Lesson4 幹部のはなし 前編

プリスはホワイトボードに幹部の名前をどんどん書いていく。


「ウィンドウ」「ピエット」「アリア」「アルテリア」「レイダー」「クスター」「マカリスター 」。


この7人がウィンドベル最初期のメンバーであり今の幹部だ。


「まずは父さん、ウィンドウ・スモールサイズですね」


「親父の話はうんざりだ。どうせあれだろ。無を操るとかいうよく分からん能力で大剣を二本持って戦う他に二丁の銃まで使える上に格闘にも優れているとかそんなんだろ」


「嫌っている割にはお詳しいですね!?そりゃ4年もつきっきりで接されていたのだからそうですけど!」


「ただ、無を操るってのだけどうもよく分からねえんだ。そもそも無って何なんだよ、そこからわけわかんねえんだよあの親父」


「……あれは、世界の干渉力と言いますか」


突然プリスが声のトーンを下げたことに、ネクターは驚いた。こういう時のプリスは一切の冗談を口にしない。


「あっ、すみません!いきなり訳の分からない事を口走って!」


「別に構わないけど……」


だが、すぐに声は元の調子に戻る。何か隠したい素振りであったが、ネクターは気にせず傾聴する。


「分かっているのは、父さんの能力を攻勢展開されただけで相手は消えるということだけです。要は存在という有を無に削られるということで、すぐには消えません。ただし、すぐに回避したとしても身体中穴だらけになるのでそのうち死にますが」


「なんだそのチート能力」


「実際世界最高峰のスペリオルアウトサイドなんですよ父さんのヴァニティアイズは。他にも自身を一旦無に溶かして瞬間移動するゼロシフト、対アウトサイド・ニュートラル防壁のゼロフィールド、虚空から一旦無にしておいた物を取り出せるゼロポケットなんかを多用します」


「親父、技名とかつけてんの!?」


「その方がイメージしやすいとかなんとか。アウトサイダーなら必須ですよ」


というのは建前で、本当はカッコいいからという非常に身勝手な理由なのだが、プリスはそれを知らない。それどころかウィンドウに倣って自分も技名をつけているのだ。


そもそも接触した相手に無数の刃物を生やす必殺技にシャドウシルエットとか名前つけてるネクターが言えたことではない。


「俺、いつも出す物覚えてるしなあ」


「ネクターさんはそれ自体が技みたいなものですからそれでいいんですよ。父さんが使う武器は先程ネクターがおっしゃった通りです。母さんが父さんのために鍛造した二対の大剣、ミツキとアラツキ。マカリスターさんが父さん専用に誂えたカスタムハンドガン、シータ。後は自分の拳ですね。エアで無を撃ちます」


「お前の闘法、どっかで見たと思ったらあれ親父のだったんだな。よくわからん遠当てを放ってくるからなんだろうと思ってたんだよ」


「元はと言えばひいおばあさまの技なんですけどね。で、次はピエット伯父さん。インサイドの説明の時ネクターさんがおっしゃっていた通り6属性攻撃魔法を1級レベルで放てる、攻撃魔法だけだったらまず間違いなく最強クラスの人物です」


「それで最強クラスってなんだよ。まだ上がいるのかよ」


ピエットは多様性なら最強と呼んで遜色無い実力を有しているのは間違いない。ただ、火力はと言われると極属性使いに一歩劣るという事実は否めない。


「世の中、資格だけじゃ測れないってことです。本来適性があるのは氷属性で、基本的には氷で作った短剣をガンガン投げてきます。ただ、これに当たったが最後。刺さった短剣は絶対零度まで冷やされ、行き場を無くした空気が穴を埋める為に爆縮します。要するに刺さったら爆発するとお考えください」


「ただの短剣じゃないのかよ!」


「通常攻撃でそれですからね。後は伯父さんが開発した独自魔法群。クリスタルなんたらと名前がついている攻撃が全部そうですね。あれには絶対破壊の因子を組み込んであるとかで、要するにメチャクチャ痛いです」


「痛いで済む?」


「下手な生命力だと痛みを感じる前にブッ壊されます。ただ、その超火力を備えながら防護魔法や治癒魔法をある程度使いこなせ、時空魔法まで操るんですから手に負えません。そしてそれを十全に運用するための魔力を保有しています」


