第48話 出陣!


「ニヘラァ……」


 学校での休み時間中、俺はサーシャのことを考えながらニヤニヤしていた。


(うふふふ……)


 何度も頭の中で、キスシーンを再生する。

 ああ、恋だわあ……。

 吉田のことバカに出来ないくらいには、俺はいま色ボケている。


「おーい、公野ー」

「ニヘラァ……」

「公野ってばよう!」

「はっ!」


 気づけば目の前に吉田がいた。


「どうしちゃったんだよ、そんなニヤニヤしちまって」

「え? 俺そんなにニヤけてた?」

「おう、すげー気持ち悪かったぜ?」

「そうかー、うへへー、ニヘラァー」


 しばらく、周囲の俺を見る目が生暖かった。



 * * *



 胸のつっかえが全部取れた俺は、それから残りの月日を精力的に活動した。


――カーン! カーン!


 内政的にはもうすることがないので、ただひたすらに腕力を鍛える。

 それには鍛冶場でハンマーを振るうのが一番だ。


――カーン! カーン!


「んー、ちょっと軽く感じてきたかしらー?」

「じゃあもっと、大きいハンマーを作りましょう!」

「そうですわね!」


 鉄鉱石の一部を拝借して、さらに大きなハンマーを作る。

 その大きなハンマーで、もっともっと大きいハンマーを作る。


――カーン! カーン!


「ファイヤアアアーー!!」


 MPがすっからかんになるまで、炉にファイヤーを打つことも怠らない。

 そうしてどんどん鉄を鍛えて、大きいハンマーを作っていく。


「ちょっとやりすぎたかしらぁ?」

「グママーでも持てなさそうだぁ……」


 槌先がドラム缶くらいある巨大なハンマーが出来上がった。

 重さ1トンはある。もうマンガの世界だ!


「まあ、使っているうちに馴れますわあー」

「さ、さすが……」

「領主さまだべ!」


――ズガーン! ドゴーン!


 もう俺、人間製鉄所だな。


「ほらほら! もっと持ってきなさいませえええー!?」


――ガーンガーンゴーンガーン!


「ファイヤアアアアアー!!」


――シュゴゴゴゴゴゴオオオオー!!


「ほーれほーれ! あっ! だんだん馴れてきましたわ!」


――ガーンガーンガーンガーン!!


「すげええべさあああ!」

「どんどん鋼ができていくぞおおおー!」

「もっと鉄鉱石を運んでくるんだあああ!」

「木炭も片っ端から炉にくべろおおおお!」


――シュゴオオオオオオ!!

――ガーンガーンガーンガーン!!


「おーっほっほっほっほ! スピードアップいたしますわよおお!」


――ガンガンゴンガンゴンガンゴンガン!!


「よーし! くさびを入れて折り返えせえええ!」

「もっと人手とヤットコを持ってこおおおい!」

「オトハ様の腕を止めるなああああ!」

「出来ましたああ、領主さまあああ!」


――ガンガンゴンガンゴンガンゴンガン!!


「おーっほっほっほっほっほー!!」


 折り曲げて叩いて伸ばして!

 折り曲げて叩いて伸ばして!


「ファイヤアアアアアアーー!!」


――シュゴオオオオオオーー!!


 熱して熱して、また叩いて!


「どんどん行きますわよおおおお!! みなさんもご一緒にいいいいい!」


――ウオオオオオー!!


――ガンガンゴンガンゴンガンゴンガン!!

――ガンガンゴンガンゴンガンゴンガン!!

――ガンガンゴンガンゴンガンゴンガン!!


 こうして、みんなしてハンマーを振るい続けることおよそ二十日間。


 その結果――。


「ふうんんんん!!」


――ぬううううんんん!!


『ムッキイイイ!!』


 みんな、その腕が丸太のような太さになった!


 さらに――。


「できたああああ!」


――ワアアアアアアーイ!!


 完全鋼鉄製の、シェルター出入り口が完成した!

 さらには、新築された家の殆どに、鉄骨が用いられるようになった!


――筋肉さいこおおおおお!!


 また、やりすぎたああああああー!!



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


名前 オトハ・キミーノ

身分 公爵令嬢

職業 戦士

年齢 17

経験値 1591


【HP 455】【MP 388】


【腕力 255】【魔力  161】 

【体幹力104】【精神力 184】

【脚力 108】


【身長 175】 【体重 160】


耐性   恐怖A 刺突D 打撃A 火属性S

特殊能力 経営適正C 回復魔法C 宝石鑑定D 火魔法A 光魔法D 闇魔法C 受け流しC

スキル 猛ダッシュ 生産(宝飾)D 吠える スタンハウリング 掘る シールドスタン ナックルパリィ ドゥーム・ストライク

称号 拳豪 ゴブリン・スレイヤー 不屈の闘魂


装備


 大金槌(1トン)

 革のドレス

 革のブーツ

 宝石バッタ


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 腕力カンストオオオオオ!!



