第1章 ヤンキー百合 10
体育館裏で荒木に頭突きされた。理由がまるで分らなかった。なんで?と片膝をつく私に荒木は告げた。じゃあな。背を向けて遠ざかる彼女を追いたいのに身体が動かない。足が言うことを聞かないどころか足自体がなくなったような感覚。そこでようやく気付いた。
これは夢だ。
微睡みを拓くべく開けた目に映る天井。見慣れてきた、清潔の白に交差する黒っぽい木材。ベッドから手を伸ばしても触れるはずもない。触る必要もない。
朝の静寂に体を起こすと、神の戯れのように同時に千恵が寝ぼけ眼で上体を起こした。お互い顔が合った。千恵はしかめ面で瞬きを繰り返し、「おはよう」と呻いた。「おはよう」と返すと、千恵は胴を掴まれた芋虫がうねるように上体を回し、じゃなかったと呟き、私に目を据える。「ごきげんよう、百合子」いつもと同じ、元気の良い千恵の声だった。
「ごきげんよう、ちーちゃん」と私も微笑みで返した。荒木に頭突きされた暗澹も朝の光に溶けた。
朝食を食べ寮を出る。広大な寮の敷地を歩きながら千恵は演劇部の話をする。新一年生の幼さ、始まりのそわそわ、口煩い先輩と優しい先輩の思考回路の差、等々。
「ちーちゃんはさ」タイミングが良いので訊いてみる。「先輩ともめて部を辞めたとして、戻れるなら戻りたいと思う? それとも興味失くしちゃう?」
「うーん。私は」千恵はひょっとこのように口を尖らせる。「そうだなあ、戻れるなら戻るかなあ。演劇は一人じゃできないから、まあ一人芝居もあるけどさ、やっぱり大勢でやるのが基本だから、嫌な先輩がいてもある程度割り切って、もう一度部に戻ると思うよ」そもそも辞めないかな、とつるりとした顔で。
「因みに、結果的に部を追い出した先輩の立場に立ったら、辞めた人に戻ってきて欲しいと思う? もう関わりたくないなって嫌悪すると思う?」
千恵はよく分からんと顔に表し、それでも眉間に皺寄せ考える。「どうかなあ。やっぱあんまり顔合わせたくないんじゃない?」
「だよねえ」吐いた息は透明で、何が見えたわけでもない。
あ、と千恵は言って、口元に手で戸を立てて「もしかして、荒木さん絡み?」と囁く。「まあ、そんな感じ」と答えると、千恵はさより女史に指弾された俗物的好奇心、世に謂うミーハーを面に表し、しかしそういう態度は良くないと葛藤したのか無理やり意識の下に押し込め、「困ったらお姉さまだけじゃなく私も頼ってね」と友人の鑑のような台詞を述べ、そして「ほら、恋心を実地に学ぶと演技に生かせそうじゃない?」結局下心を晒してしまう。「ちーちゃんのそういうところ、嫌いじゃないよ」と言うと千恵は「褒めてるの? 貶してるの? どっち?」と膨れ面を見せて、緊張を作っておいてからふっと力を抜いて笑う。私もつられて笑む。
「あのさ」と千恵に呼びかける。「清水綾香と武本さゆみを捕まえたいんだけど、協力してくれる?」顔が分からないもので。
名前が画像に変換される僅かな間を置いて、千恵は頷く。「あの二人か。オッケー。何するの?」
「聴取」と私は言った。
「それで、私たちに何を訊きたいの?」
温く甘い春の風と同じ温かく甘ったるい声で清水綾香は訊く。武本さゆみも興味津々の目で私と千恵を見ている。敵意はない。
私は千恵の助力を得て二人にアポを取り、屋上で昼食を共にすることにした。授業終わったらすぐ行かないと席取られちゃうよ、という千恵の警告を受けて四時間目の授業終了後弁当を掴むや真っ先に屋上へと駆け上がったが金属の卓の半分以上は既に他の生徒に陣取られていた。四時間目終了前に占拠したと考えねば説明のつかない速さだったが空いている卓が確保できたので良しとする。
仲介役の千恵が現れ、十分ほど間があって清水と武本が弁当を手に笑い合いながら現れた。私の左前方に千恵が、向かいに清水、右前方に武本が座り円卓が埋まった。
