第22話 人事って大変
「雇い入れた時は、朗らかで気の良い少年に見えたのです……」
料理人の2人(?)を下がらせた後、セバスさんが沈痛な面持ちで言った。
「よもや、あれほどの木偶の坊だったとは……」
「む……難しいんですね」
採用の時点で、その人の本質を見抜くのは本当に難しいのだろう。
俺はこっそりと攻略サイトを調べているのだが、初期配置の使用人について興味深い記事を見つける事ができた。
【料理技能を持たない調理師の少年】
美食家を自称する、屁の役にも立たない少年が厨房に初期配置されていたら、迷うこと無く解雇しよう。本当にそのNPCは、煮ても焼いても食えない。多くのプレイヤーが彼を役立てようと試みたが、成功例は未だない。ばかりか、他のNPCの忠誠度を低下させる呪いまで持っている。
通称『解雇用NPC』。
ひどい書かれようだ!
本当にどうにもならないんだな!
コックスさんの忠誠度が低かった理由がこれだよ!
とは言え、ここまでダメだと逆にチャレンジしたくなるのもまた人のサ・ガ。
俺はちょっと思いついたことをセバスさんに聞いてみる。
「彼を鍛えて、門番にするとかできないかな?」
食いしん坊は、それだけ鍛え甲斐があるぞ?
「彼は食べること以外には興味がなく、その他の何をやらせてもすぐに飽きてしまうのです。土塊でも立てておいた方が、まだマシというもの……」
「そんなにやる気がないのか……!」
性格の記載を『ぐーたら』に変えたほうが良いんじゃないか!?
「じゃ、じゃあ河原で宝石探しさせるとか……!」
ベルベンナさんにムチ持たせてピシピシッってしてもらうの!
「うーむ、気が進みませんな。収穫よりも監視する手間の方が余計にかかるでしょう」
「うわぁ……」
むしろ、みんなの士気を下げてしまいそうだ!
本当に煮ても焼いても食えないNPCなんだな……。
「う、うーん。でも一度は試してみましょう……何もしないで諦めるのはなんかヤダ……」
こんな俺の性格はやはり『おひとよし』なんだろうか?
いや、それだとオルマさんとかぶってしまう。
だからあえて言おう、『ひたむき』であると!
「では、ベルベンナさんですね。あと、ポンタとヘンナも一緒に」
「承知いたしました」
ああ、人事って大変だー。
すぐに三人がやってきた。
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名前 ベルベンナ (忠誠度:70)
身分 中級職人
職業 宝飾鑑定士
年齢 42
性格 職人気質
【HP 30】 【MP 20】
【腕力 15】 【魔力 10】
【体幹力 15】 【精神力 25】
【脚力 15】
【身長 160】 【体重 40】
耐性 誘惑S
特殊能力 宝石鑑定B
スキル 生産(宝飾)B
月間コスト 20万アルス
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名前 ポンタ (忠誠度:100)
身分 村人
職業 何でも屋
年齢 13
性格 おちつきがない
【HP 30】 【MP 15】
【腕力 4】 【魔力 4】
【体幹力 4】 【精神力 10】
【脚力 8】
【身長 150】 【体重 45】
耐性 なし
特殊能力 靴磨き技能C
月間コスト 8万アルス
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
名前 ヘンナ (忠誠度:100)
身分 村人
職業 何でも屋
年齢 12
性格 いたずらっ子
【HP 25】 【MP 15】
【腕力 3】 【魔力 10】
【体幹力 4】 【精神力 10】
【脚力 5】
【身長 138】 【体重 33】
耐性 なし
特殊能力 なし
スキル おどかす
月間コスト 8万アルス
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三人ともゴブリンスレイヤー効果で忠誠度が上がり、村の子供2人に至ってはすでにMAXだ。
ここは、ベルベンナさんの忠誠度をMAXにしつつ、ペーター君の世話を頼めないか話をしてみるという、超高難度ミッションだ。
「えーと、宝石加工の話は聞いていますよね」
「はいお嬢様、あまりに素晴らしいご提案に、私は感激しておりますわ」
と言って、メガネをキラーンと光らせてくるベルベンナさん。
うっ……早くも言いづらい……。
「おいら、落ち着きがないって言われるけど、探しものは得意だよ! 頑張っちゃうからね!」
「ヘンナも、出来るだけいたずらしないようにして頑張るのー、えいっ!」
「あうっ!」
言ってるそばからポンタ君に膝カックンをかますヘンナちゃん。
まあ、悪戯といっても他愛のないもののようだから良しとしよう。
「ベルベンナさんからみて、2人の素質ってどんな感じです?」
「二人ともなかなか宜しいですわよ。ポンタは行動力があるので素材収集にはうってつけですわ。ヘンナはいたずらっ子なところは玉に瑕ですが、逆に言えば発想に富んでいるのですわ。採集よりも加工に回ってもらった方が宜しいかと思われますわっ」
「なるほど!」
いたずら好きというのは、人の心の動きに関心があることの現れでもある。
見るものを、アッと驚かせるような宝飾品を作ってくれるだろう!
