口出し

「始めるぞ」

 あなたの言葉にマナとドゥーニャは肯きました。

「燃え盛るは火炎のごとくこの世の進歩は我が手中に在りし光によるもの」

 言葉を紡ぐ間もボイはスライムの注意を引き攻撃を一身に受けています。

 あなたは視界に入るボイを見ながらも言葉を続けました。


 詠唱が終わりに差し掛かった時ボイは振り返りました。

「まだか」

「え」

 三人の意識は切れたように揃ってボイを見ました。

「も、戻ってください!」

「任せた、が、大丈夫なのか?」

「だ、大丈夫です。多分」

「や、闇を照らし暗黒をかき消し全てを真昼へと転換する!」

「くらえ、ライトニングオーバー!!」

 両手から放たれた光は膨れ上がりました。本来なら真っ直ぐに標的であるスライムにぶつかるはずのものが眼前で離れず大きくなるばかりです。

「そんな、失敗であって……」

「だ、大丈夫ですよ。きっと」

「うわあああ! 俺が余計な事を」

 手の中の白い光は勢いを強め視界が白く染まりました。

 世界が一瞬で真っ白になると遅れて激しい爆発めいた音が耳に届きました。

 身体は熱さと暖かさの間で熱を感じグラデーションなく感覚は途絶えました。


 気づくと目の前には平地が広がっていました。

 経っていた木々も草花も何もかもが黒く染まり戦っていたはずのスライムですらその姿が見つかりませんでした。

 起き上がると身体には着慣れた物は残っておらずバスタオルのような布が一枚かけられていました。

「今はそれで我慢するのであって」

 ボイ、マナ、ドゥーニャは無事でした。

 3人も同じような格好をしているかと思うと、ドゥーニャは何故か衣服が少し焦げただけで済んだようで、マナはドゥーニャと同じローブの新品を身に着けていました。

「魔法は暴走したようであってよ。対魔法用の衣服で助かったのであって」

「でも、何で俺達は体が無事なんだ? 規模的におかしくないか?」

「それはドゥーニャさんのおかげですよ。ねぇ?」

「そうであって、危機一髪であってよ」

「そうかありがてぇ、持つべきものは優秀な魔法使いだな」

「はい」

「そ、そうであって?」

「ああ、だが、こりゃどうすりゃいいんだか」

「まずは報告じゃ、って来ちゃいましたね」

 足音を隠そうともせず4人のもとへ近寄ってくる影が2つあった。どちらもザプスカイの街方向からの人のようだった。

「おまえ達、何をしたのか分かっているのか」

 やってきた男が言いました。

「俺達だって危機一髪だったんだよ」

「そんな事は関係ない。幸い同じ時間帯にたまたま誰も通行者が居なかったから良かったものをこれで犠牲者が居たら」

「まあまあ落ち着いてくださいよ。彼らだって何の理由もなくやったわけじゃないでしょう。そうでしょ?」

 やってきた女は男とは対称的な態度でした。

「そうだぜ、王様の失くしたものを探してたらこうなったんだ」

「そうでしょう? ってそれ本当!?」

「おう、嘘はついてないよな」

「はい」

「そう、まあ、王様の事なら仕方ないとしません?」

「何にしても事実確認からだな、ついてこい」

 男の言葉を無視することはできずザプスカイの街へと戻りワグ王へ謁見、事実確認を済ませると2人組は満足したように去っていきました。しかし、王は2人組が猿までは温厚な様子を示していたものの豹変したように怒鳴り散らし見つけるまで帰ってくるなと叫ぶと部下達によって強制的に街の外へと追い出されました。


「ああ、ま、結果オーライだな」

「そうですよ。もう、ここは楽観視しないと疲れちゃいます」

「現実逃避は良くないのであって、と言うのは我慢するのであって」

 結果から言うと王冠も指輪もきれいな状態で見つかりました。それも街から追い出されて1時間程度のことでした。

 更地になったことで目立つ王冠も指輪も森の中で探すよりもよっぽど楽に探すことができました。

 報酬は出ましたが消し去った道の補修費等々に充てられ手元には残りませんでした。その上、労働力の提供を余儀なくされたためむしろマイナスとも。

「さあ、今日もお仕事だな」


END 復旧

































最初へ。

「気まぐれな王家の頼みのお使い」へ

https://kakuyomu.jp/works/1177354054894917063/episodes/1177354054895315636

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