「少し長くなるので、お弁当を食べながら語りましょう」私は弁当包みを展開し、彼女たちも私に倣う。「雛窪さんと中身同じなんですね」武本が目敏く気づく。「私たち、同じ寮だから」と千恵。「何色なの?」と清水。「ずばり、白花寮よ!」特撮番組なら背後で爆発演出が発生しているであろう決め顔は相手が褒めそやすに違いないという下衆の根性丸出しだったが清水と武本は斜に構えることなく想定通り歓声を上げた。「白花寮って、華恋様のいらっしゃる所じゃない!」「貴代子様も住んでらっしゃるんでしょう! 一緒に生活してるだなんて、羨ましい!」そこからお姉さまと貴代子様の話に脱線したが場は程良く温まり多少ネガティブな話でも切り出しやすい雰囲気だ。
「ところで、話は変わるのですが」一段落着いたタイミングで私は仕掛ける。卓上で前腕を重ね、右上腕に巻いた広報部の腕章に視線を誘導する。「最近、オカルト研究会を取材しているのですが、会の創設を振り返るとどうやら初期メンバーに清水さんと武本さんが加わっていたらしいと知りまして。それで少し取材してみたくなって屋上にお二人をお呼びしたんです」清水武本両名はオカルト研究会という名前が出た瞬間悪巧みの露見した小僧のようにどきりと身を硬め、自分たちの名前が出た瞬間どうする?と目で交信し、今までの友好的態度から警戒へと相を移した。「ああ、別に興味が湧いた結果の下調べみたいなもので、白洲さんにあなたたちの語ったことが伝わることはないです。取材元の秘匿以前の話で、ここでの話を誰かに伝える気はありません。伝わる心配もないです」私の説明に武本は警戒を解き、清水は壁のような硬さは抜けたがまだ何かあるかもしれないと不審の眼差しだ。少なくとも二人が白洲に引け目か負い目があるのは分かった。
「確かに私たち、一年の時に白洲さんと一緒にオカルト研究会を創設しましたけど」武本がするすると応える。清水が目で諫めるが、大丈夫だよたぶん、と言って私に顔を向ける。「でもすぐ辞めちゃったから、お答えできることはあんまりないですよ?」
「知っている範囲で構わないので、お話を聞かせていただけますか?」
頷いた武本に質問を向け、語り合ううちに清水が補助線を引くように会話に一言二言加わる。
入学時の混沌状態からひと月を経て整理された清水、武本、富田の繋がりに所属不明の白洲が後から加わる形でグループが編成された。リーダーは清水、武本のお調子者キャラ、おおらかな富田、その中で白洲のオカルトキャラは異彩を放っていたが当初はネタの色が強く、彼女が時々告げる予言や占いに皆は純粋な興味で耳を傾け、それが的中すれば大いに面白がった。三人は彼女を好意的に見ていた。やがて白洲発案でオカルト研究会を創設する段に至り、富田が不安、簡単に言えば「なんか怖い」と言い出し研究会発足メンバーから抜けた。富田はグループも離脱、関わり合いは薄くなった。
三人で創設したオカルト研究会では霊的探査、雨降りの祈祷、運命占い等の活動を行った。笑いの絶えない活動だった。しかし、ネタだったはずの予言や占いが偶然で説明するにはあまりに精度高く的中するので初めは面白がっていた清水と武本も次第に何かがおかしいと不安に思い、結局二人同時に退会を届け出た。理由は「なんか怖い」から。
「白洲さんには申し訳ないと思ったけれど」清水がぱちぱちと瞬き、武本に目線を送る。「我が身可愛さ、と言えばいいのか」武本が台詞を引き取る。「やっぱりオカルトはよく分かんなかった、ごめん、って言って退会したんだけど」なんか怖いと言うのは躊躇われて。ぱちぱちと武本も瞬きが多い。
千恵が難しい顔で腕組みする。「それは確かに、ちょっと怖いかも……今は白洲さんとは交流ないの?」
二人とも首を横に振る。「そっか」と千恵が俯いたところで武本が箸で持ち上げたブロッコリーにパクッと食いつく。
