第36話 力を合わせて!
俺は2人とともに屋敷の庭に駆け込む。
誰か足の早い人に村人たちの避難を――
「マッ!」
「あ、グルー……」
「モアッ!」
せっかちなグルーズさんは、俺が指示を伝える間もなく軽甲冑をコンマ1秒で脱ぎ捨てた。
そして身軽になって、時速100kmを超える速度で飛ぶように走っていった。
――ピューン!
「む、村のみんなをオトハエ村の鉱山に避難させてくださあああい!」
たぶん、わかっていると思うけどおおおお!
「オトハさま! おいらも行くよ! グルーズさん早口すぎて何言っているかわかんないし!」
「うん……頼みます……」
さらに続いて、ペーター君も飛んでいった。
グルーズさんが先行して危機を知らせてくれれば、それだけ避難は早まるだろう。
ナイスコンビネーション……!
「さーて、ワシらは」
「ここで足止めなんだなー」
既にヘビーフルプレートを身に着けたダルスさんとゴッズさんが、そう言って歩み出てきた。
「いや! 無理です! みんなで逃げましょう!」
俺はとにかく必死にそう言うが……。
「いやいやお嬢様、それこそ無理ですじゃ。あんなの放って逃げたら、どれだけ村に被害が出るか」
「せめてノックスのみんなが逃げ終えるまでは、この場に立ち続けてやりますわー」
「ふ、2人とも……」
俺は、自分の招いた厄災の甚大さを痛烈に恥じるとともに、2人の頼もしさに胸を熱くせずにはいられなかった。
「ふぉふぉふぉ、諦めるのはまだ早いのですじゃあ」
と言って、のこのこ歩いてきたのはマジュナス先生。
「普段の鍛錬のおかげで、みなの戦力があがっておりますからのう。うまく作戦をたてれば、かなり長い時間の足止めが可能でしょう」
「せ、先生!」
そのマイペースさもまた、今は限りなく頼もしかった。
さらにセバスさんが前に出て。
「ではお嬢様、残る者と避難する者の選別を」
「は、はい……そうですね」
足止め能力のある者を残して、あとは避難誘導に回ってもらう。
言ってしまえば単純なことだが、それを今すぐに行わなければならない。
――ルールラーラー
「はっ、リューズさん!」
「天より授かりしこの歌の力、あの大きなクマちゃんに、とくと堪能していただきましょう!」
――パラパパーン!
「はっ、ヴェンさん!」
「おお荒ぶるクマよ! 俺の演奏を聞いて鎮まれ!」
二人ともあれだな、ネムレーンをやる気だな!
「わかりました、2人は残って下さい……!」
足止め要員としては最適だ!
「私とアルルも残りますわ」
「はい! この命、村のみんなに捧げます!」
「二人とも!」
確かに、あの弓の威力はすごかった。
2人にもいてもらおう。
「私も残りますよ、オトハ様」
「コックスさん! あなたは逃げて下さい! お店を開く夢があるんでしょ!?」
しかしコックスさんは首を横にふる。
「村に被害が出てしまっては、元も子もございません、それに……」
手にしている包丁をくるりと回す。
「料理人には料理人の戦い方がありますからね!」
「わ、わかりました……」
どんな戦い方なのか気になるので、コックスさんにも残ってもらうことにした。
そして、護衛のメドゥーナと司令塔のセバスさんも当然残る。
「よし! 残るのはこれで全員だ! あとはみんな逃げてくれ!」
「やだー! メイシャもやれるー!」
「コルンも残るってばよー!」
と言って、アイアンメイスを振り回すメイド2人。
だが。
「いいや……」
「だめです!」「いけません!」
俺が言うより先に、サーシャとアルルが叫んだ。
「あなた達までやられてしまったら、この先だれがオトハ様のお世話をするというのですか!」
「でも!」「私達だけ!」
「生きることも戦いです! 2人は2人のすべきことをするのです!」
「そうですよ!」
お姉さん達に言いつけられてシュンとなるメイシャとコルン。
「う、うりゅりゅりゅ……」
「ぜったいに死にゅなよぉー!」
2人は他のみんなと一緒に避難だ!
