悩みの無い完璧生物

 喜び、怒り、哀しみ、楽しむ必要は無いはありません。

 もしかしたら失ってしまったのかもしれません。

 だけどそれ以上に素晴らしいものを手に入れたと思っています。

 平穏です。


 私達は既に辿り着く場所へたどり着きました。

 ある時、私達は進歩を辞めました。

 そこに価値を見出す必要はなくなったから。

 全ての答えを知り皆が等しく全てを持った時は体が世界のパーツとして動いていることに気づきました。

「おはよう」

「おはよう」

「おはよう」

「おはよう」

 どの顔も同じに見えて全て差の小ささが気にするに値しないと思えて私達は進む歩を止めました。

 

 目を閉じても全て誤差で何事も無かったように進んでいく整った世界で何かを考える必要はなくなりました。

 いつまでも同じでいつまでも同じ。

 何をしていてもその場をただグルグルと回っているだけの無意味な行動に意味を見つけようと必死でした。


「なぁこんなもん壊せるんじゃ無いか?」

「そうですね」

「どっちなんだよ」

「壊せますよ」

 元気に頑張る友もいます。

 けど彼は周りにバカにされてばかりです。

 頑張り過ぎだと笑われます。

 必要がないのに改善を求め頭を使って動いています。

 そんな事をしたところで変わることなんて無いのに。

 そんな事をしなくとも時は流れていくというのに。

「壊しちまおうぜ」

 彼は笑いながら言いました。

 彼と目の前を何度も見比べました。

 何も考えてこなかったはずなのに感情が揺れることなんて無かったはずなのに私は胸の辺りに違和感を覚えていました。

 これ以上考えることが嫌になり、言ったのは彼だ。と破壊を実行しました。

「……まじかよ」

 何も考えない訳にはいかなくなりました。

 目を見開いて目の前の光景をできるだけ多く目に焼き付けようとしていました。

 心臓の音がうるさいです。

「おいおい! まじかよ! 知らなかったよ! なぁ!」

「そうですね」

 興奮する彼に右肩を叩かれました。

 普段なら何も感じないはずの行動に、打たれた勢いで下を向いた自分の顔の左頬が少し上がった感覚がありました。

 手で触ってみても右頬よりもわずかに高い位置にありました。

「なぁ! 行ってみようぜ!」

「でも」

 私達は与えられたことをするだけの存在。本来なら破壊行動すら咎められて当然の行為。

 その先に広がる世界へと足を伸ばしてしまえば私は、

「どうでもいいってそんなこと!」

「え?」

「俺はお前みたいに自分を殺しきれなかった。だからいつも何か変なやつ扱いされてた。でも、元は同じなんだ。皆我慢してるだけなんだ。その証拠に……」

 彼は右手を伸ばして私の目の下を拭いました。

 濡れている。

「それが感情だ。習っただろ? でも悪いもんじゃない。悪いんならもうとっくに残ってないはずだろ? 良いんだよそれで、それが普通なんだ」

「これが、普通?」

「そうだ」

 私は一体。

 視界が赤く染まった。

 警告音が響き渡り足音が近づいてくる。

「やべっ! 逃げるぞ」

 彼に手を引かれて未知の世界への一歩を踏み出してしまう。

「あ、あ、あ」

「良いから、今は逃げるぞ」

 背後には見慣れた仲間達が境界線で足踏みしていた。

 私達を追ってきたはずなのにそこから一歩も進もうとしない。

 そのまま視線を上に向けると物語に出てきたお城のようなものがそこにはあった。

「俺達はもう戻れない」

「うん」

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