「それじゃあポンタ君は鑑定能力、ヘンナちゃんは生産能力を上げるように頑張ってください。それぞれの能力値がCになったら、お給金を10万アルスに引き上げようと思います」
「うわー! 頑張ります!」
「ヘンナも宝石がんばるー! えい!」
「あうっ!」
ほんと膝カックン好きやね……。
2人はもう遅いので、空いている客室で眠るように言う。
ベルベンナさんにはちょっと残ってもらって、裁縫師の2人を呼ぶ。
「失礼いたします!」
「こ、こんばんわ……」
ユメルさんは恰幅もよく、堂々としているのだが、コヌールさんはどこかおどおどしている。
ステ値を確認。
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名前 ユメル (忠誠度:85)
身分 中級職人
職業 裁縫師
年齢 50
性格 働き者
【HP 55】 【MP 15】
【腕力 12】 【魔力 20】
【体幹力 10】 【精神力 40】
【脚力 10】
【身長 160】 【体重 65】
耐性 刺突B
特殊能力 裁縫技能B
スキル 生産(被服)B
月間コスト 15万アルス
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名前 コヌール (忠誠度:75)
身分 初級職人
職業 裁縫師
年齢 16
性格 気弱
【HP 30】 【MP 15】
【腕力 5】 【魔力 10】
【体幹力 6】 【精神力 15】
【脚力 5】
【身長 150】 【体重 40】
耐性 刺突C 打撃C
特殊能力 裁縫技能C
スキル 生産(被服)C
月間コスト 12万アルス
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二人とも、針仕事をしているからか、刺突耐性がある。
ミシンで指を縫ってこそ一人前なんて言葉もあるらしいからな。
大変な職業なのだ。
「コヌールさんが打撃耐性を持っているのは何故なんだろう……」
深く考えることなく出た言葉だったが、不意に空気がざわついた。
「そ、それは……」
顔を青ざめさせるコヌールさん。
これは……事件の匂い!
「お嬢様、コヌールの家はオヤジさんの気性が悪くて……この子は事あるごとに打たれているんです……」
代わりに答えてくれたのはユメルおばさんだ。
サーシャもベルベンナさんも事情は知っているようだ。
マジで、深刻な問題だった。
DVだ。
「それはいけませんね……」
何となく思ってはいたが、領民は、みんながみんな善良ではないのだろう。
我が公爵領にも、その手の問題が存在するのだ。
「オヤジさんは、どんな仕事をしているんです?」
「ここしばらくは、まともに働いているところなんて、見たことがありませんよ。酒ばかり飲んでは、女房と娘に金を稼いでこいと怒鳴りつけるんですよ?」
うわあ……絵に書いたようなダメ亭主!
「つまり、無職なんですね……じゃあ丁度良いか」
「お嬢様?」
「??」
俺の呟きに、サーシャとコヌールが首をかしげる。
「コヌールのオヤジさんを、うちの新たな門番としてスカウトしてみよう」
「!?」
「なんと!」
俺がそう言うと、コヌールの身体がにわかに震えだした。
ユメルが立ち上がって言う。
「そんなオトハさま! コヌールにとっては公爵家にいる間が唯一気が休まる時間。そこにわざわざあの男を連れてくるなんて!」
まあ、それもそうなのだが……。
「仕事をして、自分でお金を稼ぐようになったら、何か変わるかもしれません。それに屋敷の外と中ですし、顔を合わせることがないように取り計らいます」
「そ、そうですか……?」
その場にいるみんなが、顔を見合わせる。
それぞれ思うところがあるようだ。
果たして上手くいくんだろうかと。
もちろん、絶対の自信なんてどこにもない。
でも俺はこの公爵領の領主で、責任者で、そして法律なのだ。
領内に何か問題があるのなら、あらゆる手段を用いてそれを解決しなければならない。
見て見ぬふりなんて出来ない。
「コヌールさん、もし家に帰るのが嫌なら、屋敷の部屋に寝泊まりしてくれても良いんだけど……」
「そ、その……それは……」
「無理にとは言わないけれど……」
コヌールさんは、しばし苦しそうな表情で悩んでいるようだった。
そして間もなく。
「その、ありがたいお言葉ですが、母がいるので……」
「そうですか、わかりました」
コヌールさんがいないと、今度はお母さんに攻撃が集中してしまうのだろう。
「うむ」
ならば、住み込ませるのはオヤジさんの方だ。
「セバスさん、サーシャ。明日、コヌールのオヤジさんを強制徴用します。そして、兵舎に住み込んでもらいます」
「承知いたしました」
「承知いたしました」
領主権限で出来ることは沢山ある。
牢屋を作って、人を閉じ込めたりも出来るのだ。
まだそこまでのことはしないが、領内に問題を起こしているNPCがいれば、毅然とした対応を取らなければならないだろう。
少しでも領民の生活が良くなるように手をつくしてみよう。
どうしても改善の余地がないようなら、その時は……。
(ここは中世……)
そしてゲームだ。
ならば俺自身の手で、ストーリーを前に進めるまで!
「流石はゴブリンキングを倒した方ですこと……」
ベルベンナさんの眼鏡がキラーンと光る。
この判断によって、3人の忠誠度がMAXになった。
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