第33話

「出来ればどんな相手なのかはある程度知っておきたいんだけどな」

「そうだね、魔物が使ってくる魔法だけでも分かれば助かるんだけど……」

 リゼは優秀な魔法使いだが、彼女は実戦経験を積んだことがない、言わばペーパーマジシャンだ。

 今回の魔物討伐が初の実戦となる彼女も緊張や不安があるのだろう、ここ数日は雰囲気が暗く、どんよりとした感じだ。

 俺も俺で不安がないと言えば嘘になる。実戦はやはり怖い。まだ3回目だしな。

「……ねぇヘイン、どうして私はあの時魔法を失敗したんだろう?」

「ん?」

「ほら、一週間前の、発端となった時の」

「あー、あれか……俺としては距離の指定ミスだと思っている」

おそらく、一人分の移動と二人分の移動では指定する距離が違うのだろう。一人の時の指定する距離をそのまま二人にも適用してしまうと、2倍の距離移動してしまうのだと考えられる。

しかし俺達はリゼが思っていた練習場の端から端の移動距離の2倍以上は軽く離れている中庭の方の上空へと移動してきた。俺の仮説だけだとそこまで移動したことに説明がつかない。

何か別の原因もあると考えるのが自然だろうか。

「なるほど……私達の重量が合算されてその分重くなるから、移動に必要なエネルギーも多くなると考えて二人分で演算してたけど、転移時には重さは考えなくてもよかったんだ……」

 なるほどな。俺の発想以外にも色々と考えられる要因があるようだ。

「俺はその魔法の組み立て方わからないから、リゼが納得したことが正しいかどうかはわからないけど……急にどうした?」

「私……怖かったの。魔法を失敗することなんて今までも何回も合ったけど、あそこまで危険な失敗をしたのは初めてだったから。これから魔物討伐に行ったとして、また大きなミスをしてしまって、私はともかくヘインまで危険な目に合わせてしまったらどうしようって……」

 それで最近は元気がなさそうだったのか。

「今までのミスがたまたま大事にならなかっただけだろ。気にするなって。リゼの魔法ミスぐらいで死んでたら今頃100回は死んでるって」

「何それ、酷い」

 まぁ実際、師匠との訓練時代、出力を間違えたリゼに殺されかけたことは何度もあった。

 昔に比べて今のリゼは随分努力家だが、その努力の殆どは「出力を抑えて制御する」為に行っているものだ。

 絶妙な力加減というのは存外に難しい。殊更魔法の才能に優れた学生が多いここでは、魔法の出力を自由自在にする為の練習を行うものが大半ではあるのだが、それなりの割合でいる、標準の出力が強すぎて危険なので、その抑制に苦労するリゼのような学生も存在する。

 魔物が扱う魔法はそういう出力の制御を一切考えない、ただ力任せに発動するだけだとトゥーリェの手記と伝わる文献には書かれている。人間が扱う魔法の大半は魔物が扱っていた魔法に名前を付けて真似している物をベースに出力を調整して応用を利かせた場合が多く、出力を調整できること、それが人間の魔法の特徴だと言える。

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