魔力の上限値は鍛錬によって増える事もあるが、ピエットは生まれ持った魔力量が桁違いに多い。それに飽き足らず大学を出るまでの期間、インサイドの鍛錬を怠っていない。才能のある天才が努力をした結果生まれた魔力の化物がピエットと言えよう。


「まるで母さんの上位互換だな」


「母さんが伯父さんに唯一勝っているのはフィジカルですね。近接戦闘なら幹部最弱は間違いなく伯父さんです。ただ、距離を詰める前に超火力のインサイドで撃ち落とされのがオチですが」


「多分俺が最も苦手とする相手だろうな。アルパライトを出した所で吸収し切れないだろうし、何を撃っても迎撃されるだろうし、伯父さんの魔力より先に俺の気力が尽きる」


「私だったらインサイドの暴威を掻い潜って懐に飛び込むしかありませんね。とはいえあの人には手札が多過ぎて未知の魔法をまだ隠しているかもしれません。アウトサイダーにとって最たる脅威はあの多様性の化物でしょう」


「じゃあもう一人の多様性の化物の解説を頼めるか?一応戦ったことあるが、おさらいしたい」


アリアとは先日戦ったばかりだが、ネクターにはあれが本気だったとは思えない。アリアにはまだ底があると肌で感じていた。


「ネクターさんと母さんの戦闘記録を覗かせていただきましたが、母さんにしては確かに甘かったですね。まるでネクターさんを試そうとしていたようです。例えばヒナギクの反転形態とか、植物を生やす能力の真価とか。何より、最も得意とする防壁魔法をカットして戦ってましたね」


「一つずつ説明を頼む」


「まずヒナギクの反転形態であるキコクですね。これは刀に重力魔法を付加する事で物体を瞬時にへし切る機能です。あれならアルパライト鉱石をノータイムで寸断出来たのに、わざわざ振りの遅いガーベラストレートを使うなんて母さんらしくないんですよ」


「わざと予備動作を見せたってワケか」


「あと、樹を生やしていたじゃないですか。あれは母さんの固有魔法の一つ、グローリィガーデンですね。本来はツタで敵を絡めとったり薔薇のトゲを地面に生やしまくったり、挙げ句の果てには刀を精製して得意の防衛剣術でカウンターを取りまくっていたはずなんですよ」


かつて初代タケダ・ツキミサトが屋敷で刺客に襲われたときに、保有する刀を畳に刺して取っ替え引っ替えして迎撃したことから生まれた防衛剣術「畳刺」をアリアは自身の固有魔法と併用していつでもどこでも行う事が出来る。


ウィンドウを半殺しにしたのも、これで悉く攻撃を防いだからに他ならない。これを使われていたらネクターは間違いなく勝つことが出来なかっただろう。


「最後に、防壁魔法ですね。母さんが本気でこれを展開していたのなら、ネクターさんの攻撃の全ては無力化されていたでしょう。伯父さんの固有魔法すら防いだ防御力だけで特級にまで登り詰めていますからね」


「わざと攻撃が当たるように調整していたんだなあ。そういや母さんも魔力量は多いのか?」


「グラスロッドの人間ですからそりゃまあ。ただ、伯父さんと違って外付けの魔力供給源があるのが母さんの特徴です。古神器アストロノミカウェポンでもあり、母さんの祖父母でもあるクリスタルロッドは無限の魔力供給を可能としています」


古神器アストロノミカウェポン?なんじゃそりゃ」


「なんでも星の力を持つ武器だとか……とにかく、無限の魔力を提供してくれる事しか分かっていません。ただ、アウトサイド無効化固有魔法フラワリングガーデンを使うと機能を一時的に止めるらしいです」


フラワリングガーデンは周囲のアウトサイド能力を無差別に無効化する大魔法だ。ただ、それを発動するには自身の魔力だけでは足りず、クリスタルロッドの殆どの魔力すらも使う必要がある。そのため使用後は一切魔法を使えなくなるという弱点が存在する。


アリアが真価を発揮するのは集団戦闘の場だ。状況に応じて植物を生やして足止めをしたり、防壁魔法を味方に振ったり治癒を行ったり、自分の行動を制限してまでもアウトサイドを封印する。サポート役としては最強クラスなのだ。


