第43話 再建!
休日が明けて、また夜の8時頃にログインする。
二日もサボってしまっては、さぞかし仕事が貯まっているだろうと思いきや。
――トントントン
――ガンガンガン
「んお?」
屋敷の何処からか、大工仕事の音が響いてくるのだった。
「んおんお?」
驚いて部屋の窓から外を見てみると、庭に100人ほどの村人が押し寄せてきていていた。どうやら、壊れた屋敷の修理をしているらしい。
「おおおー!?」
俺が何もしなくても勝手にゲームが進んでいく。
これが放置ゲーってやつか!
俺はすぐに、屋敷の庭へと降りていった。
* * *
「おや、オトハさま」
「セバスさん!」
どうやら、セバスさんが中心になってやっていてくれたようだ。
「お加減はもう宜しいのですか?」
「はいっ、土日しっかり休みましたんで!」
聖女の変な呪いも解けたしな。
「それで一体これは……」
「ええ、村の者達が自主的に資材を持ちよって、屋敷を修理してくれているのです。明日明後日には完了するでしょうな」
「そうですか……」
すごいな、グママー効果。
「ただ、お屋敷に大きな修理歴が出来てしまいましたので、資産価値の毀損は免れません」
「ですよね……仕方ないです」
まさに、身から出たサビだ。
「それと、あのグママーの食費を試算してみたのですが……」
「うわあ……何か聞きたくない……」
「私も計算してみて目玉が飛び出しました……ざっとこんなものです」
「げえっ!?」
渡された紙に、20万アルスと書かれているのが目に飛び込んできた。
重量にして1日あたり4トン、未脱穀ライ麦の総額だ!
「つつつ、つまり月間コストは最低でも……」
「600万アルスにございます……」
「アガァ!?」
まさしく、白目剥いて魂が抜ける数字であった。
流石のグママーでも、ライ麦ばかりでは可哀想だと考えたのか、他にもあれこれと食料の内容が綴られている。
ブドウとか蜂蜜とか豆とかかぼちゃとか……。当然、食事の内容が良くなるほどにコストは高まっていくわけで。
「たまにはお肉でも食べさせてあげようと思ったら……?」
「その数倍はかかるでしょうな……」
「フンガァ!?」
イヤー! 公爵家の財務が崩壊イタシマスワー!?
「そこで、既に村の者達と協議し、税率を40%に引き上げてもらおうという話しをまとめてあります。この程度でしたら、村人たちの生活にさしたる影響はございません」
「な、なんて良い民達なんだ……」
リアル政治家さん達、羨ましかろう!
それでも全然足りない気がするけど、どうしよう!?
「さらに生産力を増強する必要があります。そのためには大々的な設備投資が必要です。ここはお嬢様、資金の借り入れを致しましょう」
「どどど、どうやって?」
「システムコールで行えます。システムコール・ブロウとお唱え下さいませ」
「なるほど……」
謎の物流業者さんが、アルスバンクとの仲介をしてくれるんだな。
それから俺は、一度屋敷のリビングに戻り、セバスさんと生産投資の内容をつめていった。
まずお屋敷を抵当に入れて、資金を1億アルス借り入れる。
公爵家の肩書があれば、年利2%で借り入れることができるようだ。
つまり年間で200万アルスの利息を最低でも払い続ければ良い。
月々たったの16万6667アルスだ。
借り入れた1億アルスのうち、4000万アルスでオトハエ村に炉を建築し、鉄鉱石から鋼を生産できるようにする。
さらに2500万アルスで、穀物を挽くための風車を1機増設。残り3500万アルスで大量の鎖と鉄製の鋤を購入した。
この大量の鋤をグママーに引かせて、一気に農地を拡張する計画だ。
その結果、キミーノ公爵領の財務は以下のようになった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
キミーノ公爵家 財務 (単位:アルス)
税率 : 40%
月間収入: 1950万4000
内訳
税収 : 1800万4000
生産 : 150万0000
月間支出: 2029万1667
内訳
人件費 : 465万5000
王国税 : 500万0000
その他 : 1042万0000
返済 : 16万6667
収支 : -73万7667
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
農業生産と鉱業生産がおよそ倍増する見込みになり、税収を10%上げたことで、大幅な収益増となった!
グママーのエサ代は月間1000万アルスとしてその他の部門に計上。
ポンタ君とヘンナちゃんのお給料も2万アルスずつちゃんと上げた!
今のところまだマイナスだけど、黒字化は難しくなさそうだ。
頼むぞグママー!
