第57話

 シャワーを浴びてホテルのロビーに戻ると、女将さんが夕飯を食べて行きなよと言う。なんでも宿泊客に逃げられて食材が余ってもったいないとの事だ。

 またもリゼはお代を払おうとしたが、

「余ってる食材を無駄にしたくないだけだから結構さね。それにもしあんた達がドラゴンを倒したのが本当なら、ここはドラゴンキラーが宿泊した宿って事だろ?いい宣伝になるさ」

と言われ、断られた。

 昨日に引き続き美味い飯で、色々あって疲弊した心を癒してくれるような気がした。女将さんには感謝だ。

 いつかまた来よう、そう思いつつ夜になり到着した馬車に乗る時思った。

 流石に疲れていたのか、俺もリゼも乗るなりすぐに寝てしまったようだ。

 目が覚めると、既に学院に着いていた。

 シラヌイ先生に起こされたのか、目の前には先生とシエルさん、そして眠たげに目を擦るリゼが居た。

「ああ、よかった。本当に、無事で……」

目覚めた俺達を見るなり先生が目に涙を浮かべる。その様子に驚いてしまう。

「大変申し訳ございませんでした、まさかあそこにドラゴンが出るとは……」

 先生もドラゴンについては把握していなかったようだ。本当にスライムしか居ないと思って俺達を送り出したのだろう。

 問い詰めようと思っていたが、この様子だと必要なさそうだ。

「そしてありがとうございました。このままだと何人もの犠牲が出ていた事でしょう」

 深々と頭を下げられる。そこまでされると疑ってたことが申し訳なくなるな。

「さて、お二人さん。単刀直入に聞きますが……このドラゴン、どっちが倒しました?」

 シエルさんが俺達二人を交互に見て質問する。普通に考えると絶対にリゼだと思うだろうが、敢えてこの聞き方をしたと言うことはリゼではないと分かっているという事だ。

「俺です。でも、リゼの魔法で動きを止めていなければ倒せませんでした」

「なるほど、やはり。……流石はトゥーリェの弟子ですね」

「やっぱり、俺の師匠はトゥーリェなんですか?」

「えぇ、当代のトゥーリェでしょう。あの切断面は、歴代のトゥーリェがドラゴンを倒した時に見られる特徴そのままでしたから」

 初耳だ。この言い方からすると、これまでもドラゴンをトゥーリェが何度も倒してきたようだ。

 ……もしかしたら、目撃情報があるたびに討伐していたのかもしれない。

 確かに俺が使ったあの魔法は、師匠から聞いていたものだ。本当に最後の切り札で、出来れば使うなと念を押されていた。やり方だけは教えるけど、失敗するとまず死ぬから、とも。

 まさか師匠が、いや、歴代のトゥーリェがドラゴンを倒すために使っていた魔法だったとは。師匠も先代のトゥーリェからその魔法を教わったのだろうか。

「シエルさんは当代のトゥーリェを知っているんですか?」

 リゼが聞く。リゼが聞かなければ俺が聞こうと思っていた。

「いえ、残念ながら。基本的にはトゥーリェの事は一部の、片手で数えられる程度の国家魔術師しか知りません。私とシラヌイ先生もその一人ですが、その中に当代のトゥーリェ本人と会った人物は居ませんね」

 しかし、回答は望んでいたものではなかった。誰も知らない、けど存在は認知されている、変な存在だ。

「そうですか……」

「会いたいんですか?」

「えぇ、まぁ、育ての親みたいなものなので。俺にとって母親みたいな存在なんですよ、師匠は」

「それは、確かに。会いたくなりますね。私もこの後久々に家に戻りますが、両親と弟の顔を見るのが楽しみなんです。家族って、いいですよね。離れるとその有り難さが身に染みる。……早く会えるといいですね。もしこちらでトゥーリェと会う事があれば、その時はあなたに会いにいくよう伝えておきます」

「よろしくお願いします」

「わ、私にも会いに行くよう伝えておいてください」

「分かりました、お二人に会いに行くように、と」

「ありがとうございます」

 リゼもなんだかんだ、師匠に会いたいんだろうか。

 それとも……トゥーリェの末裔として、何か思うところがあるのだろうか。

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