第24話 さあ走り出せ!
「とーちゃん、ちょっといいかな」
「おう」
次の日、風呂を済ませた後、俺は少しとーちゃんと語ることにした。
「かあさん、せがれが話をしたいらしい」
「うふふ、いってらっしゃい、あなた」
この時間は大抵、2人はソファーでイチャラブしている。
結婚して20年以上たつのに、いまだに熱々なのだ。
とーちゃんは俺より背が高く、年の割には白髪が多くて眼鏡もかけている。
昔からテレビゲームと漫画が大好きで、この家を建てる時に、趣味専用の部屋を作ってしまったくらいだ。
機械メーカーに勤めていて、営業系の部門ではけっこうな立ち位置らしい。
かーちゃんは逆にすごく小さい。
髪も短く、妹と並んで街を歩いていると、妹の妹だと思われるくらいのロリかーちゃんだ。
近くの医療機関で、義肢装具士の仕事をしている。
そしてやはりゲーマーで漫画好きで、ハガレンを聖典のように奉っている。
息子の俺からみても、とても良い夫婦だ。
「どれよっこいせ」
「よっこいせ」
二人して年寄りくさく食卓の椅子に座る。
「どうした、悩める青年よ」
「んー、例えばの話なんだが……」
夜中にVRゲームやっているのは、今のところ内緒だからな。
「とあるお屋敷に、煮ても焼いても食えない使用人がいたとしたら、屋敷の主としてはどうしたら良いと思う?」
「ほほう、今回はなかなか奇抜だな」
ある意味ではどストレートな質問なのだが、俺はしばしば、このような問答をとーちゃんと交わしているのだ。
「もう少し具体的に知りたいな、その食えない使用人とやらを」
「要は働かないくせに、いっちょ前に給料を要求してくる奴なんだ。あと、屋敷の食べ物を勝手に食べてしまうし、他の使用人からも嫌がられている」
「それは問題だな。とーちゃんの会社にも、結構そういうのがいるぞ」
とーちゃんは、どんな変な質問にも、深く考えて答えてくれる。
問題を解決することが好きなのだろうな。
「屋敷に住んで、使用人まで雇っているということは、どこぞの領主さまか?」
「まあ、そんなもんかな」
「ふむ……そうか。オトハルはどうしたら良いと考えているんだ?」
「それは……」
実は、授業中にコッソリ攻略サイトにアクセスして、対策法を調べたのだ。
『美食家を自称する少年』への推奨対応は、以下の通り。
・クマのエサ
それとなく狩りに向かわせ、ブラウンベアーにやらせる。手間はかかるがカルマが上がりにくく、オススメ。
・領外追放
最も手っ取り早い方法。カルマがやや上がるが、追放先の領民忠誠度を下げて、移民の流入を促してくれるのがうま味。拡張志向のプレイヤーにおすすめ。
・見せしめ斬首
浪費をした者への見せしめとして公開処刑する。カルマが激増するが、覇道を行くのであればこの上ない選択。
とにかくロクな目に合わないペーター君。
あとこのゲーム、カルマという数値化できないパラメーターが存在するらしい。
カルマが上がると、領民から恐れられるようになるのだが、人徳を無視した覇道プレイをするのなら、メリットしかないようだ。
さらに変わったところだと。
・毒見役
リスポーンできるプレイヤーが毒殺を恐れる理由はないが、あえて毒見役という役職を設けて、浪費を公認するのも一つのやり方。何が何でもカルマを上げたくない人向け。
俺はカルマを上げたくないので、出来ればこういう方向に持っていきたい。
しかし、ただ食って太るだけの使用人を肯定するのは、肉体改造計画の妨げになるやもしれん。
何とかして、身体だけは鍛えさせたいな。
そのためになら俺は、あえて覇道を進む覚悟もあるぞ!
「給料は無しにするけど、不健康にならないような管理はする……かな」
「ふむふむ、結構考えたな、流石は我がせがれよ……」
すると、とーちゃんは、どこか中二くさいセリフで返してきた。
「もしその屋敷が会社みたいな営利団体だったら迷わず解雇だが、領主さまとなると話は違ってくる」
うむ、とーちゃんだって流石だぜ。
俺は無意識のうちに、公爵家の財政を会社経営のように考えていたな。
「なんたって領主さまの使命の第一は、民を暮らしを守ることだからな」
それがまあ、理想的な封建領主だよな。
「使えないからただポイってんじゃ、領主としてはイマイチってことか……」
「そうだな、せがれよ」
とーちゃんはそう言って頷くと、厳かに語り始めた。
「とーちゃんはな、思うんだ。世の中の全ての人を役立てるなんていうのは、そもそも不可能なのではないかとな……。会社は利潤を追求する場所だが、国全体で同じことをしたら、やっぱり世の中はおかしくなってしまうぞ……」
「うんうん」
どこに行っても激しい競争しかない、生きづらい世の中になってしまうな。
「それに今は、昔と違って多くのことが機械やコンピューターで済まされてしまう時代だ。人の心に関わるような、たとえばカウンセリングの仕事だって、AIの方がうまくやるようになってきている」
そうなのか。
理系のとーちゃんが言うんだから、間違いないのだろう。
「とーちゃんの仕事だって、いつ機械に奪われるかわからない。海外では、AIが政治をやるなんていう事例も出始めているしな。人間はこの先、どんどん役立たずになっていく一方だろう」
「お、おう……」
まさに、未来に生きているな!
