第69話 祝☆勝利、そして……


 戦闘終了後、地下広場にて――。


――うむ、あの作戦はいけるな!

――私達も泥沼に飛び込めば良いのね!


 あれからみんなで、泥に沈んだ人達を引き上げた。

 そして泥だらけのままで、早くも次の戦いのことを考えている。


「よくやったわ! メイシャ!」

「お手柄です!」

「すごかったのだー!」

「とにかく必死でしたぁ!」


 どうやら、沼の底に引きずり込むことを咄嗟に思い付いたのはメイシャだったようだ。

 サーシャ達に褒められている。


 でもみんな泥だらけだ。

 早く何とかしてあげないと……。


『おーい、オトハル』

「あっ! とーちゃん!」


 ヤギの王様からチャットがきた!


『国庫に大量のアルスが振り込まれたぞ。これ全部ルナさんに渡せばいいか?』

「えーっとお……」


 俺はチラリとルナさんを見る。

 今回は何もしていないからな……。


「ははは、いらないよ! 何もしてないしな!」

「そうですか……では」


 全部丸ごといただくことにした!


『じゃあオトハルに渡しておこう。とーちゃんも色々試してみたいから、少しもらってもいいか?』

「うん! 好きにやっちゃってくれよ!」


 牧場でも作るのかな?

 1000億アルスを王国の財布に残して、あと全部公爵家の財布に移した。


(これで、お金の心配はなくなった……)


 そしてさっそくこのお金で、俺はみんなのための『お風呂』を作ってあげたのだった。



 * * *



――カポーン!

――ダバダバダバダバ……


「あー、生き返りますわー」

「本当ですねー」


 ダルスさんと隣り合って湯に浸かる。

 本当に本物の温泉みたいな心地よさだ!


 俺は大金を叩いて、適当な横穴の中に『大浴場セット』を配置した。

 それぞれ、100人は一度に入れる大きさだ。

 男風呂には壺を抱えた女神像、女風呂には大きな獅子像がそれぞれ飾られて、獅子の口と女神の壺のからは、お湯がダバダバと溢れ出てくる。


 魔石を買ってセットすることで、自動でお湯が循環されるという優れものだ。

 1セット5000万アルスもするが、1兆近い金を手に入れた今となっては、大した額ではなかった。


「これもみな、オトハ様のおかげですじゃー」

「いえいえ、みんなの頑張りと工夫があってこそです!」


 俺はむしろ、危険を呼び寄せてばっかりだ……。


――バシャバシャバシャ!

――うははああーい!


 子供たちも楽しそうだ。

 泥で汚れた装備も、そのまま湯船の中に放り込んで洗ってしまう。

 魔石が切れない限り、お湯が濁ることもないしな。


――ダバダバダバ……


 手足を伸ばして入れるので、家の風呂より全然リラックスできる。


「あー……」


 これは気持ちよすぎるぜ……。

 ログアウトできなくなっちまいそう……。


 あ、ちなみに。

 普通に男風呂に入っているけど、みんな何とも思ってないぞ?

 ジロジロ見られているのは、きっと俺が領主だからだ!



 * * *



「グビグビグビ……ぷはー!」


 やっぱり風呂上がりは牛乳だ!

 男湯と女湯の間に作った休憩所で、俺は一息ついていた。


「生ビールはいかがですー?」

「マスターいっぱいくれー」

「あいよー」


 近くではブラムさんが出張バーを開いている。

 

「かき氷はどうですかー? マジュナス先生の作った氷でーす」

「うわー冷たくてうめー!」

「俺メロンー!」

「わたしイチゴ味ー!」


 コックスさんがかき氷屋さんを始めたら、子供たちに大人気だ。


 いいねいいね、俺はみんなのこういう姿が見たかったんだ……。


「オトハ様、よろしいでしょうか」

「はい、セバスさん」


 茣蓙の上で寛いでいると、セバスさんがやってきて腰を下ろした。


「大量の収入がありましたので、借り入れ金の返済をいたしましょう」

「あ、そうですね!」


 早く返済した方が、利息を払わなくて済む。

 ちゃちゃっと返済してアセットステータス確認!



