第68話 泥試合!
――エクスプロージョン!!
――エクスプロージョン!!
――エクスプロージョン!!
――エクスプロージョン!!
――エクスプロージョン!!
ブルーレイザーズのみなさんの最初の一手は、トーチカに対する爆裂魔法の集中砲火だった。
――ドーン!
――ドーン!
――ズゴーン!
――ドバーン!
――ズッガーン!
「うおお!?」
トーチカの1つが木っ端微塵に吹き飛んだ!
俺のHPが削れていないということは、中にいた人は間一髪で逃げたのだろう。
「突入ー!」
――ウオオオオー!
これまでのチャレンジで得られている情報を分析した、的確な戦術だった。
坑道からではなく、横穴から侵入していくスタイル――。
かと思いきや。
「バインドぉ!」
「あうっ!?」
何と! 中で弩を持って構えていたメイシャが、魔法で拘束されてしまった!
「きゃー!?」
「よーし! いくぞー!」
――ウオオオー!
「ええーっ!?」
仮にも接客のプロが! 年端もいかない女の子をよってたかってボコる気か!
――ヘーイ!
――ワッショーイ!
「きゃー!?」
いや違った!
ブルーレイザーズのみなさんは、メイシャを担ぎ上げるとそのまま奥に進んでいった!
しかも何となく、ホストなノリだ……。
――バインドぉー!
――ぬわー!?
――バインドバインドぉー!
――いやああー!
――あふーん!?
――ワッショーイ!
どうやらバインドで村人たちを拘束して、一箇所に集めるつもりだ!
「やばい!?」
実はかなりのやり手だった!
一箇所に集めて、範囲攻撃で一気に殲滅するつもりだ!
「どうする? 止めに入るかい?」
「くっ……!」
確かにそうすべきところなのかもしれない。
だが……!
「遊んでって下さいって言ったのは、俺なんで!」
「ほほう!」
「ここは、みんなの力を信じます!」
「うん! 良い心がけだな!」
ここで介入したら、言動不一致の卑怯者になってしまう!
だから俺は耐えることにした。
――バインドバインドォ!
――キャー!
――イヤー!
――ジャンジャンバリバリー!
――ワッショイショーイ!
村人たちを拉致しながら、どんどん奥に進んでいく!
だが横穴は坑道よりも狭く、集中攻撃を加えるのには適していない。
下手に留まれば、挟み撃ちにあう。
――押し止めろー!
――矢を放てー!
村人達の反撃が始まったようだ。
俺は坑道を通って先回りする。
――キイーン!
――カキーン!
縦坑に出た所で、上の方から金属音が響いてくる。
侵入者達の攻撃を盾で防ぎ、後ろから矢を射掛けている音だ。
――押し切れー!
――最下層まで一気に降りるぞー!
――うおおおー!
鍛えられた領民達でも、上級プレイヤーの攻撃には耐えられない!
――真・皐月乱れ!
――スパパーン!
――グワアアアー!
――アイヤアアー!
恐らくは、刀によるものと思われる攻撃で、数人の領民が吹き飛ばされてくる。
俺の頭上の横穴から、ポーンと飛び出し、そのまま下層に落ちていく!
「ああー!?」
このままでは下の泥沼にハマってしまう!
――トルネードー!
――シュババッ!
「おおっ!?」
1人は下から吹き上がってきた竜巻に持ち上げられ、もう一人は横穴から飛び出してきた黒い影によって、足場の上へと戻された!
メドゥーナと先生だ!
さらには数人の村人たちが、セーフティーネットを張り始めた!
――メテオ・ストリーム!
――ズガガガガン!
――ひいいいー!?
――うひょーー!?
さらに落っこちてきた何人かが、張られたネットの上に落ちて回収される!
――全員お一人ずつ捉えたか!?
――あいさー!
――よーし、じゃあ飛ぶぞー!
――うおおおおおー!
――ヒャッホー!
――カマーン!
ブルーレイザーズのみなさんは、それぞれ一人ずつ村人を抱えると、そのまま縦坑の底めがけて飛び降りた!
「あああー!」
「やっちまったな!」
それが地獄への片道切符であることなど、露も知らずに……。
――ヒューーン!
――ズボボッ!
――!?
ああ! いわんこっちゃない!
全員次々と上げ底の地面を踏み抜いて、その下の泥沼にハマっていく!
――ぬわー!?
――げえええー!?
――あほかー!?
――イヤアアアー!?
――バカヤロー!
16人が全員、一人ずつ抱えて飛び込んだので、総勢32名によるどろんこ大戦争が始まった!
――ひどいドロよー!
――うごけねえ!
――モガモガ!
――うひゃー!
――誰作ったのこれー!?
――きゃー! わたしー!
――やりすぎー!
――自分でハマるとは……!
ああ! 敵味方関係なく酷いことになっている!
ハマっちまった味方はどうすれば良いんだ!?
――これにつかまれー!
――そりゃー!
近くの横穴から、ガタイのよいオッサン達が縄を投げる!
――ヤッター!
――たすかったー!
領民たちを狙って投げたようだが……!?
――コノヤロー!
――俺達もだせー!
――No1だったこともあるこの俺を……!
――ツカマレー!
ああ! ホスト戦士達も一緒になって組み付いてきた!