「ふぉふぉふぉ、来ましたわい……」
マジュナスさんの言葉に振り向く。
2階建ての屋敷の向こうから、グママーの足音が響いてくる。
「オトハ様はお下がりを」
「……(スッ)」
俺の前に、セバスさんとメドゥーナが立ち、その脇をリューズとヴェンが固める。
さらにその前に、左からサーシャ、コックス、マジュナス、アルル。
最前列にゴッズ、ダルス。
フォーメーションで言うなら4−4−2だ!
「ワンワンオーン!」
ベンジャミンもいる!
(そしてやっぱり俺は……)
キーパーか!
「みんな死なないで下さい! なんとかして時間を稼いで!」
「「「「「了解!!」」」」」
せめて、俺のMPが回復するまでは!
―― グ マ゛ア゛……
やがて屋敷の影から、復讐の大熊が姿をあらわす――
* * *
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
名前 セバス (忠誠度:100)
身分 上級使用人
職業 執事
年齢 65
性格 質実剛健
【HP 182】 【MP 80】
【腕力 38】 【魔力 20】
【体幹力 38】 【精神力 20】
【脚力 38】
【身長 170】 【体重 57】
耐性 全状態異常B
特殊能力 経営適正A 給仕技能B
月間コスト 35万アルス
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
名前 サーシャ (忠誠度:100)
身分 上級使用人
職業 メイド長
年齢 25
性格 きまじめ
【HP 160】 【MP 45】
【腕力 40】 【魔力 20】
【体幹力 35】 【精神力 22】
【脚力 35】
【身長 165】 【体重 39】
耐性 睡眠A
特殊能力 経営適正B 給仕技能B
月間コスト 30万アルス
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名前 アルル (忠誠度:100)
身分 中級使用人
職業 メイド
年齢 20
性格 あわてんぼう
【HP105】 【MP 30】
【腕力 38】 【魔力 15】
【体幹力 33】 【精神力 18】
【脚力 33】
【身長 150】 【体重 36】
耐性 なし
特殊能力 清掃技能B 調理技能C
月間コスト 15万アルス
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
名前 ダルス (忠誠度:100)
身分 村人
職業 庭師
年齢 53
性格 働き者
【HP 160】 【MP 10】
【腕力 70】 【魔力 1】
【体幹力 60】 【精神力 24】
【脚力 65】
【身長 160】 【体重 85】
耐性 毒B
特殊能力 栽培技能A 御者B
月間コスト 20万アルス
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名前 ゴッズ (忠誠度:100)
身分 村人
職業 門番
年齢 35
性格 食いしん坊
【HP 300】 【MP 10】
【腕力 96】 【魔力 1】
【体幹力 90】 【精神力 35】
【脚力 90】
【身長 180】 【体重 85】
耐性 打撃A 睡眠B
特殊能力 警戒A
スキル 強打
称号 熊殺し
月間コスト 30万アルス
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
名前 コックス (忠誠度:50)
身分 中級職人
職業 調理師
年齢 32
性格 こだわり屋
【HP 134】 【MP 30】
【腕力 43】 【魔力 13】
【体幹力 46】 【精神力 45】
【脚力 50】
【身長 170】 【体重 64】
耐性 斬撃B
特殊能力 料理技能A
スキル 千切り
月間コスト 18万アルス
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
名前 メドゥーナ (忠誠度:100)
身分 用心棒
職業 アサシン
年齢 25
性格 恥ずかしがり屋
【HP139】 【MP 44】
【腕力 47】 【魔力 42】
【体幹力 52】 【精神力 130】
【脚力 52】
【身長 155】 【体重 37】
耐性 全状態異常A
特殊能力 暗殺A 護衛A
スキル サイレントムーブ バックスタブ
月間コスト 45万アルス