白洲は今までオカルティックな何かを行使することで数々の予言を的中させてきた。それを身近に見た人は距離を置いた。超魔術を理解されない辛さが白洲の内向の原因と思い込んでいたが、どちらかというと実態を知った人に気味悪がられることのほうが彼女の孤独の根なのかもしれない。白洲を分かりたいと宣言した荒木が白洲を理解した時に恐れを抱いて離れないかが勝負の分かれ目だ。荒木との電話でのやり取りを思うとノリで乗り越えてくれそうな期待を持つが、背後霊に露骨に恐怖した私のような反応をしない保証もない。いずれにせよ荒木の白洲を分かりたいという言葉の本気度が試されるだろう。
さて。
「白洲さんの活動の先にある超常現象、つまりオカルティックな出来事が怖くなって、一緒の道は進めなくなった。そういう理解でいいのでしょうか?」私は尋ねた。
「はい」と清水が申し訳なさを目元に表して頷く。武本も頷き、ソテーか何かぶつ切りの鶏肉を箸で摘まむ。
「別に私は白洲さんのように霊視できるわけではないですが」私はごく普通の会話の抑揚で言って、「お二人は今、嘘をつきませんでしたか?」急降下する鷹の鋭さで二人に襲い掛かる。
「え?」という清水の悲鳴に近い反応。武本が摘まんだ鶏肉が万有引力に従って自由落下し、弁当箱の中に落ちて跳ねてまた落ちた。
「さっき当たったのは私が伸ばした足です」
清水と武本が驚きに開いた目を見合わせる。「嘘です」私は間を開けずに畳みかける。「私の位置からではさすがに届きません。お二人がテーブルの下で触れ合わせている足と足の、秘密の交流に混ざることはできません」短足なので、と冗談を付け加えるが清水も武本も青ざめて笑わない。千恵は説明を欲して私を見る。
「喋ったことは全部本当。でも、根本が嘘」私の言葉に清水と武本はいよいよ狼狽し目線を下げ、千恵だけが取り残されて「ねえ、どういうこと?」と私と二人を見る。「つまり、動機の問題」私はドストエフスキー作品に登場する熱弁者たちと真逆の冷静さで述べる。「屋上に登場した時点で仲が良いなと思った、良すぎるとさえ思った。さらには、全員の出会いからオカルト研究会退会までの流れを語る際に、疚しい実態を正当な理由にすり替える人々が陥りがちな妙に説得的な語り口、これが真実でその他の可能性は一切ありませんと説明的な説明を説明する、みたいな気配を感じた。その疑念を元に出会いから退会までの理由を逆算した先に見えたのが、富田さん、そして白洲さんがお邪魔虫だった、という可能性」千恵が分からぬと眉で言っている。「彼女たちが私の思った通りの仲なら現況やりそうな火遊びがあった。気づけない他人が居てこそより甘美となる背徳の遊戯、それは目の届かない卓の下での、足と足の接触。二人だけに分かる秘密。私はそれを指摘し、彼女たちは私が掛けたカマと気づかず実行を態度で認めてしまった。やたら二人で視線を交わし瞬いていたのが仇になった。二人の世界に没入しすぎたの。語りの嘘と彼女たちの『深い』仲から導き出された推論は――」
「別に!」色を成して清水が立ち上がる。「私たち嘘は言ってませんけど!」
「怖くなって辞めたのは、ほ、ほんとだから!」武本も着席の角度を変え私に向かう。
「喋ったことは全部本当。でも、根本が嘘」私はもう一度告げる。「あなたたちはグループ編成若しくは研究会創設時点で、互いにもっとお近づきになりたいと欲望していた。それが全ての行動理由。そして。その願いが成就したならば『他人』は必要なくなる、むしろ邪魔。あなたたちは私たちに隠れて足と足を交差させる仲になりたいがために白洲さん、もしかすると富田さんも含めて乗り捨てした。漠然と感じていたオカルトへの恐怖はあなたたちの本望に大義名分を与える隠れ蓑。だからあなたたちは嘘は言っていない」嘘を言っていない、ではなく。
清水と武本が完全に停止した。千恵が意味を咀嚼して理解に変えようと問う。「つまり、いつ互いを意識したかは分からないけど、単に二人が仲良くなりたいがために白洲さんのオカルト研究会を利用したってこと?」