 * * *



「オトハ様、お茶が入りましたわ」

「うんっ、いつもありがとう、サーシャ」


 仕事のあとの一杯は格別だ。


「ああ、サーシャの入れるミルクティーは本当に美味しいなぁ」

「そんな、照れますわ……」

「いつまでも飲んでいたいなあ……」

「またいつでも、戻ってきてくださいませっ」


 そして俺とサーシャは、暖炉の前で2人、気持ち悪いほどにニッコニコするのだった。


 ああ、幸せだ。

 今俺は、本当に幸せの絶頂にあった。


 みんなと心で繋がっている。

 なんなら筋肉でも繋がっている。


 何かを最後までやり遂げるって、こんなにも満ち足りたことなんだなぁ……。


「さて……」


 だが、時間は無限には存在しないのだ。

 俺はシステム画面に表示された、婚約破棄イベントの制限時間に目を向ける。


――残り、2時間と10分。


「そろそろ……いかなきゃ」

「はい、ではお支度を……」


 俺はサーシャを伴って、侍女たちが控える部屋へと向かっていった。

 悪役令嬢の晴れ舞台、婚約破棄の舞台へと上がるためのメイクアップだ。


「お嬢様……いよいよでございますね!」

「私達……生涯で最高の仕事をさせていただきますわ!」

「うん、ありがとう、二人とも」


 二人とも……すごくムキムキになった!

 ていうかみんな……ムキムキだ!


 俺は化粧と髪結いをしてもらいながら、我が領のステータスを最終確認した。




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キミーノ公爵家 財務 (単位:アルス)

税率        40%

月間収入:  2210万4000

内訳

税収  :  2060万4000

生産  :   150万0000

月間支出:  2035万8334

内訳

人件費 :   470万5000

王国税 :   500万0000

その他 :  1042万0000

返済  :   23万3334

収支  :   174万5666


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 よし! 領民全員ムキムキにつき鉱業生産が激増!

 農業生産も増大!

 グママーを養いつつ、完全黒字化たっせーい!


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


総資産 : 2億5966万2106

内訳

資金  :   1082万3706

家屋  : 1億2500万0000

土地  :   4000万0000

所持品 :   8383万8400


負債  : 1億4000万0000


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 最近覚えた単語、バランスシート。

 資産から負債を引いた額のことを差すのだが、まだまだキミーノ家のバランスシートは黒字だ。

 領民からお金を借りるという手(いわゆる国債?)も残されているので、まだまだ財務は健全と言える。

 上手に借金することが、国を繁栄させる秘訣なのだと、このゲームには教えてもらった。


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領内状況 (about)

月間生産:   5151万0000

一人平均:     8万2416

総資産 : 15億9567万4532

一人平均:    255万3079

追加項目

平均忠誠値   99

領内格闘力   329ベアー


プレイヤー   1

NPC    624

計      625

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 月間生産伸びたなー!

 領民たちは相変わらず食べ物にお金をかけているが、それでも総資産は増える一方だ。

 借り入れた資金の殆どは、領民の資産になっているのだが、それを考えても増えている。

 お財布に余裕が出来れば、領民たちはどんどん自分たちの資産に投資するだろう。新しい家もだいぶ増えてきたし、畜産農家の人は養う家畜の数を増やしている。


 さらに子供が生まれて人口が増えれば、ますます我が領は発展していくだろう。

 領内格闘力も300を突破した。もはや、ゴブリンの巣くらいではびくともしないだろう。


 ここまでやればもう……十分だな!


 さらに――。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


領民総HP: 12万6875

 平均  :    203

領民総MP:  6万1250

 平均  :    98


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 おそらくは、当初の4倍くらいになったんじゃなかろうか。

 みんなに高級ポーションを配布したし、余程のことがないかぎり、人口が減るようなことは無いだろう……。



「できましたわ!」

「最高の出来ですわ!」


 さっそく鏡を見せてもらうと……。


「ぬおおおおー!?」


 キター!

 綺麗なんだけど、けしてケバケバしていない、いかにも素の俺らしい姿になっているという、ナチュラル系メイクの極地だ。

 お肌も髪の毛も自然な感じで、それでいてキラキラと輝いてみえる。


(そ、それに……)


 ムッキムキではちきれんばかりだった二の腕が、柳の枝のようにしとやかになり、もうどこからどう見ても、可憐な淑女になっているぞ!


「うそおおおー!?」


 どんな技術を使ったら、こうなるんだあああーー!?



 * * *



 ピンクのドレスでぱっちり決めて、ヘンナちゃんのアクセサリーもつけて。


「いざ、出陣!」


 そして俺は、3人とともに屋敷の外に出た。

 すると――!


――ウオオオオオ!!