「だがその一方で、今でも人手が少なくて困っている業種もある」
「お医者さんとか、介護士さんとか……」
「そうだな、他にも沢山あるだろう。その人たちの頑張りで、今の社会は支えられている。その頑張りを前にして、無為に時を過ごしてしまうのは、すごく申し訳ないような気がするよな。たとえ、そもそもの仕事がないのだとしても」
「うん……」
人手の足りない職業ほど、なるのが難しかったりもするんだろうし。
これは実に困った問題だ。せめてその、頑張っている人たちの負担を減らせれば良いのだが……。
「だから父さんはな、もしその食えない使用人というのが、頑張っている他の人達への感謝もないような人物で、闇雲に生存権だけを主張していると言うのなら、迷わず首を切ってしまうな。たとえその領地の運営に、余裕があるのだとしても」
そしてとーちゃんは、自分の首を切る仕草をした。
その首を切るというのは、もちろん物理的な意味合いにおいてだ。
「なるほど……」
「とーちゃんはこのように考えるが、この手の問題にはっきりとした答えはない。オトハルもオトハルで、よくよく考えてみるのだな」
「うん、ありがとうとーちゃん、何だか胸がスッキリしたよ」
俺がそう言うと、とーちゃんは満足げに微笑んだ。
今はまさに、人の心が試される時代なのだろう。
* * *
俺はログインするとすぐに、ありったけのクマステーキを焼くように、使用人たちに指示を出した。
「腹が減っては戦ができぬよ!」
そしてみんなを賓客用の広いダイニングに集めて、食べられるだけクマステーキを食べさせた。
絵を描いているブラムさんの分だけは、適当な量をアトリエに運んだけど。
「お嬢様、こんなに食べて良いのでしょうか」
「良いんです! むしろどんどん食べて下さい!」
クマステーキは、牛ステーキほどではないが、コックスさんが上手く味付けしてくれるので、それでもかなり美味しい。
『22人+犬1頭』ぶんの肉を焼くのは結構な手間だが、メイドの2人が調理に加わっているので、それほどの時間はかからなかった。
ペーター君も、まわりに沢山人がいると味見しづらいようだ。
――カチャカチャ、モギュモギュ……。
しばし、食器の音と咀嚼音だけが室内に響く。
「ところで、宝石採集の調子はどうです? ベルベンナさん」
「初日としては上々と言ったところですわ、でも……」
と言ってちらりとペーター君の方を見る。
彼は人一倍食べているな。
「それなりでございましたわ」
あまり役には立たなかったということか。
だが、今のところはこれで良い……。
そして全員で、40kgほどクマ肉を消費した。
【体重 57→62】
俺は5kg食った!
「ではみなさん、適当な武器と防具を身につけて下さい! 足りない人は買うので言って下さい!」
兵舎には棍棒、アイアンメイス、鉄の槍などの武器があるが、防具がやや足りない。
衣装や宝飾品の大部分を売って3000万アルスほど調達し、代わりにヘビーフルプレートを2セット購入。ゴッズさんとグルーズさんに装備してもらう。
そして2人が装備していた軽甲冑を、ダルスさんとコックスさんに装備してもらい、ダルスさんはさらにハンマーを装備してもらう。
「ベマさんとオルマさんは、この大きな木の盾を二刀流で……」
「あああ、ありがとう……」
「ごごご、ございます……」
さらに他に人たちにも、筋力に見合った装備を渡していく。
「サーシャとアルルは鉄の盾でいけるんじゃないかな」
「が、頑張りますわ……」
「腕力をつけて、強い弓を引けるようになります……!」
さらに子供たちにも。
「みんなアイアンメイスからいっちゃう?」
「いくのだー!」
「いっちゃいます!」
メイシャ、コルン、ポンタ、ヘンナに、それぞれアイアンメイスを二本ずつ買ってあげた。
若い子は元気だー。
「わしもやるのかの?」
「先生はマイペースで良いですよ!」
爺さんにはウェイトは必要なさそうだ。
できる範囲で走り込んでもらおう。
この世界では運動さえすれば、高齢でも関係なく能力値が上がるようだし。
「ベルベンナさんには、この鋼のムチを……」
「まあ、高かったでしょうに……」
「ユメルさんとコヌールさんには、このレイピアを二本づつ……」
「あらまー!」
「なんて大きい針……」
刺すのは得意だと思うので……。
みんなのイメージも考慮して装備を渡していく。
セバスさんは自前のロングソード。
ペーター君は普通に棍棒を装備した。
楽師の2人は演奏しながら走ってもらうので、特に追加はなし。
密かに自重トレーニングで鍛えているメドゥーナには、ズッシリと重い鎖帷子をプレゼントしてあげた。
総額2308万アルス。
お嬢様の衣装と装飾品の大部分が、使用人たちの装備品に変わった。
「では、お留守番組は、グルーズ、ダルス、ベマ、オルマ、マジュナス、リューズ、の6人で、食べたクマステーキの分が減るまで、屋敷の庭を走り回ってください」
「マッ!」
「「「「「はーい!」」」」」
留守番組のリーダーはグルーズさんだ。
「後のみんなは、俺についてきて下さい!」
――承知いたしましたー!
さあ、いよいよ肉体改造計画のはじまりだ!
俺はピンク色のドレスの上に、ヘビーフルプレートの上半分を装備する。
そして両手に鉄の盾を装備すると、意気揚々と走り出した!
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キミーノ公爵家 財務 (単位:アルス)
税率 30%
月間収入: 924万6000
月間支出: 978万5000
内訳
人件費 : 436万5000
王国税 : 500万0000
その他 : 42万0000
返済 0
収支 : ▲53万9000
総資産 : 3億1427万0570
内訳
資金 : 2852万2570 (+692万)
家屋 : 1億5000万0000
土地 : 4000万0000
所持品 : 9574万8000 (-692万)
領内状況 (about)
月間生産: 3082万0000
一人平均: 4万9470
総資産 :14億5390万9133
一人平均: 233万3723
追加項目
平均忠誠値 84.3
プレイヤー 1
NPC 622
計 623
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