「そう」私は静かに頷く。「部活動という建前を取っ払っても仲良くできる、仲良くしても良いだけの関係を築くまでの、乗り物にした」
「それってポイ捨てじゃない!」千恵が卓を両手で叩き立ち上がる。「二人が接近する言い分として他人を利用して、仲良くなったら後は知らない、退会します、なんて、身勝手にも程があるでしょ!」
いやそれは、と武本が弱々しい声で言い、清水は卓上の弁当を引っ掴んで席を立つ気配を見せたがそれはできない、弁当は展開されていて一掴みに去るのは無理だ。
沈痛な面持ちで清水が推論を認めて悄然と腰を下ろす。その、その……と武本が、言い訳しようのない事実を受け入れて黙り込む。憤激収まらぬ千恵が更なる叱責を加えようとするのを私は「千恵!」と一喝した。千恵は、青信号なのに車にクラクションを鳴らされた驚きと憤懣を満面に示し、しかし私は「ちーちゃん、落ち着いて、座って」と着席を促した。近くで花壇に付設されたベンチに座っていた生徒らが怒声にざわついていた。千恵はまだ言い足りないと目で二人を睨みつけたが、鼻を鳴らすとどっかと椅子に座りあらぬ方向を見つめる。
「ちーちゃん」千恵は遠くを向いたままだ。「ちーちゃんが六年生の時どこへ進学するかは分からないけど、こういう例は大学のサークルでありがちだから、一足早く社会勉強したと思ってひとまず矛を下ろして欲しい」千恵はうんともすんとも言わない。「清水さん、武本さん」二人に目を向けるが二人も目線を下げて卓に転がる気まずさを見つめている。「本人に確認したわけではないですが、部員募集を真正面から発信できない点を鑑みるに、白洲さんはダメージを受けています。浅手か深手かは他人には分かりません、でも、あなたたちは彼女を傷付けてしまった。その点は深く反省して欲しい。そして、身勝手で得たその関係を、大事にして欲しい」まず清水が、遅れて武本が顔を上げる。「自分たちのために他人を利用してしまったのは非常にまずかった、でも、倫理で止まるものではなかったのよ。それだけあなたたちは惹かれ合ったの。親しくなりたかったのよ。その思いは傲慢で、我儘で、けれど、切実だったのではなくって? 百合の全てが美しいわけじゃない、薔薇に棘があるように、百合にも時に暗い影が付き纏うものよ。けれど、それをひっくるめての百合なのよ。誰かを犠牲にして、その上に咲いた百合の花。それは妖艶で、生臭い。でも美しい。穢れを知ってこそ咲く百合もあるのだわ……」
手を組み合わせ目の縁に滴を載せる私に「ちょっと!」と千恵があらぬ方向から帰還して怒りを前面にぶつけてくる。「それは百合子の趣味の話じゃない! 私は二人に怒ってるし許せないしあなたみたいな謎理論で納得したわけじゃないんだけど!」
「ちーちゃん」私は組んだ手と体を千恵に向ける。それは許しの請願であり、祈りのポーズでもある。「ちーちゃんにはまだ分からないだろうけれど、良いもの全てが真っ白で、悪いものは全て真っ黒、なんて分かりやすく世は出来ていないのよ。白と黒、そしてその境にある灰色のグラデーションから私たちは何を守るのかを、何を掴みに行くのかを、選び取らなければならないのだわ。セ・ラ・ヴィ。それが人生なのよ。そして、彼女たちは罪を背負って百合の花を咲かせることを選んだの。アダムとイヴが智恵の実を食べずにはいられなかったように……」
「百合子は脳内で事実を都合よく捻じ曲げてるじゃない! あなたの言葉を借りるなら黒の上にべちゃって白を塗りたくってるのよ!」千恵が噛みつく。
「ちーちゃん。二人の行いを責められるのは唯一、白洲紗理奈さんだけなのよ……。神様も罰をお与えになるかもしれない。けれど、百合神様は祝福を授けてくれると私は確信していてよ」光あれ。幸あれ。百合あれ。私は祈りを捧げる。