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キミーノ公爵家 財務 (単位:アルス)

税率  :       0%

月間収入:   150万0000

内訳

税収  :       0

生産  :   150万0000

月間支出:  1512万5000

内訳

人件費 :  470万5000

王国税 :       0

その他 :  1042万0000

返済  :      0

収支  : -1362万5000


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 グママーのエサ代が相変わらずだが、大金を得た今となっては大したことないように思える……。

 税率は当分の間ゼロで良いだろう。



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総資産 : 9001億5716万2105

内訳

資金  : 8997億6832万3705

家屋  :  1億2500万0000

土地  :    4000万0000

所持品 :    8383万8400


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 資金がおかしい。ケタが多すぎて目が滑る。

 自分でぶん取っておいて何だが、こんな大金何に使えば良いのだろう?

 ガン◯ムとか作れちゃいそう……。



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領内状況 (about)

月間生産:    6751万0000

一人平均:     10万7843

総資産 : 9015億0567万4532

一人平均:  14億4010万4911


追加項目

平均忠誠値 99

領内格闘力 403


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 公爵家の資産は、もちろん領内総資産に含まれるので、その桁もおかしなことになっている。

 1人平均14億の資産か……やばいな。


 村人たちがムキムキになったことで、さらに月間生産量が上がっている。

 しかし今はその殆どが鉱業生産だし、地上での活動を再開しないと、農業収入がどんどん減っていってしまう。

 いかに大金を得たとはいえ、農業は文明の礎。

 けして疎かにすることは出来ないぞ!



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プレイヤー:   2

NPC  :  624

来訪NPC:  54

計    :  680

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「おや!」


 王国領からついてきた人達が、来訪者としてカウントされている。

 公爵領の人と働いてはいるけれど、それだけでは領民とは認定されないようだ。


「セバスさん、来訪者を正式にうちの領に迎え入れるにはどうしたら良いのです?」

「公爵領の所属になりたい者がおれば申し出てきますので、その時に承認をお与え下さい」

「なるほど」

「誰か他の者に権限を与えて、代行させることもできますぞ?」

「ふむ……」


 最初のうちはやっぱり、自分でやった方が良いよな。


「しばらくは俺がやります。もし、俺が居ない時に来たら、ちょっと待ってもらってください」

「かしこまりました」


 他の領地の人達を迎え入れたら、その人達も白金の絆を受けられるんだろうか?

 もしそうだとしたら、ジャスコール王国の全員をうちの領地の民にしてしまえば、もっと無敵に出来るのではなかろうか。


(うーむ……)


 まあ、そう上手くいくとは思わない方が良いな。

 領民忠誠度も、また99に下がってしまっているし……。


「あ、あの……」

「……領主様がこちらに居ると聞いて」

「は、はい!?」


 とかなんとか考えていたら、王国領の人達が10名ほどやってきた!

 俺は立ち上がって出迎える。


「どうか私たちを、お膝元に置いてください!」

「王国領には威張る人が沢山いて嫌なんです!」

「お、おおう……」


 どうやら王国領は、今でも混沌としているようだ……。


 俺はひとまず全員のステ値をチェックして、極端に忠誠度が低い人がいないかを確認した。

 でもみんな、どういうわけか忠誠値は高めで、100の人が2人もいた。


「ありがとうございます!」

「精一杯頑張りますわ!」

「こちらこそ宜しくです! よかったらお風呂入っていってくださいね!」

「えっ! いいんですか!」

「もちろんですよ!」

「ヤッター!」


 そんな感じで、新しい仲間達と団欒していると……。


「ああ、良いお湯でございました、オトハ様」

「すっきりしましたー」

「したのだー」

「あっ、みんな」


 サーシャを先頭に、メイド達が女湯の方から歩いてきた。

 みんな浴衣を来ている。

 藍色の縞模様が入った、いかにも温泉旅館って感じの浴衣だ。


「その浴衣は?」

「はい、ルナさまにいただきました」

「へえー」


 やはり竜人殺しだけあって羽振りがよい!


