第70話 いけませーん!
「ど、どどど……どゆこ!」
「いけませーん!」
俺が目を白黒させていると、サーシャが『スパーン!』と割り込んできた!
「おおお、オトハさまはまだ17歳なんですよルナさま! どうかR−18なご発言はお控えくださいませえぇ!」
「ええええー!?」
俺はサーシャの発言にもビックリした!
奴隷は奴隷でも『そっちの』奴隷か!
(る、ルナさんが……あわわ)
銀髪褐色ムキムキグラマーなルナさんが……お、俺の……。
「あわわわ……」
あ、あかん!
想像しちまった!
そして頭に血が昇ってきた!
お風呂に入っているわけでもないのにのぼせそう……。
「ああん? ちょっとまってくれよサーシャ。何を突っ走っているんだい?」
「突っ走っているのはルナさまですわ! い、いくらオトハ様がピッチピチの女装がよく似合う男の子で食欲をそそられるとはいえ……そのような卑劣極まる飽和攻撃で籠絡なさらなくても! はあはあ!」
と言ってサーシャは目を血走らせ、鼻息を荒くした!
頭の中はどうなっている!?
「お、おう……!? た、確かに言われてみりゃあ……短期間で腕力値カンストさせて、そのうえひたむきで、領民らの信頼も厚いときた……。きっと中身も鍛えがいのあるピッチピチだろうな……はあはあ! たまんねえな……!」
ルナさんも何か変だー!?
「むはー!? 絶対に渡しませんわ! オトハ様、ルナさまよりも先に、どうかわたくしめを奴隷になさってください! この際、年齢制限なんてどうでもようございますわ! 17歳といえば、時代が時代であれば何でも許されるご年齢! どうか私めを一番奴隷に……!」
「まてまてー!」
落ち着いてサーシャ!
あとルナさん! うちのメイドをけしかけないでー!
「はあはあ……ルナさん、奴隷なりたい理由を聞かせてもらえますかね……」
「ああ、そうだな……取り乱したぜ」
まったくみんなして!
純粋な男の子をからかって遊ぶんだから!
「かいつまんで言うとだな。あたしもその『白金の絆』にあやかりたいんだ」
「えっ! 出来るんです!?」
プレイヤー間でもこの絆を結べるというのなら、それはすごく画期的なことだ!
「いいや、わからない。前例が無いからね」
「やってみないことにはってことですね……でも何で奴隷に?」
「それが、プレイヤー同士で結べる、最も強固な関係だからさ」
そうなのか……!
「知っての通り、AROはあらゆる階級・職業をロールプレイできるゲームだ。その中にはもちろん、奴隷という階級も存在する」
「ええ……でも奴隷スタートなんて、やる人いるんです?」
「結構いるみたいだぜ? 公爵令嬢で始めると聖女が性悪になるだろ? あれに飼われたいっていう猛者なんかがな……」
「…………」
まあ……世の中色んな人がいるということだ。
深くは考えないでおこう。
「奴隷になると、まず行動範囲が制限されて、好き勝手に出歩けなくなる。そして全ての所有物を剥奪される。アルスの所持すら許されない」
「全部、主人の用意したものを使うってことですね?」
「そうだ。食料や素材を手に入れても、一旦全部ご主人様の所有になるから、自分で自分の食い扶持を賄うことすら出来ない。ずーっと放っておかれて餓死するなんてケースまである」
「うわあ……」
「まあ、奴隷に死なれて一番困るのは主人だから、そこんとこはきちっと管理してくれるけどな、NPCの場合……」
プレイヤーがNPCを奴隷にした場合は、長時間ゲームを放置して消滅……なんてこともあるわけだな。
「奴隷状態から脱するには?」
「主人に解放してもらうか、もしくは死んでもらうしかない」
「き、厳しい……」
「殺した場合は赤ネームになるから、頑張って国外まで逃げないといけない。もし途中で捕まったら、今度は王家の奴隷兵にされてしまって、ますます逃げられなくなる」
それは大変! 奴隷スタートから普通の冒険者を目指すっていうのは、相当難しいプレイになりそうだ。
「んで、こっからが重要なんだが。プレイヤーがプレイヤーの奴隷になると、『NPC格の従者と同等の存在』だと統括AIが認識する……という説がある」
「……説なんですか」
「検証しようが無いからね。高度AIの自己発展によって作られたプログラムなんて、人の手で解析できるようなもんじゃないんだし……」
「うーん……」
その辺は専門的すぎて俺にはよくわからないな……。
とにかく俺の奴隷になれば、プレイヤーであるルナさんでも『白金の絆』の一員になれる可能性があるわけだ。
「とにかく、やってみるしか無いってことですね」
「うん、試してみる価値はあると思うぜ? なんたって前代未聞だ!」
確かに……。それでルナさんがずっと居てくれるのなら、俺としてもありがたい限りだ。
(しかし……)
ルナさんからすれば、少々リスクが大きすぎないだろうか?
