第34話 厄災招来
そんなこんなで、いつもの時間が過ぎていく。
現在領内に取り立てた問題はなく、民は健やかで使用人たちもよく働いてくれている。
このまま婚約破棄の期限までプレイして、あとはみんなに任せてフェードアウトしていくのが良いのかなぁと、俺は漠然と考え始めていた。
(というか既に、俺がいなくても大丈夫そうだ……)
それは、後ろから領民たちを見ていて、本当に良くわかったことだ。
「お嬢様、今日はこれから何なさいますか?」
サーシャが聞いてくる。
俺は少し考えるが、狩りに行く以外に思いつくことがないのだった。
「では、良ければアルルを同行させたいのですが」
「え、アルルを?」
暇を見つけては、屋敷の裏庭で弓の練習をしている2人。
手取り足取り、真剣な眼差しで訓練にのぞむその姿は、眩しすぎて見ていられないほどだ。
ぼちぼち、実戦を経験させる段階に来たということか。
「わかった、みんなで行こう!」
「ありがとうございます!」
俺がみんなで行こうと言ったせいで、本当にゾロゾロとついてきた!
サーシャ、アルル、メドゥーナ、ペマ、オルマ、ポンタ、そして俺。
当初は非戦闘員だった者を中心とした7人で、クマ狩りは開始された。
* * *
まるで、お肉にされるために生まれてきたような、可哀想なクマさん。
1頭のブラウンベアーが、俺達の50メートルほど先でウロウロしている。
「落ち着いてよく狙うのです」
「……は、はい!」
弓でそれに狙いを定めるのはアルルさんだった。
明らかに呼吸があがり、とても緊張しているようだ。
「失敗しても、みんながカバーしてくれます。仲間を信じるのです」
「……はい!」
周囲には、両手に鉄の盾を装備したペマさんとオルマさん、そしてアイアンメイスを持ったポンタ君が控えている。
俺はといえば、メドゥーナの護衛を受けた状態で、さらに少し引いた所から様子を見ていた。
まずはサーシャとアルルのステ値を確認。
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名前 サーシャ (忠誠度:100)
身分 上級使用人
職業 メイド長
年齢 25
性格 きまじめ
【HP 160】 【MP 45】
【腕力 40】 【魔力 20】
【体幹力 35】 【精神力 22】
【脚力 35】
【身長 165】 【体重 39】
耐性 睡眠A
特殊能力 経営適正A 給仕技能B
スキル 狙う
月間コスト 30万アルス
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名前 アルル (忠誠度:100)
身分 中級使用人
職業 メイド
年齢 20
性格 あわてんぼう
【HP105】 【MP 30】
【腕力 38】 【魔力 15】
【体幹力 33】 【精神力 18】
【脚力 33】
【身長 150】 【体重 36】
耐性 なし
特殊能力 清掃技能B 調理技能C
スキル 狙う
月間コスト 15万アルス
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二人ともすごく強くなってる……。
特に、弓を引くのに必要な腕力が先行して伸びているな。
戦闘用の弓ってものすごい張力なんだ。俺もちょっと引かせてもらったが、手元で少し引くだけでもかなりの力が必要だった。
それを体いっぱいに引き絞って放つのだから、相当な技術と体力がいるだろう。
二人とも『狙う』のスキルを習得しているし、サーシャに至っては経営適正がAにあがっていた。
――ギリリ……。
張り詰める空気、高鳴る鼓動。
やがて……。
――シュバッ!
アルルの弓から放たれた一線は、吸い込まれるようにしてブラウンベアーの体に突き刺さった。
「グマ゛ッ!?」
「ひいっ!」
自分でやっといて飛び上がるアルルさん。
いかに戦弓とはいえ、1射で沈むような相手ではない。
クマはものすごい形相でこちらを振り向くと、猛然と襲いかかってきた。
「落ち着いてやれば出来ます、次は私と一緒に」
「は、はいっ!」
2人同時に矢をつがえ、迫り来るブラウンベアーに狙いを定める。アルルは相当緊張しているが、それでもサーシャの頼もしさに支えられているようだ。
――シュババ!
『グマー!』
さらに二発が突き刺さる。合計で30程度のダメージといったところか。
「では引きます、安全を確保しつつです。後衛職は視野の広さが大事ですよ?」
「は、はい!」
クマが迫っているのにも関わらず、平然としているサーシャ。
2人は20歩ほど後ろに下がる。
その代わりに前に出たのは、鉄の盾を両手に構えたペマとオルマだ。
「大丈夫なの!?」
「……(こくこく)」
メドゥーナは心配ないと言うが、俺は思わずステ値を見てしまう。
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名前 ペマ (忠誠度:100)
身分 侍女
職業 髪結い師
年齢 45
性格 泣き上戸
【HP 88】 【MP 25】
【腕力 35】 【魔力 8】
【体幹力 35】 【精神力 20】
【脚力 35】
【身長 155】 【体重 50】
耐性 なし
特殊能力 髪結い技能A
月間コスト 15万アルス
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名前 オルマ (忠誠度:100)
身分 侍女
職業 化粧師
年齢 54
性格 おひとよし
【HP 88】 【MP 15】
【腕力 36】 【魔力 10】
【体幹力 35】 【精神力 22】
【脚力 35】
【身長 156】 【体重 55】
耐性 なし
特殊能力 化粧技能A
月間コスト 15万アルス
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こっちも強くなっている!
ゴブリンキングと戦った時の俺と、そんなに変わらないんじゃないか!?