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名前 リューズ (忠誠度:95)
身分 中級芸術家
職業 楽師
年齢 18
性格 ゆめみがち
【HP 70】 【MP 20】
【腕力 17】 【魔力 15】
【体幹力 19】 【精神力 20】
【脚力 20】
【身長 158】 【体重 39】
耐性 睡眠C
特殊能力 演奏A
スキル 眠りの唄 疾風の調べ
月間コスト 15万アルス
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
名前 ヴェン (忠誠度:95)
身分 初級芸術家
職業 楽師
年齢 18
性格 情熱家
【HP 97】 【MP 20】
【腕力 23】 【魔力 20】
【体幹力 26】 【精神力 30】
【脚力 25】
【身長 175】 【体重 65】
耐性 恐怖B
特殊能力 演奏B
スキル 突撃ラッパ サイレン
月間コスト 15万アルス
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名前 マジュナス (忠誠度:90)
身分 聖職者
職業 賢者
年齢 72
性格 マイペース
【HP 50】 【MP 230】
【腕力 10】 【魔力 125】
【体幹力10】 【精神力 110】
【脚力 10】
【身長 150】 【体重 47】
耐性 全状態異常B 全魔法属性B
特殊能力 四属性魔法B 回復魔法B 補助魔法B 光魔法C 闇魔法C
スキル 瞑想 教授
月間コスト 45万アルス
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
名前 ベンジャミン (忠誠度:100)
身分 家畜
職業 犬
年齢 5
性格 用心深い
【HP 85】 【MP 10】
【腕力 28】 【魔力 1】
【体幹力 27】 【精神力 25】
【脚力 28】
【身長 80】 【体重 18】
耐性 空腹B
特殊能力 番犬B
スキル 吠える 噛み付く 掘る
月間コスト 5000アルス
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
* * *
「では、参ります!」
戦いは、リューズさんの新スキル「疾風の調べ」から始まった。
まさに疾風を思わせるアップテンポな旋律の中に、揺るぎない壮大さを秘めたフルートの調べだ。
「まずはワシらですな」
「マジュナス老師、お願いします」
「ほいほいほーい! ストロングネース! おまけにクイック!?」
爺さんが何かノリノリだった!
二つの補助魔法を受けたゴッズさんとダルスさん。
全筋力値が25上昇に加え、疾風の調べの効果と合わせて50%の移動速度アップを獲得した!
「ほーれほれほーれーい!」
「こっちだぞおーい」
いつもの2人からは想像も出来ないような素早い動きで、グママーを撹乱する。
――シュン!
――スサササー!
『 グ マ゛! ? 』
軽装時の俺ですら出せないような速度を、ヘビーフルプレートを着たまま繰り出す2人。
その速さは、完全にグママーの反射速度を超えていた!
右へ左へと前足を振るうが、その全てをちょこまかと回避していく!
「アルル!」
「はい! サーシャさん!」
前衛の2人が翻弄しているところに、2人が次々と矢を浴びせていく。
――シュバババ!
――ザクザクザク!
「おお……すごい……!」
軽やかなフルートの調べもあいまって、なんともエレガントな戦いになっている。
これは、いけるんじゃ……。
「うおお!?」
と思った俺はやっぱり甘かった!
――ブオオオオン!
ちょこまかとした攻撃に嫌気がさしたグママーは、まるで竜巻のように周囲の空気をかき乱し、あっという間に後衛の俺たちに対して間合いを詰めてきたのだ!
「ぐうううっ!?」
こっちをやられたら、もはやどうにもならない!
慌ててゴッズさん達が引き返してくるが――。
その前に!
――パプァアーン!!
「!?」
一際強烈な音響が、ヴェンさんのトランペットから放たれた!
『 グ マ゛!? 』
グママーがたじろいている!
すごい! 音の力で相手をビビらせているのだ!
――パラリラパラリラ!!
『 マ゛ァ !? 』
効いている!
何かふざけているが、効いている!
ヴェンさんは、訓練によって肺活量が鍛えられたことで、新スキル『サイレン』をゲットしていたのだ!