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総資産 : 2億6406万2106
内訳
資金 : 2422万3706
家屋 : 1億0000万0000
土地 : 4000万0000
所持品 : 9983万8400
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屋根にデカイ修理歴が出来たことで、5000万もの価格毀損となってしまった。
売り払う気はないが、抵当にあてられる額が減ってしまったのは痛い。
1億アルスの投資はすべて領全体の資産になったので、この項目にそう大きな変化ないな。
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領内状況 (about)
月間生産: 4501万0000
一人平均: 7万2016
総資産 : 15億5433万8266
一人平均: 248万6941
追加項目
平均忠誠値 97
領内格闘力 154ベアー
プレイヤー 1
NPC 624
計 625
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グママーの活躍により、農地が2倍となり、もともと月900万アルスほどの生産高があった農業収入が2倍になった。
また、オトハエ村に炉を作ったことで、鉱業生産も伸びた!
結果、月間生産は約50%UP!
1人あたりの実質収入もあがったぞ!
これをやって欲しかったんだな、みんな!
領民の肉体も確実にムキムキしてきているし、忠誠度も大変なことになってきている。
婚約破棄のタイムリミットまで、あと45日。
やれるだけのことをやってやるぞ!
* * *
さて、領内が落ち着くまでしばらくマラソンは無しだ。
その代わりに俺は、屋敷内の人事に取り組むことにする。
先ずはアトリエだ。
ブラムさんの新作が完成したとのことだからな。
「こんにちは」
「ああ、お嬢様……ウイッ」
やっぱりほんのりとお酒臭いブラムさん。
あんまり変わってないと思うけど、一応ステ値を確認。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
名前 ブラム (忠誠度:70)
身分 中級芸術家
職業 画家
年齢 42
性格 のんだくれ
【HP 40】 【MP 15】
【腕力 9】 【魔力 6】
【体幹力 9】 【精神力 9】
【脚力 9】
【身長 166】 【体重 66】
耐性 酩酊B
特殊能力 感受性B
スキル 生産(絵画)B
月間コスト 15万アルス
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
おやっ! 感受性がBに上がっている!
色々と事件続きだったから、何かと触発されたのかな?
あと、肉をたくさん食べさせたからか、ステ値もほんのりと上昇している。
顔色も良いみたいだし、ひとまず健康体のようだ。
この世界には、肝臓疾患という概念も無いみたいだしな。
「絵が出来たと聞きまして」
「ええ、この通りです……」
イーゼルの上に立てられていたのは、少し横長な、この間よりも小さめの作品だった。
全体的に暗くて重い色彩で、屋敷の外の夜景を描いているようだ。
「タイトルとかは……」
「歩哨……ですかな?」
確かに、夜の闇にまぎれるようにして、フルプレートを来た兵士が1人、屋敷の周囲を巡回している。
暗めの絵の色調とも相まって、何ともいえない孤独感のある作品だ。
「もしかして、オルバさんをモデルにしたとか?」
「いえ……特にモデルなどはありませんが……」
そうなんだ。
俺はやっぱり、絵に関しては素人だ。
「歩哨って、見た目より大変な仕事なんですよ」
「そうでしょうねぇ……」
「歩哨を見れば、その国の実力がわかるとも……ヒック」
「なるほど……」
つまるところ、見識のある人であれば、この絵を見ただけでキミーノ領のレベルがひと目でわかってしまうというものなのだな?
「どこに飾ったらいいですかね?」
「うーん、特に考えてませんでしたなぁー。お嬢様のお好きなように」
「ええー?」
飾ることも考えずに絵を描くとは。
本当に掴みどころが無い人だな……ブラムさんって。
そう言えば結局、彼とは面接できずじまいだった。
いまやっちゃおう。
「とこでブラムさん、現状で何か困っていることとかないですか? あと、やりたいこととか?」
「うーん、そうですなぁー」
と言って、いつもの死んだ魚の目で遠くを見る。
「あのお酒……美味かったですなー」
「あ、あれですか……」
それとなく、絵を完成させたご褒美をねだってきたぞ!
本当にお酒がお好きなんですね。
でも俺はあんまり詳しくないから……。
「ブラムさん、近ごろ頑張って絵を描かれているので、お給料をあげようと思うんですよ!」
「ふお!? それは本当ですかな!」
「はい、本当です。あと、出来たら一つ、仕事を頼みたいんですよ」
「はい、なんなりと……!」
ふふふ……オトハ流抱き合わせ戦法。
しかもこれは、ブラムさんにしか出来ない仕事だ……。
「お金を用意しますので、屋敷を修理してくれている人達に、お酒を振る舞ってあげてほしいのですわぁ!」
「むほ!?」
大盤振る舞いするときは、ついお嬢様口調になってしまうな!
「ブラムさんの感性で、みんなが喜びそうなお酒を取り揃えてほしいのですわぁ」
「や、やりますぞー!」
そしてお金を受け取ったブラムさんは、喜々として屋敷へと走っていった。
さすが飲んだくれ、酒の話となると目の色を変える!
きっと、酒の肴などの話をコックスさん達とするんだろうな。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
名前 ブラム (忠誠度:70→100)
身分 中級芸術家
職業 画家→酒場の主
年齢 42
性格 のんだくれ
月間コスト 15万→20万アルス
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そして何と、ジョブチェンジも果たしてしまった!
