匈奴（きょうど）の赫連勃勃（かくれんぼつぼつ）、襲来。

ご存知の通り、大怪獣の襲来に際し、

王鎮悪（おうちんあく）を殺した沈田子（しんでんし）を王脩（おうしゅう）が殺した。

劉義真（りゅうぎしん）は幼かったため、

節度と言うものをよくわかっておらず、

側使え達にばかすか褒美をやっていた。

王脩はそう言う劉義真の無軌道を叱り、

与える褒美の量を減らさせていた。

このことを、側仕え達は

常々恨みに思っていた。

なので王脩について、劉義真に囁く。

「王鎮悪は反逆しようとしました。

　だから、沈田子は殺しました。

　その沈田子を、王脩が殺した。

　これがどういう意味か、

　……賢明なる将軍ならば、

　お分かりでありましょう？」

みごとにそそのかされた劉義真、

側仕えの劉乞（りゅうこつ）らに、王脩を殺させた。

なお王脩は字を叔治（しゅくち）という。

京兆（けいちょう）郡灞城（はじょう）県の生まれだ。

桓玄（かんげん）が権勢をふるっていた頃、

その下に赴き、面会を請うた。

王脩の人となりを見た桓玄は、

「貴方は、平時であれば吏部郎を

　務め上げられたであろうにな」

と語っている。

そんな王脩が、殺された。

ガッタガタの上層部を信頼するほど、

下の者は愚昧でもない。

指示系統はデタラメとなった。

劉裕（りゅうゆう）は朱齢石（しゅれいせき）を派遣し、

劉義真の代わりに長安（ちょうあん）エリアを

統治させようと考えた。

そして劉義真については、

取るものもとりあえず、

全速力で帰って来い、と命じた。

が、劉義真、及び配下将。

財宝や子女をこれでもかと引き連れる。

当然足並みは鈍い。

そこを追いかけてくる赫連勃勃の軍。

当然だが、騎兵隊だ。

この事態にキレるのが、将軍の傅弘之（ふこうし）。

「劉裕様は何と仰っておりましたか？

　全速力で進め、匈奴に追われ、

　捕まれば最悪だ、でしたよね？

　どの将もこれでもかと

　荷物を抱えているせいで、まるで

　進んでいないではありませんか！

　これでは、匈奴に捕まえてくれと

　言っているようなものです！

　どうか荷を捨て、

　身を軽くなさってください！

　そうすれば、逃れられるのです！」

が、誰も耳を貸さなかった。

佛佛虜寇逼交至、沈田子既殺王鎮惡，王脩又殺田子。義真年少，賜與左右不節，脩常裁減之，左右並怨。因是白義真曰：「鎮惡欲反，故田子殺之。脩今殺田子，是又欲反也。」義真乃使左右劉乞等殺脩。脩字叔治，京兆灞城人也。初南渡見桓玄，玄知之，謂曰：「君平世吏部郎才。」脩既死，人情離駭，無相統一。高祖遣將軍朱齡石替義真鎮關中，使義真輕兵疾歸。諸將競斂財貨，多載子女，方軌徐行。虜追騎且至，建威將軍傅弘之曰：「公處分亟進，恐虜追擊人也。今多將輜重，一日行不過十里，虜騎追至，何以待之。宜棄車輕行，乃可以免。」不從。

佛佛虜が寇逼の交至せば、沈田子は既に王鎮惡を殺し、王脩は又た田子を殺す。義真は年少にして、左右に與を賜うるに節さず、脩は常に裁きて之を減ぜしむらば、左右は並べて怨む。是に因りて義真に白して曰く：「鎮惡は反せるを欲さば、故に田子は之を殺したり。脩の今、田子を殺したるは、是れ又た反せるを欲したるなり」と。義真は乃ち左右の劉乞らをして脩を殺さしむ。脩は字を叔治、京兆の灞城の人なり。初に南渡し桓玄に見え、玄は之を知り、謂いて曰く：「君は平世の吏部郎が才なり」と。脩の既に死したるに、人情は離駭し、相い統一せる無し。高祖は將軍の朱齡石を遣りて義真に替え關中を鎮ぜしめ、義真をして輕兵にて疾きに歸さしめんとす。諸將は競い財貨を斂め、多く子女を載さば、方軌は徐きに行く。虜は騎にて追いて且つ至り、建威將軍の傅弘之は曰く：「公が處分は亟めて進み、虜の追いて人を擊ちたるを恐るるなり。今、多きの將の輜重が行は一日に十里を過ぎざれば、虜騎の追の至るに、何ぞ以て之を待たんか。宜しく車を棄て輕行さば、乃ち以て免るべし」と。從わず。

（宋書61-2_紕漏）

傅弘之の諫言が残っているってことは、これ実話も実話だったのかなぁ……。ここまで劉裕軍って、考えてみれば「強い攻め手を繰り出してくる胡族」とあんま遭遇してないっぽい？　まぁ南燕軍は強かっただろうけど先鋒同士しか戦ってないだろうから、長安に駐屯するような感じの人びとが匈奴の軍勢の脅威を知らないのもやむを得ないのかな。それにしても平和ボケに過ぎるというか。

まぁ、何を考えたところで、ここで劉裕軍が見せたのは、一言で言えば醜態。どうも劉裕は司馬休之（しばきゅうし）戦以降、やっぱり判断が控えめに言ってもクソですよね。これをどう評価するべきか。