第23話 スーパーお嬢様タイム


 さて、内政上の重要決定を一つ下したわけで、俺は気持ち的に結構ズーンときていた。

 残りの5人は一度に面談してしまおう。


 侍女の2人は、しょっちゅう顔をあわせているので、特に必要はないのだが、一応ステ値を確認しておく。



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名前 ペマ (忠誠度:100)

身分 侍女

職業 髪結い師

年齢 45

性格 泣き上戸


【HP 35】 【MP 25】


【腕力  8】 【魔力  8】 

【体幹力 8】 【精神力 8】

【脚力  8】


【身長 155】 【体重 58】


耐性   なし

特殊能力 髪結い技能B

月間コスト 15万アルス


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名前 オルマ (忠誠度:100)

身分 侍女

職業 化粧師

年齢 54

性格 おひとよし


【HP 40】 【MP 15】


【腕力  9】 【魔力  10】 

【体幹力 7】 【精神力 20】

【脚力  9】


【身長 156】 【体重 65】


耐性   なし

特殊能力 化粧技能B

月間コスト 15万アルス


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 忠誠度が自然とMAXになっているな……。

 仕事も大したことをさせていないし、気楽にやってくれているのだろう。


 そういえば、髪結いと化粧の技能があるんだった。

 というか、それが雇っている理由の殆どだ。

 さっそく2人を呼んでやらせてみる。


「トキトキ……」

「パフパフ……」


 櫛で丁寧に髪をとかされ、顔に白粉をぬられる。

 俺は化粧なんかはしたことが無いので、なんとも不思議な気分だった。

 しかし、この化粧と髪結いがどれほどの効果があるのか確かめる必要がある。

 その効果次第では、2人は解雇対象にしなければならないからな……。


「このままマジュナスさんと、楽師の2人の面談をしてしまおう」

「では呼んでまいります」


 3人ともすぐにやってきた。


「ワンワン!」


 ベンジャミンも一緒だ。


 ステ値を確認。



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名前 リューズ (忠誠度:80)

身分 中級芸術家

職業 楽師

年齢 18

性格 ゆめみがち


【HP 30】 【MP 20】


【腕力  3】 【魔力  15】 

【体幹力 3】 【精神力 15】

【脚力  3】


【身長 158】 【体重 38】


耐性   睡眠C

特殊能力 演奏B

スキル 眠りの唄

月間コスト 15万アルス


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名前 ヴェン (忠誠度:80)

身分 初級芸術家

職業 楽師

年齢 18

性格 情熱家


【HP 50】 【MP 20】


【腕力  8】 【魔力  20】 

【体幹力 8】 【精神力 20】

【脚力  5】


【身長 175】 【体重 65】


耐性   恐怖B

特殊能力 演奏C

スキル 突撃ラッパ

月間コスト 15万アルス


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名前 マジュナス (忠誠度:75)

身分 聖職者

職業 賢者

年齢 72

性格 マイペース


【HP 25】 【MP 230】


【腕力  3】 【魔力  125】 

【体幹力 3】 【精神力 110】

【脚力  3】


【身長 150】 【体重 45】


耐性   全状態異常B 全魔法属性B

特殊能力 四属性魔法B 回復魔法B 補助魔法B 光魔法C 闇魔法C

スキル 瞑想 教授

月間コスト 45万アルス


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 楽師というのは、戦場においては魔術師に準ずるような職業なのかもしれない。

 歌には補助魔法に似た効果があるのだ。


「2人と話すのは初めてだけど、演奏はいつも心地よく聞かせてもらっていますわ」

「まあ、それは光栄でございます」

「ありがたきお言葉!」


 リューズさんは細いストレートの銀髪をもつ、エルフみたいなお姉さんだ。

 性格が『ゆめみがち』なだけあって、常にうっとりとした表情でいる。


 一方ヴェンさんは、眉尻の上がった勇ましい顔立ちで、癖のある黒い短髪が威勢よく立ち上がっている。

 なんとなく、若き日のベートーヴェンを思わせるような熱気があるな。


「率直に聞きますけど、何か挑戦したいこととか、不便に思っていることなどはないかしら?」


 うーむ、何故かこの2人を前にするとお嬢様っぽい喋り方になってしまう。

 文化の香りがそうさせるのか。


 リューズが可憐なソプラノで言う。

 その身には、常に涼風をまとっているかのようだ。


「そうですね……。強いて言わせてもらうのなら、もっとわたくし達の歌や演奏を、多くの人に聞いていただきたいです」

「ふむふむ、なるほど」


 音楽を聞いてもらうことこそ、楽師の誉ということか。


「自分も同じです! この胸に滾る情熱を、もっと多くの人の胸に響かせたいのです!」


 ウェンさんは、響くようなティノールで言ってきた。

 彼は逆に、そこにいるだけで室内の温度が上がるかのようだ。


「となると、屋敷の中だけだと物足りないですわね」

「もちろん、大変名誉なこととは存じ上げております……」

「御身の心に響かせることこそが第一にございます!」


 ふむふむ、忠誠度も普通に高かったし、公爵家においてもらっているだけで、基本的には満足なのだろう。

 だがやはり、屋敷の中だけに閉じ込めておくのは勿体無い。


「我が公爵領では、これから様々な事業を推し進めていきます。困難な仕事も成し遂げなければならないでしょう。それには、皆の力を合わせねばなりません。ですので私だけではなく、屋敷にいる他の使用人達のためにも、2人の能力を役立ててくださいませ」

「はい、精一杯に務めさせていただきます」

「粉骨砕身臨む所であります!」


 うんうん、素晴らしく良い返事をもらえた。

 やっぱり肉体改造をするにあたっては、音楽の力が不可欠だと思うのだよ。

 モチベが全然違ってくるからな……ふふふ!


