第59話 シフト変え
盗賊団を撃退した後、ゴブリン洞窟に引き返す。
するとどういうわけか、王国領の人々が50人ほど付いてきた。
「わしらにも働かせてくだせえ!」
「お願い致します! 給料はいりませんから!」
「むむむ……!?」
タダ働きしてくれる……だと?
確かに、今の王国全体の税率は0だから、みんな食うには困らないんだろうけど。
「洞窟の中、結構ジメジメですけど良いです?」
「ぜんぜん!」
「かまいませんわ!」
ならば、特に断る理由はないが……。
俺は、ついてきた王国領の人達に、主に掘削作業をお願いすることにした。
そして今まで、鬼のような掘削作業をしていたムキムキの領民達に、王国領全体の警備をお願いした。
「では、ゴッズさんとグルーズさん、そしてオルテガさんをリーダーにして、3交代で警備にあたって下さい」
「マッ!」
「了解であります!」
「かしこまり!」
そして60名ほどの屈強な男たちが、鎧をガチャガチャならしながら走っていった。
オルテガさんは掘削班の中でも特に屈強な人で、今日から警備リーダーとして活動してもらうことになった。
お給金の話もしたのだが、自分で十分に稼げているのでいらないと言われてしまった。
そして――。
「ずいぶん掘ったな……」
『 ぐ ま゛! 』
俺は今、グママー洞窟の最深部にいた。
その深さは200mにも達している。
自動車用トンネルくらいの大きさがあってすごく目立つせいか、何人かの侵入者が間違って突入してしまい、グママーの餌食になっている。
「おなか空いただろ?」
『 ぐ ま ま !』
俺はパンと蜂蜜を山のように購入してグママーにあげた。
100万アルスほどの出費になったが、王国全体で発生している収益を考えればどってことはない。
グママーはあっという間にそれを平らげると、そのまま巣穴の奥で寝てしまった。
もとからあったゴブリン洞窟の横穴が、ちょうどグママー洞窟に繋がっている。
そこから中に入っていくと、ゴブリンキング部屋の近くに出た。
――ガンガン!
――ゴンゴン!
迷宮へと続くトンネルの方から工事音が聞こえてくる。バリケードを作る作業が進んでいるのだ。
こちらはいざという時の逃げ道なので、トラップは仕掛けずに、ひたすら通路の両脇にバリケードを作っていく。
こっちのシェルターは、入口を閉じてあるからまず入ってこないと思うけど、念のためにな。
でも、グママー洞窟と繋がっちゃってるのはどうするか……やっぱ塞ぐか?
「お嬢様」
そこに、セバスさんが話しかけてきた。
「できたら、こちら側にも炉を作りたいのです。グママーが掘った穴から鉄鉱石が出るようになりまして、領民たちからも寄付金が集まっています」
「うおっ! それはすごい!」
お金に変えられるものはみな売ってしまったので、どうやら現金が有り余っているようだ。今はこの迷宮がお家で仕事場のようなものだしな。
人は生きるのに困らなくなると、こうも太っ腹になるものなのか……。
「では、すぐにでもやって下さい!」
炉はいくらあっても良いものだ。
生産力と防衛力が同時にアップする。
「そうだ!」
せっかくだから、この横穴を利用しよう!
「良かったら、この横穴の向こう側に作りませんか? それでもし、こっち側に大量の敵が攻めてきたら、炉そのものを使って横穴を塞ぐんです」
「おお、それは面白いアイデアです。鉄鉱石を運ぶにも都合がよろしいですな」
炉には車輪をつけて、レールの上を動かせるようにしておく。横穴は炉の形にくりぬいておいて、敵が攻めてきたら鎖で引っ張って、その中にズボッとはめるのだ。
そうすれば、そこから先へは入ってこれなくなるし、無理に壊そうとすれば溶けた鉄にやられることになる。
(ナイス! エゲツなさ!)
レールと車輪は俺のアイデアなので、公爵家の財布から費用を出した。
車輪と台車が70万アルス、レールが1mあたり10万アルスで、しめて150万アルスほどかかった。
「では! あとはお願いします!」
――ハーイ!
みんなに後をまかせて、俺は下のトンネルを通って迷宮方面へと向かった。
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