攻撃が一瞬遅れ、そこに盾を構えたゴッズさんとダルスさんが切り込んでくる。
「お嬢様のためならぁー!!」
「えーんやこーらっとぉ!」
――ガガーン!
――ゴゴーン!
完璧に巨大グマの一撃を受け止める2人!
さらに――。
「サンダァー!」
マジュナス先生の雷撃魔法が炸裂した!
『 グ マ゛マ゛マ゛!? 』
「今のうちに……!」
その隙きに、後衛組は一気に距離をとった!
「攻撃の手を緩めてはいけません! アルル!」
「はい!」
二人とも後退しながら弓を射続ける!
そしてグママーの動きが鈍る!
「そろそろ、これの出番ですね……!」
と言って、コックスさんがどこからともなく取り出したのは、琥珀色の液体が入ったビンだった。
なんだそれ!?
「クマの大好物といえばこれですよ! とりゃっ!」
そしてそれを、グママーに向かって投擲!
――ガシャン!
『 マ゛!? 』
上手いこと、クマの顔面にぶつかって割れるビン。
あれは……蜂蜜か!
「おおおお! 舐めてる! 舐めてる!」
ベトベトして気持ち悪いのか、それともつい本能的にやってしまうのか。
どっちかは知らないが、とにかくグママーは完全にその足を止めた!
「アルル、一旦様子を見るわよ……はあはあ」
「は、はい……なんかかわいい……」
蜂蜜に気を取られたグママーは、さらにその場に座り込んだ!
「オトハ様、すみませんが私はここまでのようです」
「えっ!」
「ネタ切れにございます……!」
「そうだったの!」
案外早かった!?
でも大活躍だよ!
「じゃ、じゃあマジュナス先生の護衛に回って下さい……」
「……御意に!」
さて、ひとまず時間は稼げたが、これからどうする……。
「ふぉふぉ、この中に1万以上の経験値を貯めている者はおりませんかな」
マジュナスさんがそう聞いてくるが。
「俺、貯まってますけど……」
どうやら俺だけのようだ。
「結構ですじゃ、今からオトハ様に『セデューション』を教えますので、一緒に唱えて欲しいのですじゃ」
「わかりました!」
マジュナス先生の神スキル『教授』を使って、一瞬にして『セデューション』を覚える。
「ふぉふぉふぉ、こういうのは始めにドカンとやるのが大事ですじゃ。だらだらと術を仕掛けていると、耐性がついてしまいますからのう」
「そうなんですか……」
「では、いっせーのーででいきますぞー?」
「はい! いっせーのーで!」
――セデューション!!
グママーの全身が、淡い光に包まれる!
『 グ マ゛ァ …… 』
鼻頭についた蜂蜜をなめとっていたグママーは、急におとなしくなった。
「これは、モンスターの敵意を削ぐ魔法ですじゃー!」
「ヘイトの反対ですね……!」
「そうですのじゃー! おおー、効いとるー!」
確かに、何となくションボリとはしているが……。
今ひとつ決め手にかけるような。
やる気を少し無くしただけで、その禍々しい瞳は、未だに俺たちに向けられている。
「ついに、この歌を歌う時が来ました」
――パラパパーン!
待ってましたとばかりに、楽師の2人が前に進み出た!
来るか! 究極睡眠魔法!
その名も『ネムレーンの歌』!
「みなさん! 耳をお塞ぎ下さいませ!」
言われて俺は耳を塞ぐ。
楽師の2人を除く全員が、皆各々に耳を塞いだ!
そこに、高らかなトランペットの音が鳴り響く!
――パンパカパーン!
ねーむれー、ねーむうーうううーれー
ねむれねむれ、ねーむーれーえー……
――パパーン!
ねむれぇぇえええー!
――パーン!
さあどうだ!
『 グ、グ …… グマ゛…… 』
うおおおお! ねむれええー!
『 グ、グ……zzz 』
ねたああああーー!!
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