「んおお!?」


 いつの間にか屋敷の中庭に、沢山の村人たちが集まっていたのだ!


「み、みんな……!」


 使用人達も、みんなそろって並んでいる!


アルル「お嬢様、ご武運を!」

メイシャ「いってらっしゃーい!」

コルン「お嬢様ならやれるのだー!」

コヌール「がんばってください!」

オルバ「膝に矢を受けるなよ……」

セバス「陰ながら応援しておりますぞ!」

コックス「これ、食べてってください!」

グルーズ「ムアッス!!」

メドゥーナ「……(ゴーゴー!)」

ゴッズ「留守はまかせるですぞ!」

ヴェン「おお! 我らが領主がゆく!」

ユメル「王太子なんてぶっとばしてやんな!」

ヘンナ「えいっ!」

ポンタ「あうっ!?」

ベンジャミン「ワンワンオーン!」

リューズ「まるで神話みたいね……!」

ベルベンナ「誰もオトハさまには敵いませんわ!」

ダルス「ああもう、ワシ感無量じゃ!」

ブラム「もう描くしかないやこれ……」


 こ、こんなにも……みんなぁ!


――我らの心は、常に領主さまとともに!


「み、みんなぁー!」


 俺はあまりにも壮大な光景に、それ以上の言葉を持たなかった。

 ただひたすら、胸の中がいっぱいだった。


「あああ……なんという光景でしょう!」

「私達もお祈りしておりますわ!」


 後ろでペマとオルマも感激している!

 あかん……!

 こんなんされたら泣いてしまうわ!


「ふぉっふぉっふぉ……オトハ様は本当に慕われておりますのお……」

「マジュナス先生……!」


 この人は、こんな時でもマイペースだ!


「何か一言でも、民に話してやってはくれませぬか?」

「は、はい……」


 確かに、ここで何も言わずにってのは無いだろうな……。


「え、えーと、みんな!」


 月並みな言葉しか思いつかないけど……。


「俺! この世界にやってきて本当によかった! みんなに会えて、本当によかった!」


――ウオオオオー!!

――領主さまあああああ!!


 歓声にかき消されて、聞こえているかどうかわからないけど、とにかく叫ぶ!


「みんな! 大好きだああああー!!」


――ウオオオオオオオオオオオ!!


「行くぞー! みんなー! 筋肉の合言葉あああー!」


――1!

――2!

――3!


「ふうううううん!!」


――ふうううううううん!!


 そしてみんな、各々の得意なポージングをした!


「お、お嬢様……」


 あっ! サーシャが呆れている!

 こんなときは……! 勢いで誤魔化そう!


「よーし! じゃあみんな! 国境まで走るぞ!」


――うおおおおおお!


「いくぞおおおお!!」


――つづけえええええ!!


 そして俺は、夥しい数の領民達を引き連れて、国境までの道のりをひた走った。

 俺がどんなに全力で走っても、みんなちゃんと付いてきた。


 こうして俺の領地は、本当に完全に、完成してしまった!


――シュピイイインン!!


 国境まで来た時のことだった。

 突然、俺の胸が輝き始めた!


 さらには――


――シュピン!

――シュピン!

――シュピイイイイイインン!


 その場にいた全ての人達の胸に、白金色の輝きが宿った!


――なんだ!?

――この輝きは!?


「こ、これは……!」


 わけも分からず、みんなしてワタワタしていると……。


【領民忠誠度100達成。称号『白金の絆』を獲得しました】


「なんと!」


 今ここにきて、新称号をゲットしてしまった!


「忠誠度100!?」


 それってつまり、あのマイペースなマジュナス先生まで100になっちゃったってこと!?


「先生!?」


 マイペースは忠誠100にならないって言ってなかったっけー!?


「ふぉっふぉっふぉ、ワシはマイペースですからのうー」

「何となく気分ですか!?」

「ワシだってたまには空気くらいよみますわいー」

「ぬあー!?」


 最後まで食えない爺さんだったああああ!


「なんにしろ、これで100人力……いいや、625人力です!」


――うおおおおおお!

――これは領主様との絆の証いいいいい!!

――やったああああ!


 うん、きっとこれは『名誉称号』だ。

 名前からして間違いない。

 本当にただの、達成記念トロフィーのようなものだろう。


 だが、俺のARO人生を締めくくるのに、これ以上の誉はなかった!

 白金の絆というよりもむしろ、『白筋の絆』と呼んでしまおう!


「よーし!」


 そして俺はいよいよ、最終決戦の地へと足を向ける!


「じゃあ、みんな!」


 ちょっとカッコつけて背中越し。

 紅に染まりつつある空に向かって叫ぶ!


「今からちょっくら、フラれてくる!」


――ウオオオオオオオオオオ!!!!!

――ガンバレエエエエエエエ!!!!!


 さあいよいよだ王太子!


 その顔一発、ぶん殴る!!


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