逃げ
「……」
白い部屋があった。
目の前には白、天井も床も白かった。
気がついた時にはそこに居た。
自分が何者なのかさえわからない状況で僕はそこに居た。
「さあ、早く立ち上がるんだ」
声がした。
機械的で感情の含まれていない声だった。
抗う理由は無かった。だが従う理由も無かった。
「……」
僕はそのまま気がついた時から座っている白い椅子の上でじっとしていた。
ただキョロキョロと周りを眺め聞こえていないフリをした。
「早く立ち上がりなさい」
再び声がした。
同じ声だった。
それでも自分は立ち上がらなかった。
そんな事よりも気になっている事があった。
光が後ろから差していることだ。
僕の影は目の前に伸びていた。
きっと窓があるのだろう。
振り返るも座っている椅子の背もたれが邪魔して見えない。
「立てば見えるじゃないか」
ここで立ってしまえば機械音の思い通りの行動をしているようで癪だった。
「まだ立たないか」
ドン。
音が鳴った。
機械音とは別の重い音。何かが地面にぶつかったような音だった。
前を見ると前方で自分の影の上に床を沈ませて金属が落ちてきていた。
「まだ立たないなら次はこれを頭の上に落とすまでだ」
音声は言った。
僕の頭は床を沈ませる重さを持つ謎の金属をはねのけられる頑丈さは無かった。
「……」
それでも一瞬考えてから。
「5」
機械音声がカウントを始めたタイミングで僕は椅子を立った。
そのまますぐに振り向くとさっきまで背後にあったのは窓であり日が差していた。
太陽と太陽光を反射してキラキラ輝く水が目の前の窓には広がっていた。
目の前の光景に目を奪われてもっと近くで見たいと思った時にはすでに僕は窓への歩行を開始していた。
「さあ、次は開いた扉から部屋を出るのだ」
機械音声は次の支持を出した。
ガチャ。
音が鳴る。
振り返ると反対側では扉が僕側へと開いているのが見えた。
僕は扉を無視して再び外へと視線を戻した。
どうせまた猶予をもたせてくれるだろうと思った。
目の前の光景は扉の先では見られないかもしれない。
視線の先では変わらず水の青がキラキラとした光の白と混ざり合っていた。足元には緑が広がりここが高い場所だということを表していた。
「いつまで待たせる気かな」
声がした。
今度は人の声だった。
久しぶりに聞いた気がする人の声に僕は扉が開いたときよりも早く声がした方向を、扉の方を振り向いていた。
「やあ、早く早く」
始めて見た少女は背後の光景よりも美しかった。
ドン。
今度は椅子の在った場所に金属が落ちてきた。
「さ」
機械音声が聞こえるよりも早く僕は扉を目指して駆け出していた。
着いた部屋は先程の立方体のような部屋とは違い奥に長い直方体のような部屋だった。
相変わらずどこを向いても白ばっかりだ。
「さあ、行こうか。道野世田介くん」
「……え」
美少女は僕に向けて言った。
「僕は道野世田介。なのか?」
僕は既に奥に向けて歩き始めていた美少女に聞いた。
美少女は立ち止まると長い髪を揺らしながら振り返った。そのまま少しの間僕を見たから。
「どうだろうね」
それだけ言って同じように歩き出してしまった。
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