「いやー、風呂ってのは何度入っても良いもんだねー」


 ルナさんもまた、同じ浴衣を着ていた。

 随分と長々入っていたようだが、ヴァーチャルの湯はいくら浸かってものぼせないから大丈夫なのだ。


「ログアウトしたくなくなりますよね!」

「だなー。ゲームの中で風呂に入ると、ログアウトしたときに変な汗をかいてたりもするんだ。それでもう一度、リアルで入り直すことになったり……」

「へえー……」


 リアルで入ったり、ヴァーチャルで入ったり、忙しいことになるな。


「で、何をしていたんだい?」

「新しく仲間になった人達と話していました」

「うおっ、早くも人口が増えたか!」

「あと、お金の使いみちも考えなきゃなって」

「ふむふむ、あれだけの大金だ。気をつけて使わないとヤバいからな」

「ええ……」


 領民達の生活に多大な変革がもたらされてしまいそうだ!


「当分は、防衛力を上げることに使いますけどね。いくらかは直接みんなに渡して、各自でも装備を整えて貰おうかと……」

「ふむふむ、あんたらしいなー」


――おおおー!

――聞いたかみんなー!

――何に使うー?


 はっ!

 みんなが早くもお金の使いみちを考えてる!

 どれだけ渡すかが問題だな。

 少なすぎたらケチと思われるだろうし、多すぎたら混乱を招きそうだ。


 うーん、まだまだ考えることが沢山ありそう……。

 

「あー、ええ湯じゃったわいー」

「あっ、先生」


 そこに、我が領で一番風呂が似合う人が来た。


「よかったら肩でももみましょうか?」

「むひょ! オトハ様にやって頂けるのですかなー!?」

「はい! 肩こりがひどいんでしょ?」

「むほほーい! ではお願いするのじゃー!」


 そして俺は、先生の後ろにまわって肩をもんだ。


――モミモミモミモミ


「うほー! もっと強くしてもええんじゃぞー?」

「えっ! 結構頑張ってるんですけど……」


 俺の腕力は255なのだがね!?


「じゃあ本気でいきますよー! うおおおりゃああー!」

「むっ、むほおーん! きくきくううー!」


――モミモミモミモミッ! 


「あっはーん!」


 いい感じになった爺さんが、妙に艶のある声を上げた!

 すると――!


――ピッシャーン!


「うわっ!」

「なんでございまし!?」


 突如として走る閃光!

 新しく加わった村人達の胸に、『白金の絆』が浮かび上がった!


「こ、これは……!」

「むほー!?」


 爺さんもびっくりしている!

 まさかこれはー!


【領民忠誠度100達成。称号『白金の絆』を再獲得しました】


 キター!

 忠誠度が一度下がってまた100になると、こういうことになるのか!


「なるほど、話には聞いたことがあったが、本当だったんだな……」

「ルナさん!?」

「白金の絆の取得者が、この世界にはあと2人いる。そのうちの1人が、竜人同盟盟主のレイア・イーグレットその人なんだが、彼女は侯爵令嬢から始めたにもかかわらず、全ての国民と白金の絆で結ばれているっていう噂がある……」

「そ、そうなんです……?」


 何か……やっぱり凄い人なんだな竜人同盟の盟主さん……。


「噂っていうのはまあ、本人以外確かめようがないことだからなんだが……。そうか、やっぱり白金の絆っていうのは、再獲得も可能な称号だったんだ……」


 と言ってルナさんは、何故か神妙な面持ちになる。


「うーん……」

「え、えーと……」


 何を考えているんだろう?

 白金の絆が何度でも再獲得できる称号だというなら、地道に頑張っていけばいずれジャスコール王国全ての人と、絆を結べるということだ。

 それは確かに、途轍もないことなんだろうけど……。


「なあ、オトハさんよ」

「はい」

「1つ提案がある……」

「は、はい……!」


 ルナさんは、どこまでも真剣な表情をこちらに向けて言った。


「あたしを、あんたの『奴隷』にしてくれないか?」

「え?」


 俺は一瞬、彼女が何を言っているかわからなかった。


「ええええー!?」


 そして、その意味を理解して驚愕する。


「「「「えええええー!?」」」」


 場が、一瞬にして騒然となった……!


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