Lesson1 アウトサイドのはなし

「ネクターさん、アウトサイドについてどの程度知ってます?」


「うーん、何か凄い能力が使える代償に魔法インサイドに弱くなるってぐらいか?」


「それだけですか!?ってことはアウトサイドの種別も知らないので!?」


「種別とかあったの!?」


「あるんですよ統合政府で定めた基準が!まずはそれから覚えましょう!」


プリスはネクターに目配せしてホワイトボードを出させる。それに「先天性」「後天性」「宿命性」と板書していく。


「なんだこりゃ」


「まず、アウトサイドには三つの種別が存在します。先天性というのは遺伝などで生まれながらにして持っている能力。後天性というのは生まれてから何らかの要因で授かる能力のことです」


「そりゃぼんやりとは分かるけど、最後の宿命性ってのは?」


「これは父さんの受け売りなんですけど、アウトサイドを広めた超存在。外神と呼ばれるこの星の外の神がいるらしいんですよ。その外神のみが持ち得る、というか外神には備わって当然の能力なんですよ。だから宿命性なんです」


そもそもそんな種族がいたこと自体が初耳なのだが、これは殆どの人が知ることなく生涯を終えるほど伝わってはいない。ウィンドウは創世期の神の孫であるためその存在を口伝されていた。


「私達は先天性ですね。産まれた瞬間から能力が使えていたでしょう?」


「そりゃ分かるが、一つ疑問がある。お前は胎内にいた時点で能力が使えていたんだろ?だったら同じように俺は胎内にいた時点で母さんを不幸に貶めていたんじゃないか?」


「私はネクターさんに一度目覚めさせられていますからね。本来は常に無意識の胎児には気力が備わっていないから能力を行使できないんですよ」


「気力ってなんだそりゃ。確かに複製し過ぎると疲れて倒れちまうけど」


「それは気力が尽きた時の現象ですね。気力というのはアウトサイド能力を行使するために必要なものです。意思力Will精神力Mental決意Determinationとも言い換えられる精神的活力の事ですね。恐ろしい話ですが、能力を行使しすぎるとやる気が枯渇して脳が休眠状態に入るそうです」


だから何の意思も持たない胎児には能力を使う事は出来ない。母体から切り離されてようやく自らの意思が生まれるから初めて能力を行使できるというのが定説だ。胎内で一度覚醒し、胎児のまま能力を行使出来るようになったプリスのケースはイレギュラーである。


「そして、その気力を高めるためには強力な感情が必要となります。ただ、あまりにも負の感情をアテにすると力の制御が効かなくなって暴走してしまうんですね。これが今日におけるアウトサイド迫害の原因となっています」


「アウトサイドに生まれるとそれだけでイジメられるってのは聞いた事あるな。お前は大丈夫だったのか?」


「ああ、伯父さんの経営する孤児院での学習を終えた後の高校時代ハイスクールは確かにいろいろありましたね。犯人を纏めてこっちに引き寄せてボコってたらいつのまにか被害が無くなりましたが」


その当時のプリスはアウトサイド能力者であることのみならず、対外的にはウィンドベル創設者の一人であり総統のピエットの娘とされたことと本人の性格もイジメられる要因であった。


しかし、彼女は並大抵の暴力が通用する事が無いフィジカルと、狂気とも取れる強すぎるメンタルのおかげでそれらを全く意に介さなかった。


加えて絶対に報復を履行せよというクスターの教育もあって、プリスに危害を加えた者は二度と彼女に関わる気を無くされるまで物理的に再教育を施された。


もちろん、その事を親や学校、果ては警察にまで報告した者もいる。しかし対外的には統合大統領の孫娘とされているプリスに危害を加えたなどと露見したら滅ぼされるのは当事者だけでなく一族や関わった全ての者、果ては国家ごと統合大統領に潰される。そのリスクを恐れた大人達はプリスをイジメた者を逆に叱咤した。


裏を返すとそれだけの条件が整っていない一般のアウトサイドは常に迫害を受ける。そのストレスが爆発し能力が暴走して事件を起こす。


そうしてまたアウトサイドが余計に畏怖の対象となり、イジメの対象となる。アウトサイドの迫害はむしろ悪循環を生み出す種だ。それを是正するためウィンドベルというアウトサイド保護組織が設立されたのだ。


「と、少し話が脱線しましたね。次はこちらです」


次にプリスが板書したのは「スペリオル」「インフェリア」「イレギュラー」の3つであった。ただし、イレギュラーだけ宿命性とイコールで結ばれている。


「これはアウトサイドの優劣を表します。スペリオルアウトサイドは文字通り優性。インフェリアも文字通り劣性を意味しますね」


「その基準はどうやって決まるんだ?」


「それは結構曖昧です。スペリオルは父さんや私の能力のように無を操るだとか、全てを纏めるだとか、アホみたいに強い能力のことですね。ただ、代償もその分多くなります。例えば、父さんの出生時の話は知ってますか?」


「ああ、俺達の生まれ方がおかしかったのは大体親父のせいだからな」


ウィンドウは、無としてこの世に生を受けてきた。そのため生まれてきた事すら感知されず、唯一その存在に気づけた祖父の声を当てられ無の存在としてピエットと親友になった。それからアリアに存在を証明されるまでは姿すら無かったのだ。


プリスの能力にも魔法の元となる元素を取り込んでしまうという弱点がある。それを克服するためにレイダーと身体を鍛え、クスターから元素を宙に浮かす手ほどきを施されている。


「一方、インフェリアというのは使い道が限定されていたり、スペリオルに劣るものの気軽に使えたりといったものですね。クスターさんのトリーズナースタイルがいい例です。あ、あと人も自分も不幸にしてしまう何のメリットも無いネクターさんのミスフォーチューンも該当します」


「正直へこむなあ……で、このイレギュラーってのは?」


「それは、スペリオル並の力を持ちながら代償を一切払わず使えるチート能力の事ですね。これは外神しか持っていないから考えても無駄だと父さんは言っていました」


「そりゃあアウトサイドを直に伝えた存在だろうしなあ……って事はこの星の生命体は必ず代償を支払う必要があるって事だよな?」


「ご明察です。どうもインサイドが蔓延するこの星の生命体とは相性が悪いからだとかなんとか。アウトサイドがインサイドに弱いのは外神がインサイドに弱いからとされています」


アウトサイドはインサイドに弱いというのは絶対のルールだ。そうであるという常識が凝り固まっているため、ネクターは深く考えてこなかった。これも常人は知る由も無いことだ。


「そういやお前はインサイドの力を打ち出してるけど、インサイドってアウトサイドでも使えるのか?」


「結論から言うと無理です。アウトサイドになった瞬間魔力が枯渇しますからね。私が使っているのは確かにインサイドですが、魔法ではありません。妖怪の使う呪術に近いものです。この辺の解説も兼ねて、インサイドの説明に移りますか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る