「その!」武本が千日手に陥りそうな会話に顔を突き込む。「私たちも、白洲さんには悪いことしちゃったなって、反省はしているんです」ただ、真剣みは足りなかったかもしれないけど、と余分を付け加えた瞬間千恵が睨んだので武本は言い訳のように両手を胸の前で振る。「あの、その、花咲さんが白洲さんと関わっているなら、花咲さんの仲介で謝罪の場を作ってはいただけませんか?」ね、と話を振られた清水も神妙に首肯する。
「それは、だめです」私の明言に清水と武本は落胆の中に少しくらい肩を持ってくれても、という怨嗟を覗かせる。その態度がだめだと言っているのではない。「何と言って謝るんですか。仲良くなりたくって上手く使っちゃった、と言いますか。それとも、なんか怖くなっちゃって、と言いますか。どちらを選択しても白洲さんは傷つきます。無用に傷つきます。既に行動は為された、そこに何の言い訳を付け加えても意味がありません。覆水盆に返らず、です。あなたたちはその罪を背負い、一握の後ろめたさを抱えて生きるしかないと思います」
清水と武本が真実反省してしょんぼりと眉を下げる。千恵も、溜飲が下がるというより同情の意識さえ芽生えた様子で二人を見つめている。私も岩壁に石で絵を刻み込んだ旧人類のように自らの心に自らの言葉を刻み込む。荒木が白洲を拒絶した場合、私は彼女たちと同じ罪を背負う。偉そうに説教しておいて同じ轍を踏むわけにはいかない、荒木次第の面は強いが私はこれで絶対に死に手を打てなくなった。
「あの」清水が顔を上げ、「私たちの謝罪がもはや無用なのは理解しました。もうとやかく言いません。ところで、その」不思議の宿る瞳で「さっき、百合がどうの、百合の花が咲いたとかなんとか言ってましたけど」首を傾げる。「どういう意味ですか?」
武本もやはり同じような目を私に向ける。私はどう切り出すのがベストか思弁し、相手に委ねる形で行くと決める。
「あなたたちは百合を知らずに、既に百合を知っているのよ」
私の言語遊戯に眉を寄せた二人が顔を少しだけ突き出す。うふふ、と私は微笑む。
「そうね。女の子と女の子が好き合っている状態、と説明したら、あなたたちは何と言うのでしょうね?」
二人はそれまでの私の言葉を翻訳し直し、先に正解にたどり着いた清水が泡を食った顔で身を隠す何かを求めて必死に視線を飛ばす、そのうちに武本も理解して「いや! 別に好き合ってとか、そ、そそ、そういうんじゃなくて、ただ……ほら! 深い仲! 深い仲なだけだから!」と私の絶妙な台詞を引用して手をぶんぶん振る。ねえ?と同意を求められた清水は。
六千ケルビンの眼差しを向け、切なそうに瞼を下げて半眼。
あ、と呟いて、武本は一度罪悪感に目を逸らし、しかし、戻した瞳に映る清水の思いに、じっと見つめ返すことで応える。
春風駘蕩の中、交わり合う熱く濡れた百合の雌しべと雌しべ。
「ユニヴァーーーーーース!!!」私は身中の爆発と共に叫んだ。「二千億光年の孤独からの出会い、そして合一! 悠久の星の誕生よ!」
「百合子、五月蠅い!」千恵が怒鳴る。
「嗚呼、宇宙よ、宇宙が見えるわ……」
「それあなただけだから」
千恵に肩を揺すられて昂った意識が現実に帰着する。「ああ、良い旅路だった」
「知らないわよ。二人ともドン引きだし周りの目を気にしろって言ったあなたが暴走してどうするのよ」千恵は冷静に言う。静まったベンチ勢はまたちらちらこちらに視線を送っている。清水と武本が私に向ける、じっとりした目。「否定されると思った?」水を向けると武本がいやあそのと頭を掻き、清水は乙女チックに目を伏せて何も言わない。
「ううう」私は呻き、二度目の爆発を耐えた。白洲の孤絶も、二人を復帰させられないことも、ついでに二人の『深い』関係も分かった、だがまだ質問すべき疑問が残っている。
「ごめんなさい、もう一つだけ教えていただきたいことがあるのですが」
清水と武本は目を合わせてから頷き、「まだ時間はたっぷりあるし、ひとまず昼食を食べてから話そっか」と武本が笑みを見せた。
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