* * *
さらに俺は、兵舎へと向かう。
オルバさんの容態を見るためだ。
立って歩けないほどの大怪我だったというが……。
――ガアーン!
「ん?」
兵舎の裏手から金属質な音が響いてくる。
――もっと腰を入れてぶてーい!
――ひ! ひいいいー!
「なんだ!?」
何となく暴力の臭いを感じた俺は、すぐさま駆けつけた。
すると。
「もっと力をこめてうてーい!」
「もういやあああ! 許しておとうさあああん!」
オルバさんと娘のコヌールさんが何かやっている!
「何をしているんですか!」
「む、領主どの……」
「お嬢様!」
どうやら、コヌールさんが手にしたアイアンメイスでお父さんを殴っていたようだが……。
「娘に罰を与えておるのです」
「えっ!?」
あの『バカ娘ええええ!』の一件で、DV僻がぶり返してしまったか!?
いやでも、殴られているのはお父さんの方であり……。
「公爵様のお屋敷に穴を開けてしまったことへの罰なのです。そして、ワタシ自身に対する罰でもあります……」
「えっ! それで!」
そうか、気弱な娘さんが最も嫌がりそうなのは、打たれるよりも打つことなのだ。
そしてそんな娘さんに心を鬼にして自らを打たせることで、オルバさんは自分自身への戒めにもしているのだ。
あんたら、家族してドMか!
「いやいや! そのことなら気にしないでください! あれは自然災害みたいなものなんですから!」
「むうう……しかし、それではワタシの気が収まりません……そしてコヌールも」
「…………(プルプル)」
コヌールさんは、涙まみれの顔をして全身を震えさせている。
しかし、歯を食いしばって何かに耐えているようであり、よく見れば、その瞳の奥には、ある種の決意も読み取れる。
「こいー! コヌール! お前の反省ぶりをお館様にお見せしろー!」
「はいいいいいー!!」
――ガゴーン!
「やめー!!」
こんな反省されても嬉しくないよー!?
「ととと、ところでオルバさん、外に出ても大丈夫なんです?」
「む?」
ずっとトラウマで外出も難しかったのでは?
それに何だか随分、逞しくなられたのでは?
「いえそれが……あのクマに打たれたことで、逆にふっきれたといいますか……」
「ショック療法!?」
良い子は真似しちゃいけませんよ!
「アレだけの一撃に耐えられた自分に、妙な自信をもてるようになったのです」
「そ、それは……」
まさに怪我の巧妙だな。
「しかし、もう自分たちを傷つけるようなことは止めて下さい。俺が悲しいんで……」
「お館様……」
「お嬢様……」
しかし二人とも、今ひとつ釈然としていない。
なんだかまるで、楽しみを一つ奪われてしまったような顔をしている!
「じゃ、じゃ二人とも! 俺がコヌールさんの代わりに一発ぶちかましますんで、どうぞそれで収めてください!」
このドゥームな一撃でスカッとしてください!
「うむ……では……」
「申し訳ございません……」
「はい! では行きますよ! しっかり盾を構えて踏ん張ってくださいね!」
ヘビプレ&ダブル盾なオルバさんなら、ドゥームの一発くらい余裕で耐えるだろう。グママーのパンチよりか弱いはずだからな。
「ドゥーム!」
――ギュオオオオ!?
「むっ?」
だが何だか、いつにも増して拳が輝いて――。
「ストライクゥ!」
――ボッゴオオオオーン!!
「グワアアァー!?」
「おとーさん!?」
「アーッ!?」
【オルバに154のダメージを与えた】
「わーっ!?」
――ぴゅーん!
何とオルバさん、塀の向こう側まで吹っ飛んでいった!
俺のHPとMP、そして腕力が、予想以上に上がっていたのだった!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
名前 オルバ (忠誠度:15→100)
身分 徴用兵→村人
職業 警備員→門番
年齢 36
性格 気弱→慎重
【HP 180】 【MP 10】
【腕力 50】 【魔力 1】
【体幹力60】 【精神力 25】
【脚力 60】
【身長 172】 【体重 75】
耐性 混乱C 打撃B(new!)
特殊能力 気配察知B
スキル 罠設置C 罠解除C
月間コスト 25万アルス
状態:負傷
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
また負傷になっちゃったー!
そして、情け容赦なく殴られたことで、忠誠度がMAXになった!
なぜだー!?
* * *
そして日が暮れた。
村人たちは今日の仕事を終えて、庭でお酒と料理を楽しんでいる。
楽師達の演奏も聞こえてくる。
それを屋敷のダイニングで聞きながら、俺はサーシャからミルクティーを受け取っていた。
「お待たせいたしました」
「……ありがとう」
香りをかいでから、一口すする。
いつもと変わらぬ良い味だ。
だが。
「失礼致します」
「……はい」
その声色は、果てしなく冷たかった。
サーシャは今日一日、まったく俺と目を合わせてくれなかったのだ……。
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