第61話 自ら挑戦2


 命からがら、縦坑の入口に到達。


「これは……」


 入口には、人の首ほどの高さに透明な糸が張られていた。

 恐らくはクモ系のモンスターがドロップする品だろう。ピアノ線のように細くて強靭な糸だ。

 地味ではあるが、気付かずに突っ込むとえらい目にあうトラップだな。


 その先には――。


『ピッタリ止まれ!』


 そんな文字が書かれた看板が。

 その先には、幅50センチくらいの細い足場が伸びていて、途中で切れてしまっている。

 さらにその足場の手前には、スケートボードのような道具が……。


「こ、これは……!」


 何だか楽しげなアトラクションだ!?

 ボードの上に腹ばいになって、シャーっと勢いをつけてピッタリ止まるっていうアレだ!


「や、やってやろうじゃないか!」


 失敗して行き過ぎたら、最下層まで落っこちて泥沼にドボンだ。

 深さは30mくらいあるから、かなりの恐怖感がある。

 6階建ての建物から飛び降りるようなもんだ。


 俺は慎重にボードの滑りを確認すると、絶妙な勢いで足場の上を滑っていった。


――スシャー!


 よし! いい感じだ!

 少なくとも行き過ぎることはない!


――ピタッ!


 そして俺は、足場の先端から50センチくらいの位置に停止した。

 これはかなり点数高いんじゃないか!?


「んで……」


 一体どんなご褒美があるんだろう?


「むむむ……?」


――ヒュルーン


 下から風が舞い上がってきて、俺の髪を揺らした。

 なんだよ、何もないのかよ!

 俺はしかたなくボードから降りて、普通に足場に立った。


――ガラガラガラ。


 すると、向こう側の横穴から足場が伸びてきた。

 村人達がせっせと押し出して、こちら側とつなげてくれている。

 おそらくは、ちゃんとボードを使ってシャーっとやらないと足場を渡してくれないのだ。


 そして俺は、最初の横穴へと入った。

 10mほど進むと左右に分岐しているので、適当に右に行ってみた。

 すると今度は、緩やかに下る真っ直ぐな道と、上へと向かう階段とに道がわかれた。

 最下層に向かうことが目的なので、素直に下に向かう。


 すると今度は、縦坑に出ると思われる道と、逆に奥に入っていってしまう道、そしてまっすぐに進む道へと3分岐する。

 試しに一度、縦坑に出てみるが、その先に足場は渡されていなかった。


「ふふふ……」


 何も、道順に従って進む必要はない!

 俺はちょっとズルをして、縦坑の壁面を下っていった。


 すると――。


――ヒュンヒュン!

――グサグサ!


「うへっ!?」


 俺の顔のすぐ横に、二本の弩の矢が突き刺さった。

 狙撃されている!


「うおおお!」


 俺は急いで近くの横穴に滑り込む!

 やはり縦穴に身を晒すのは危険が危ないようだ。


 だが――。


――シュゴゴゴゴー!!


「!?」


 目の前にズラッとならんだ魔法を使える領民たちが、一斉にファイヤーボールを放ってきた!


「アチチー!」


 たまらず縦坑に引き返す。

 火炎攻撃を前にしては、鉄の盾は意味がない。

 そして再び壁面にしがみつく。

 だがそこへ、さらに無数の矢が飛んできた。


――ヒュヒュヒュン!!


「うわわわっ!?」


――ザクザクザク!

――グサー!


「いってえーー!」


 ケツに一歩刺さってしまった!


【メイシャから6のダメージを受けた】


 うわー!

 どじっ子メイシャの攻撃だったー!


 矢が放たれた方向を見ると、横穴の陰でごめんなさいしているメイシャの姿があった。

 俺は別の横穴に飛び込むと、メイシャに向かってグッドサインを送ってあげた。

 ナイス狙撃! サーシャかアルルに教わったのかな?


「ふふふー、きたなー!」

「うわ!?」

 

 そこにいたのは、おてんばメイドっ子のコルン。

 そして、ハレミちゃんのご両親だった。


「あらあら領主様!」

「ここはハズレの穴ですよ?」

「えっー!?」


――バターン!


「なんだ!?」


 後ろを振り返ると、横穴の入口が木の板で塞がれてしまっていた!


「ここを通りたければ、私らを倒していくのだー!」

「本番だと思って!」

「まいりますよー!」


 そして三人は、恐ろしいほどのニコニコ顔で飛びかかってきた。

 同時に遅い来るのは、キミーノ公爵領の象徴たるアイアンメイスだ!


――ガコーン!

――ドゴーン!

――ガスガス!