これまさに芥川龍之介の『蜘蛛の糸』状態!
――はなしなさいよー!
――ゲシゲシ!
――サンダーボルトー!
――ビリビリビリビリ!
――ギャアアアアアー!
魔法で迎撃するも、全員感電してしまった!?
ひどい! これは文字通りの『泥試合』だ!
それからしばらく、バインドの解けた領民達とホスト戦士達が泥みどろの戦いを繰り広げた。
しばらくしてホスト戦士の1人が、ウォーターボールが有効であることを発見する。
水魔法で泥をゆるくして脱出するのだ。
――お前らつづけー!
――ウォーターボール!
――バシャバシャ!
ああ! このままだとホスト戦士達が泥沼を脱してしまう!
だが……!
――うあう!?
――誰だ足を引っ張っているのは!
気づけば領民全員、泥の底に消えていた。
あえて泥の底に潜って、ホスト戦士たち足を掴んで引きずり込んでいるのだ!
「地獄だな……」
「は、はい……」
メイシャとか、若い女の人も多いのに……。
俺は、あまりのみんな逞しさに震え上がった。
――く、くそ!
――上がれねえ!
――よし、いまだー!
――!!??
そこに上から、巨大な岩石が降り注ぐ!
――ガラガラ!
――ズッゴーン!
――ギャアアアー!?
ホスト戦士の1人が、その直撃を受けてデスった!
さらに――!
――エクスプロオオオ…………ジョーン!
――ドガガガガガーン!!
――ゲエエエエー!?
本家本元! マジュナス先生の爆裂魔法が直撃する!
でも、領民たちは泥の底に潜っているから平気だ……!
――ぐわあああー!
――パリーン!
さらに2人ほどデスった!
すでに結構なダメージを受けていたようだ!
――うてええええー!
――シュババババババババババ!!
――撃って撃って撃ちまくれー!
――シュババババババババババ!!
――ファイヤボール!!!
――シュゴゴゴゴゴー!!!
――ウィンドウカッター!!
――シャキシャキシャキーン!!
さらに上の横穴から、数百人の領民達による矢と魔法の攻撃が降り注ぐ!
――イデデデデデ!!
――ウワアアアー!
――ヒイイイイー!!
――ギャアアアアアー!?
「む……」
「むごい……」
俺とルナさんは横穴の先から地獄の底を見下ろしつつ、呟いた。
こ れ は ひ ど い !
為す術もなく攻撃を受け続け、ホスト戦士達は1人また1人とポリゴンの欠片に還っていく。
その数がわずかとなり、大勢が決したと判断した俺は、話だけでも聞いてやるべく最下層へと降りていった。
「ストーップ! そこまでだみんなー!」
やりすぎだー!
高らかに叫んで、攻撃を止めさせる。
残っていたのはリーダーのディーンさん1人だった。
「う、う、う……」
「だ、大丈夫です……?」
「うわああーーん!」
「!?」
しかし、壁際に引き上げられたディーンさんは、子供のように泣き始めた。
大丈夫じゃなかった!
完全に心が砕けちまったぜ……。
「ふははああああーーん!」
「や、やりすぎましたすみません……」
全身、チョコレートをかけたかのような姿に、当初のギラギラした面影はまったくなかった。
「なんてことをするんだあああー、うわーんあんあん!」
「おいおい、しっかりしろよ!」
と言ってルナさんが喝を入れるが……。
「あーんーまーりーだー!」
「うわあ……」
「これでも元ナンバーワンなんだぞおお! うわああーん!」
「ご、ごめんなさい……」
元だもんな……どうしよう。
これで入国料の9999億9999万9999アルスを全部没収しちゃったら、みなさんリアルでも生きていけなくなっちゃったりして……。
たかがゲームで身を持ち崩すなんて、そんな事があってはいけない。
流石に業が深いと感じた俺は、ディーンさんに提案する。
「その……お詫びとして入国料をお返しても良いんですが……」
「にゃ、にゃにい!?」
「うわっ!」
するとディーンさん、泥だらけの手でを俺を引っ掴んできた。
一瞬「キラッ」とした嬉しそうな目で俺を見るが……。
「う、ううう……! うおおおお……!」
「あわわわわ……」
「うおおお……! 貴方はどこまで……! どこまでええー!」
そしてしばらく苦悶の表情を浮かべた後……。
「お、俺達は新進気鋭の武闘派ホスト集団、ブルーレイザーズ!」
「は、はい……」
「どんな地獄の底からでも、自らの力で這い上がってやる!」
「…………」
「覚えていろオトハ・キミーノ公爵令嬢! いつか貴方を『落として』みせる!」
「……えっ!」
なんだその意味深なセリフは!
俺のことネカマだと思ってな――。
――ドン!
「うわあっ!?」
そして彼は俺を突き放し――。
「ディメンション・クラッシャアアアアー!」
「うわー!?」
――ザクー!
――パリーン!
宝石のような片手剣で会心のハラキリを決め、見事ポリゴンの欠片と成り果てたのだった。
「な、なんと……」
「ふっ……なかなかどうして見事じゃないか」
負けは負け。
哀れみは受けない。
最後まで男を貫き通したのだな。
(ブルーレイザーズ……)
正直もう関わりたくないけど、名前くらいは覚えておこう……。
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