「確かそのフラワリングガーデンも1分しか保たないんだっけな。それだけ止められたら俺は何にも出来ないけど」


「1分もあればよほどニュートラルが強くない限り母さんに切り刻まれて終わりですからね。父さんは初見でこれを食らって真っ二つにされたらしいですよ」


「なんで真っ二つになって生きてんだあの親父」


「フラワリングガーデン発動後はインサイド攻撃が一切出来ませんからね。ニュートラルの力で父さんを殺す事はほぼ不可能です。無なんか誰も斬れませんよ」


「って事は殺意があったのか……俺、本気の母さんと戦わなくて本当に良かった」


アリアがウィンドウを真っ二つにしたのはあまりに言い寄られ過ぎてキレた結果なので、ネクターを溺愛しているアリアがそれを実行する事は無いのだが、ネクターは改めて自分に命があることに感謝するのであった。


「さて、お次はアルテリア伯母さんですね。技術部の所属ですが、あくまで外部協力者という形を取っています。本職はセントラルシェル教会の司教ですね。統合大統領の娘ですからおいそれとウィンドベルに入るわけにはいかないようです」


「統合大統領って、確か一番偉い神様だっけ。それだけしか知らないんだよな」


「はい。この世界を創生した最初の神々のリーダーです。うちの曽祖父と曽祖母も創生仲間だったそうで、父さんなんかは家族ぐるみで一緒に呑みに行ってるそうですよ?」


「えらく所帯染みた神様だなあ……もしかして伯母さんが伯父さんと結婚したのもそのコネで?」


「いえ、まったくの偶然だったそうです。伯母さん、体躯が小さいせいでロリコンの伯父さんに目をつけられたらしいんですよ」


ピエットの名誉にかけて言うが、ピエットはただのロリコンではない。非常に気合の入ったロリコンだ。幼女と言えど、成長してしまえば幼女では無くなる。だから成長しない幼女で無いと愛せないのだ。この性癖のせいでグラスロッド家は存亡の危機に立たされていた。


だが、アルテリアはアルパの手によって成長することが無いよう幼体固定を施されている。それを知ったピエットはアルテリアに猛アタック。何度も極魔法で吹き飛ばされながらも統合大統領の娘を娶る事に成功したのだ。


「人にはいろいろあるもんだなあ……そういや伯母さんが戦っているところって見た事無いな。伯父さんに関節技かけてるイメージしかない」


「サブミッションも得意なんですけど、基本は両手に極属性の暗器やハンマーを纏っての接近戦が得意な方なんです。極魔法で周囲を焦土に変える事も出来るんですけどね」


「その極魔法ってのがさっぱり理解出来てないんだよな。どんな感じなんだ?」


「えーっと、無とは正反対の絶対有といいますか。とにかく火力の化物です。特に広範囲の破壊に優れ、一度放つだけでキロ単位がクレーターと化します」


「伯父さん、そんな人とよく喧嘩出来るな」


これはピエットの防護魔法が優れているため、なんとかダメージを軽減出来ているだけに過ぎない。本来は極魔法なぞ食らっただけでこの世から存在が消し飛ぶのだ。


「もちろん火力は規格外なのですが、伯母さんの場合それを防護魔法にも転用出来るからタチが悪いんですよ。5秒間だけならこの世のあらゆる攻撃から身を守ることが出来ると言われています。そしてもっと厄介なのは時を遡ることすら出来る特級時空魔法なんです」


「ああ、さっき説明してたやつな。タイムスリップ出来るのか?」


「過去に戻るなんて超大魔法はさすがに扱えないと仰っていました。出来るのは過去の自分を数秒間だけ呼び出すことです」


「それやってなんかメリットあんのか?」


「いつ自分を呼び出されてもいいように毎日全力パンチを素振りしているんですが、何故か毎日時を超えるそうなんです。インパクトの瞬間に元の時間軸に戻るので何があったのかはさっぱり分からないそうです」


これは自分が時間遡行魔法を酷使するほど過酷な未来が待っているという証左である。そのため、何が起きてもいいように日々をアルパライトの生産に心血を注いでいるのだ。


「後は、個人単位で法を弄る特殊魔法ですかね。接触した相手に誓約を交わして、破った瞬間に罰を与えるそうです。これは祖神の子であることに由来する固有能力ですね」


「何にせよ絶対戦いたくない相手だってことはよーく分かった」


「それに真正面から戦って勝利を収めたのが伯父さんなんですけどね……」

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