第51話

 最初に目にしたのは、巨大な影だった。

 急に視界が暗くなり、頭上を見上げるとそこにはドラゴンがいた。

 そいつは空から現れ降りてくると、湖の上で滞空し、そして吠えた。

 ドラゴン。伝説上の生き物で、一匹で国を滅ぼす事もあるという、最強の魔物。

 強靭な肉体に加えて高い魔法力を持つ極めて危険な魔物。その巨躯を維持する為に生態系を破壊する程食糧を必要とする為、獰猛な捕食者としても知られている。トゥーリェが魔物を駆逐したと言われる現在でも唯一目撃情報が出ており、その情報から高山、火山や雪山といった人間が立ち入れないような地域にしか生息していないと言われているが、そんな存在が今俺達の目の前に現れている。

 ……おいおい、冗談だろ。こんなんが人里近くに現れていいわけないだろ。

 もしかすると、目撃情報があり人が立ち寄らなくなった原因はこいつのせいじゃないのか。

 こんな小さなスライム一匹で人が居なくなるとは思えなかった。本当に恐れられていたのはこのドラゴンで、湖の中に生物が居なかったのも……おそらくこいつの胃の中に消えたんだろう。

「冗談だろ!?ちくしょう先生め、騙しやがったな!?」

「ヘイン、どうする!?」

「どうするったって、ドラゴンには流石に勝てないだろ!なりふり構わず逃げるぞ!」

「わ、わかった!」

 本当はこんな会話ですら命取りだ。だから俺達は、既に逃げながら会話している。

 師匠から教わった事だ。ヤバイと思ったらまず逃げろ。自分の魔法を過信するな、と。

「っ!」

「どうしたリゼ!」

「あの子が逃げ遅れてる!」

「無理だ!諦めろ!」

「嫌だ!助ける!」

 そう叫ぶと、リゼは振り返り……そしてドラゴンへと向かっていった。

「っ、あーもう!しょうがないな!」

俺も足を一度止める振り返り、ドラゴンへと向かう。

ドラゴンは逃げ遅れたスライムへ今まさに攻撃を仕掛けようとしているところで、口から火球を吐こうとしていた。

……あんなん、この辺り一帯が大火事になるぞ。確かにスライム云々に関わらず今すぐ止めないといけないかもしれない。

「アイスウォール!」

 吐き出された火球をリゼが展開した氷の壁が防ぐ。

 ……熱で一瞬で気化した蒸気が辺りに立ち込め、視界が悪くなる。

 そこで俺が風属性の魔法で蒸気を吹き飛ばし、視界を明瞭にする。

 そして見えたのは、ドラゴンが氷の壁を突き破ろうと突進してくる姿。

「うわっ!」

「危ない!」

 リゼとスライムがいる所の地面を斜めに持ち上げ、ドラゴンの射程から外す。

 必然的に投げ出される形になるが、リゼなら上手くやってくれるだろう。

「このっ、くらいなさい!」

 リゼ吹っ飛びながらが手を上から下に振り下ろす仕草を取っている。あれは雷魔法を発動するときによくみる仕草だ。

 轟音が響き、閃光が走る。リゼが魔力に任せて放った全力の雷魔法がドラゴンに直撃する。……が、鱗に阻まれてまるでダメージを負っていない。

「リゼ、ダメだ!ドラゴンに雷魔法はほとんど効かない!」

 ドラゴンは雷雲の中だろうと平気で飛んでいくとトゥーリェの文献には書いてあった。

 おそらく、雷魔法も殆ど効き目がないと思っていたがその通りだった。

「きゃあっ!……ぐぅっ」

吹っ飛んでいたリゼが地面にあたる。

「リゼ!」

「だ、大丈夫、この子が庇ってくれたから」

 よく見るとスライムがリゼを衝撃から守るように地面との間にいた。ありがとう、スライム。

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