愛用の武器や防具まで、事実上、俺の所有物になってしまう。
そして、すでに白金の絆で領民たちと結ばれている俺をルナさんが倒すことは、まず不可能だ……。
「ルナさんは、本当にそれで良いんです?」
「ああ、かまわないぜ?」
「そ、その……俺が本当に、ルナさんを奴隷扱いしちゃう可能性だって……ごくり」
そんな気は毛頭ないけど、一応確認しなければ……。
「お、オトハ様! そのようなことをしたいのであれば、どうかわたくしめを!」
「さ、サーシャ! あくまで『もしも』の話だから!」
「その『もしも』があるだけで、わたくし、気が気ではありませんわ!」
「えええー!?」
ヤキモチ焼きのメイドさんがグイグイくる件について!
「まあー、その辺はあんたの人柄を信頼してってことだな」
「そうですか……」
そこまで言われれば断れないが……。
「だがどうやら、問題はあんたの気持ちよりも、その周りにあるみたいだ……」
「えっ……?」
――ドヨドヨ
――ドヨドヨ
「はっ……!」
ふとまわりを見渡せば、領民達が俺の方を見てどよめいていた。
――オトハ様が奴隷を!?
――あんな美しい方を……ハァハァ。
――やっぱり男の人なのね……。
「ぬわー!?」
早くも、良からぬ噂が立っている!
「奴隷にする方法は簡単だ。これをあたしの首につければいい」
と言ってルナさんが取り出したのは、鉄製の首輪だった。
トゲトゲがついていて、いかにも奴隷用って感じの首輪である。
「あれ……でも本当に首輪だけだ」
俺はそれを受け取ってしげしげと眺めるが、鎖などはついていなかった。
「それは『奴隷首輪』といってな、装着すると、首輪と主人の手首の間に『見えない鎖』が出来る。奴隷の主人は、その見えない鎖の長さを自由に調整できる」
「へ、へえー……」
「見えない鎖は、主従の契約が切れるまでけして千切れることはない」
本当に奴隷だな!
この世界は、奴隷のいる世界であった……。
――おおお……!
――本当にやるのかしら!
――ママ、あたしこわい……。
「はうっ!?」
小さい子供たちが、俺を見て怯えている!
「オトハ様がどうしてもと言うのなら、わたしに止める権利はございません……」
と言ってシュンとなるサーシャ。
ともすれば、彼女の信頼度まで下げてしまうかも!?
つまり重要なのは、俺とルナさんの間のことじゃない。
俺が奴隷を持つことを、みんながどう思うかだ。
「ルナさん、ごめんなさい」
「うむ」
「俺の判断では決められません……!」
「そうだね……」
ちょっと残念そうな顔をするルナさん。
俺もなんだか、残念だ……。
ルナさんを奴隷にしたかったわけでは……ないのだけど。
――ピロリロリーン。
「ん?」
その時、メッセージ着信音が鳴った。
どうやら俺宛てに、メッセージが飛んできたらしい。
「もしや……」
すぐにその送り主を確認する――。
【新着メッセージ1件】
【レイア・イーグレット:『当同盟への加入希望の件』】
「はっ……!」
それは、竜人同盟の盟主さんからの着信だった。
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