つまり、装備と立ち回り次第では、ゴブリンキングの攻撃にだって耐えられるということだ……。
もはや頼もしさしかねえ……!
「グマ゛ァー!」
「はい!」「ほいぃ!」
――ガーン! ガァーン!
鉄の盾で、ブラウンベアーの両腕を受け止めるおばちゃん2人!
そこに背後から……。
「とおおおおりゃああああ!」
アイアンメイスを持ったポンタ君が、素早い動きで飛びかかる!
――ボコ! ベコォ!
強い! 強いぞ! ダメージ20はいったな!
さらに!
「もういっちょー!」
――ボグン!
「マ゛!?」
ポンタ君は、クマの腰骨のあたりに頭突きをかましたのだった。
「おいらの頭は親方のげんこつより……!」
「わーわー!」
それ以上は言っちゃいかーん!
女の子が降ってきちゃう!
正直、威力としては微妙な一撃だが、それでもクマのヘイトを剥がす効果があったようだ。
ブラウンベアーは、ターゲットをポンタ君に移し、そちら側に振り返る。
「こっちだよーん!」
素早い身のこなしで、木の上に飛び乗るポンタくん。
でもクマって、木登りも得意なのでは!?
「今です! アルル!」
「はい!」
――シュババ!
だがそこに、アルルとサーシャの放った矢が飛んでいく。
ペマとオルマは、既に十分な距離をとっている。
――ザクザク!
「グママ!?」
弓、盾、メイスの連携プレー。
哀れブラウンベアーは、為す術無くポリゴンの欠片へと還っていった。
「す、素晴らしい……」
「……(こくっこくっ)」
後で聞いた話しだが、ゴッズさんをクマ役に見立てて練習していたらしい……。
俺はもはや、セーフティーとして立っていれば良いだけだ。
まさに控えのゴールキーパーって感じ!?
暇なので、ポンタ君のステ値もホイッ!
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名前 ポンタ (忠誠度:100)
身分 村人
職業 何でも屋
年齢 13
性格 おちつきがない
【HP 95】 【MP 15】
【腕力 30】 【魔力 4】
【体幹力 30】 【精神力 20】
【脚力 49】
【身長 152】 【体重 47】
耐性 なし
特殊能力 靴磨き技能C 宝石鑑定C
月間コスト 8万アルス
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うおおおー!
足つえーー!
そして、宝石鑑定がCになっているー!
あとでお給料アップだー!
それから1時間ほど、みんなで楽しく、堅実なクマ狩りをしたのだった。
* * *
「日が暮れてきたな」
「そろそろ上がりましょうか」
アルルさんとポンタ君も家に帰る時間だ。
「俺も1頭くらい狩っても良いかな?」
「わかりました、ではあれ弓を引きますので」
と言ってサーシャは、遠くにいる1頭に弓を放つ。
『グマァ……』
矢が刺さったにも関わらず、どことなくやる気がないクマだな……。
それでもターゲットをこっちに向けて走ってくる。
俺は拳に力を込める。
「ドゥーム……」
それが破滅へのスイッチであるとは、露も知らずに。
「ストラーイク!」
――ギュオオオ!
HP1! MP1!
そして――!
――ズッギャーン!
【ブラウンベアーに432のダメージを与えた】
【ブラウンベアーを倒した、1の経験値を獲得】
ひどいオーバーキルでぶっ倒してしまった。
「おおー!」
「あらまー!」
「す、すごい……」
みんなも唖然とした表情だ。
本当にネタにことかかないスキルだなー!
「とまあこんな感じで、いざとなったら使いますんで……」
「うふふ、アルルが間違ってクマを大量引きしても大丈夫ね」
「さ、サーシャさん、そんなぁー!」
――アハハハハ。
さて、楽しい狩りもここまでだ。
また明日も頑張ろうっと。
そう思いつつ、俺が踵を返したその時だった。
【ブラウンベアーを1万体倒しました】
突如、不穏なシステムメッセージが表示されたのだ。
【称号『クマキラー』を獲得した】
俺は殺虫剤か!? しかも熊殺しを英語読みにしただけじゃん!
【隠しボス『復讐のグママー』が解放されます】
「!!!?」
その瞬間、背筋にとんでもない怖気が走った。
もう、嫌な予感しかしなかった。
冗談なんて言っている場合じゃなかった。
――グマァ……
「はっ!」
振り向けば、さっき倒したはずのブラウンベアーが消えずに残っていた。
そして……。
――ヒュウン
黄昏の森に、どこからともなくクマの霊魂が飛んでくる。
――ヒュウン、ヒュウン
次々と飛んでくるそれらが、どんどんブラウンベアーの体に吸い込まれていく。
――ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン!
「あわわわわ……」
さらにそれこそ、1万体分にのぼると思われるクマの霊魂が、王国の全土から飛来してきて、宵闇に染まりつつある森を、禍々しい暗紫色の光に染め上げたのだ。
――ウグオオオ……。
「お、オトハ様……」
「みんな……」
俺が出すべき指示は、ただひとつだった。
「逃げろ!」
何処へとは言わないが、とにかく遠くへ!
「早くにげるんだー!」
「ガタガタ……!」
「ブルブル……!」
だが、その場の全員の足がすくみあがっていた!
やがて全ての霊魂が吸い込まれ、それは森の木々よりも高く、見上げるほどの巨体となって顕現した――!
『 グ マ゛マ゛ーー !! 』
そして俺は、全てを失うことを覚悟した。
人が、森が、時が、
何もかもが凍りつく――。
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