「くっ!」


【コルンから5のダメージを受けた】

【コルンから5のダメージを受けた】


 流石に3人同時に来られるとさばききれない!


「どりゃ!」


――ガーン!


「えい!」


――ゴーン!


「ほーい!」 


――ズコーン!


 三人をシールドバッシュで吹き飛ばすが……。


「「「本気でかかってきて下さい!!」」」

「えーっ!」


 なんか怒られてしまった。

 領民達が相手だから、ついつい手加減してしまうのだ。


「本番は!」

「もっと恐ろしい人達が!」

「くるんでしょう!?」

「は、はい……」


 確かに……ルナさん級のプレイヤーが来たっておかしくないもんな。

 そこで俺は、今自分が繰り出せる最大級の攻撃をお見舞いすることにした。


「ファイヤーボール!」

「「「!!??」」」


 魔力161の俺がMPを全部使ってファイヤーボールを放ったらどうなるか?


――シュゴゴゴゴー!!


 横穴の中を遥か彼方まで突き抜ける、全てを消し炭に変えんばかりの炎が荒れ狂った!

 鉄をも溶かす、地獄の業火だ。


【コルンに583のダメージを与えた】

【オルツに796のダメージを与えた】

【ミイナに695のダメージを与えた】


 普通なら確実にデスるダメージなのでヒヤヒヤするが……。


「うひょー!」

「流石は領主さまです!」

「目が覚めるようですわ!」

「…………」


 うちの領民は……ドMだらけか!?


「でもやられそうだから下がるのだー!」

「マニュアル通りに」

「うごかないとね!」


 どんなマニュアルを作ったのだろう……。

 3人はすたこらさっさと、穴の奥へと引き下がっていく。


 横穴の先は左と右にわかれるT字路になっている。

 コルン達は左に行った。

 追いかける必要はないので右に向かう。


「うお!?」


 するとその先に多数の村人が待ち構えていた!

 4人が膝立ちになって並び、盾を構えて壁となる。

 その後ろに立つ4人が、一斉に弩を射かけてきた!


「うてー!」

「うわー!?」


――シュババババ!

――ズガガガガ!


 慌てて盾を構えて防御する!

 しかし、弩は矢の装填に時間がかかる!

 その間に――。


「第二射うてー!」

「!?」


――シュババババ!

――ズガガガガ!


「第三射うてー!」

「うおー!?」


――シュババババ!

――ズガガガガ!


 なんと、弩による三段撃ちだった!

 これは分が悪い、引き返そう!


「通さないのだー!」

「げええ!?」


 だが振り向くと、コルンを先頭にして多数の村人たちが盾を構えて壁となっていた!

 さらにはやっぱり、こちらにも三段撃ちの弩兵が!


「うてー!」

「ひいー!」

「うてうてー!」

「いやあああー!」


 狭い通路で挟まれて、前後から絶え間なく矢を浴びせられる!


――グサグサグサグサ!!


 くうっ!

 もしハイランカーだったら、この状況をどう切り抜けるんだ!


「ええい! こうなったら!」


 俺はヘビーフルプレートを購入して装備した。

 さらに鉄の盾を売却し、空いた手に金塊を握りしめる。


「俺の最終形態だ!」


 入国料をきちんと払ってやってきたプレイヤーを想定した、本気モードだ!


「ぬおおお!!」


 ベビプレを着て猛ダッシュ。

 すくい上げるようなアッパーで、盾を構えている1人を殴りあげる。


――ガコーン!!


「ぬわー!?」


【バッシュに123のダメージを与えた】


 鍛冶職人の1人であるバッシュさんは、凄まじい勢いで吹っ飛んでいった。

 その後ろにいた弩兵が巻き添えになる。


「オラオラオラオラオラー!」


――グシャバキドゴ!


 乱戦に持ち込めば、矢による攻撃はできない!


「おさえこめー!」


――ウオオオオー!!


「なにっ!?」


 だが前後から、みんなして突っ込んできた!

 相手は30人以上!

 俺は1人!

 これでは、腕力が255あってもどうしようもない!


「ならば! ファイヤーボール!」


 まだ回復しきっていない魔力を使って、自分ごと周囲を焼き払う!


――シュゴゴゴゴー!!


【セルフアタック! 45のダメージを受けた】


 自分までダメージをもらってしまうが、これで一瞬の隙きが出来た!


「いまだああああー!」


――グワアアアアー!?


 俺は全力で村人たちを押しのけると、そのまま振り切って先へと走っていった。


(し、死ぬかと思った……!)


 だが、まだまだ迷宮は続くのだった――。

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