 そこで、化粧と髪結いが終わった。


「お嬢様、出来上がりましたわ」

「とってもお綺麗ですわ!」


 と言って、ペマが手鏡を見せてくれる。

 それに映っていたのは……。


「むほっ!」


 誰だコレっていうくらいの美人さんだった。

 女って……いや男だけど、化粧するとこんなに変わるんだな……。

 ザ・宝塚! って感じだ!


「す、素晴らしいお手前ですわ……!」


 お嬢様口調も加速してしまいますわぁ!


「この化粧と髪型は、どのくらい保つのかしら?」

「8時間ほどでございますね」

「化粧崩れなどはいたしませんが、時間が立つほどに薄くなって、効力もなくなってまいります」

「なるほど……」


 一時的に魅力値を底上げしたい時に必要になるんだな。

 乙女の戦いはいつ何時訪れるかわからない。

 やはりペマとオルマには、常に住み込みでいてもらった方が良さそうだ。


(吉田よ……これは予想以上に凝ったゲームだ……!)


 本当のお嬢様になって社交界に臨まねば、恋人を作るどころの話じゃないぞ!


「うつら、うつら……」

「あ、マジュナスさん!」


 椅子の上で船を漕ぎ始めている。

 爺さんはもう寝る時間だ。


「おお……これはすまなんだ、オトハ様」

「いいえ、こっちこそこんな遅くにすみません。じゃあかるーく面談して終わりますね。マジュナス先生は何かお困りのことはありませんか?」


 年寄りの悩みを、このような若輩者が理解できるとは思えないが、ひとまず聞いてみる。


「ふぉふぉふぉ、そのお気持ちだけで十分……と言いたい所ですがのお」


 むむっ、何かあるのか?

 忠誠度も75という、高いけど十分とは言い難い微妙な数字だし。


「歳のせいか、近頃は村からの通いが辛くなりもうして……」

「あ、そうなんですね!」


 じゃあさっそく、引っ越しの手配をしよう!


「マジュナス先生は一人暮らしですか?」

「そうなのですじゃ、妻には先立たれましてのう。近頃は戦も少なくなりもうしたし、このまま自宅で独り死にゆくものかと、つまらなく思うておったのですじゃ……ふぉふぉふぉ」


 ふお!? まるで死に際を逃した老兵みたいなことを言い出す!


「じゃあすぐにでも、屋敷に移ってください! それに先生にはまだまだ生きてもらいますからね!」


 この先も生きのこって!


「かたじけのうございますじゃー。しかしオトハさま、ワシの忠誠度はそれでもMAXにはなりませんが、宜しかったですかのー?」

「えっ、まだ他になにか問題が……」

「ふぉふぉふぉ、ワシはマイペースなのですじゃー。この性格の者は、いくら頑張っても忠誠度は90以上にならぬでの、無理はせん方が良いですぞー、ふぉふぉふぉー」

「べ、勉強になります……」


 自分の忠誠度に言及してくるNPCってなんだかな……。

 本当にマイペースなんだな!


「あと、楽師の忠誠度もまずMAXにならぬのじゃ、音楽は神の贈り物で、楽師はその使徒じゃからの。仮に楽師の忠誠度が100になったら、主人を神格化した楽曲ばかりやるようになるから、気をつけるのじゃ」

「は、はあ……」


 忠誠を通り越して熱狂になってしまうのだな。

 音楽は神の贈り物……肝に銘じよう。

 2人のステ値を確認したら、忠誠度は90になっていた。

 まあ、十分だ!


 ひとまずこれで、今日の仕事……じゃなかった、プレイは終わり!


「ではそろそろ、わたくし休みますわ。せっかくなのでリューズさん、眠りの一曲をおねがいしますわ」


 これにて本日のお嬢様タイム――略してOJT――は終了だ!


「ではまいりますわ、ララァー♪」

「自分が伴奏いたします!」

「えっ、トランペットで?」


 やがて、眠りの一曲というには勇ましすぎる演奏が鳴り響いた。



――パンパカパーン!


 ねーむれー、ねーむうーうううーれー


 ねむれねむれ、ねーむーれーえー……


――パパーン!


 ねむれぇぇえええー!


――パーン!



「……うおおおおおっ!」


 お目々ぱっちり! 頭スッキリ!


 何なら、やる気もこみ上げてきた!


「ねねね、ねれるかぁー!」


 俺はあまりのことにいきり立つが。


――zzz


「みんな寝たー!?」


 睡眠耐性持ちのサーシャも寝たー!

 なんなら楽師も寝たー!


 結局ログアウトしたあとも、しばらく目が冴えて眠れなかった。

 俺はそのへんてこな演奏を、密かに「ネムレーンの歌」と名付けたのだった。



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