。義真謂宏曰:「今日之事,誠無算略。然丈夫不經此,何以知艱難。」初,高祖聞青泥敗,未得義真審問,有前至者訪之,並云「闇夜奔敗,無以知存亡」。高祖怒甚,剋日北伐,謝晦諫不從。及得宏啟事,知義真已免,乃止。


賊の追兵は果して至り、騎は數萬匹なり。輔國將軍の蒯恩は後を斷つも禁ず能わず、青泥に至り、後軍は大敗し、諸將、及び府功曹の王賜は悉く俘虜なるを被る。義真は前に在り、故に數百人と奔散せるを得、日の暮るるに、虜は復た窮追せず。義真は左右と相い失い、獨り草中に逃る。中兵參軍の段宏は單騎にて追尋し、緣道にて叫喚せば、義真は其の聲を識り、出でて之に就き、曰く:「君は段中兵に非ずや? 身は此に在り」と。宏は大喜し、之を負いて歸る。義真は宏に謂いて曰く:「今日の事、誠に算略無かりき。然れど丈夫は此を經ずして、何ぞを以て艱難を知らんか?」と。初、高祖は青泥の敗を聞き、未だ義真が審問を得ざれば、前み至りたる者有らば之を訪ぬに、並べて云えらく「闇夜に奔敗し、以て存亡を知りたる無し」と。高祖が怒りは甚だしく、剋日に北伐せんとせば、謝晦の諫ぜるも從わず。宏の啟事を得、義真の已に免ぜるを知るに及び、乃ち止む。


(宋書61-4_衰亡)




この辺は判断が難しいなぁ。わずか十三歳のガキの、地方駐屯で、本当にそこまでの大権を持たせられますか? ってゆう。どうも劉義真への責任転嫁の報告が甚だしいんじゃなかろうか。大体劉義真が何しようが「他の奴らも財宝や子女を惜しんでる」わけだから、劉義真の差配なんてどんだけの権限なんですか。


が、それはそれとして史書記述。劉義真の責任、ということにはしておく方がいいのかもしれない。ただ、そうすると今度は別のアレポイントが生じるのよね。


丈夫は此を經ずして、何ぞを以て艱難を知らんか?


えっお前それ言っちゃうの? 「統治の責任者が責任を負わずして圧倒的成長のためのハイ意識コメント」? 普通に考えて首切られること想定するだろこれ。


この後劉義真が大したお咎めも受けてないことから、やっぱり劉義真は王脩おうしゅうの人質みたいな立場だったんじゃないかなあ。そうすると上掲コメントもまぁ、そんなもんかな? って思うし。


沈約しんやくの記述だし、どこをどう「実際に起こった事跡か」検討するなんてのは、ほぼ考える意味がない。そこには正しいこともあり、正しくないこともあるだろう。そして、これらを裏付けられるだけの材料は、ほぼ残っていない。くそっ、お前ら紙なんぞに書かず竹簡木簡に残しとけよクソが……。




ところで南史を見たらおいしい情報があったので追記しておきますね。劉義真が伴の者とはぐれたため身一つでくさむらに隠れていたあと、段宏に見出されてからのやり取り。


曰:「君非段中兵邪?身在此。行矣,必不兩全,可刎身頭以南,使家公望絕。」宏泣曰:「死生共之,下官不忍。」


「段殿ではないか。私はここにいる。だが、私のことはいい。私を連れてではあなたも助かるまい。この首を刎ね、頭さえ持って帰ってくれればよい。父上のはかりごとは断たれたのだ」

段宏は泣きながら言う。

「死生を共にできぬことに、拙者は堪え切れません!」


あらやだ、劉義真さん男前。いやただのポーズかもしれないですけど。

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