第21話 浪費の根源?


「なんという不届き者! お嬢様、ブラムは今すぐ解雇いたしましょう!」

「むむむ……!」


 確かに、呼び出しに応じないというのはマズいぞ!


 本人不在の面談だ。

 ひとまずステ値を確認。



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名前 ブラム (忠誠度:60)

身分 中級芸術家

職業 画家

年齢 42

性格 のんだくれ


【HP 15】 【MP 15】


【腕力  4】 【魔力  6】 

【体幹力 3】 【精神力 6】

【脚力  4】


【身長 166】 【体重 66】


耐性   酩酊B

特殊能力 感受性C

スキル 生産(絵画)B

月間コスト 15万アルス


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 ブラムさんは、42歳という年の割には、ずいぶんと老けたおっさんだ。

 髪は白髪混ざりで、くたびれたジャケットを着ている。

 大人しい人ではあるが、常に静かに酔っ払っていて、死んだ魚のような目で、一日中お空を眺めていたりする。


 アトリエには安酒の瓶がゴロゴロ転がっており、絵の具の匂いよりも酒臭の方がきついくらい。

 酒はどんなに飲んでも筋肉にはならないので、ステ値も見ての通り、押しなべて低い。生産(絵画)の能力はあるが、特殊能力の感受性によって何かを閃かない限り、固有の価値を持つ絵画は生産できないようだ。


「うーん……」


 それでいて月間コストはそれなりにかかってしまっている。

 これは、リストラやむなしか!


「ブラムさんは、何かしてたんですか?」

「珍しく、筆を振るっているようでしたが……」

「そうなんです?」

「どうでも良いです! クビにしましょう!」


 サーシャは何かもう、容赦ない感じだ。

 しかし俺は思う。

 ブラムさんは、ここを追い出されたら確実に身を滅ぼす。

 お嬢様の気まぐれで守ってあげなくちゃ……。


「えーっと、何かを描いてはいるのですよね……」

「はい」

「じゃあ、その絵が完成するまでは様子を見ましょう……」

「……ぐむむ」


 サーシャが何か言いたそうにしているが、今のところは様子見だ。


 んで次は、ゴッズとグル――。


「マッ!」

「はや!」


 せっかちなグルーズさんは、呼ぶ前からもういた。


「あいたたぁー」


 ゴッズさんが、肩をおさえながら入ってくる。

 彼は、当直を終えて休んでいたはずだが。


「いやはや、肩をいためましたわー」

「何かあったんです?」

「修行にと思って、ブラウンベアーと素手で戦ってみたんですわー」

「ほああ!?」


 仕事上がりにクマ狩りとは、豪傑にも程がある!


 ステ値確認。



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名前 ゴッズ (忠誠度:100)

身分 村人

職業 門番

年齢 35

性格 食いしん坊


【HP250→262】【MP 10】


【腕力 80→85】 【魔力  1】 

【体幹力80】   【精神力 30】

【脚力 80】


【身長 180】 【体重 90→87】


耐性   打撃A 睡眠B

特殊能力 警戒A

スキル 強打

称号 熊殺し(new!)

月間コスト 30万アルス


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名前 グルーズ (忠誠度:95)

身分 村人

職業 門番

年齢 25

性格 せっかち


【HP 200】 【MP 10】


【腕力  60】 【魔力  1】 

【体幹力 70】 【精神力 50】

【脚力  80】


【身長 170】 【体重 65】


耐性   睡眠C 毒C

特殊能力 警戒A

スキル ダッシュ切り

月間コスト 30万アルス


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 ゴッズさんが強くなっているぞ!

 熊殺しの称号もゲットしている!


「ちょっと、お嬢様のご勇姿にあてられまして」

「つい鍛えちゃったんですか!」

「それでうっかり、肩を傷めてしまいましたわ、面目ない」

「肩を傷めた程度で済んだのは凄い!」


 ゴッズさんは熊より強い、覚えておこう……。


 二人とも、現状に大きな不満はないようだが、12時間交代の勤務なので、やはり仕事はキツイようだ。


「休日だって欲しいよね?」

「ッズ!」

「我々なら大丈夫ですので、お気にならず」


 グルーズさんの時短すぎるセリフを、ゴッズさんがのんびり説明してくれる。 

 不思議な関係だな。


「いえいえ、我が屋敷はホワイト経営でいくつもりなんで。早いうちにもう一人、門番を雇いましょう、セバスさん」

「はい、それまでは私が代わりに門に立ちましょうかな」


 メイドさん達が頑張ってくれれば、セバスさんも手も空くというわけだ。


「では暫くの間は、ゴッズさん、グルーズさん、セバスさんの三人でローテーションを組んで下さい」

「ッシタァ!」

「感謝感激にございます!」


 これで、ゴッズとグールズの忠誠度もMAXになったぞ!


 次は料理人の2人だ。


「失礼いたします」

「しまーす」


 コックコートを着た2人がやってくる。

 ステ値を確認。



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名前 コックス (忠誠度:50)

身分 中級職人

職業 調理師

年齢 32

性格 こだわり屋


【HP 80】 【MP 30】


【腕力  25】 【魔力  13】 

【体幹力 30】 【精神力 30】

【脚力  30】


【身長 170】 【体重 65】


耐性   斬撃B

特殊能力 料理技能A

スキル 千切り

月間コスト 18万アルス


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名前 ペーター (忠誠度:100)

身分 初級職人

職業 調理師

年齢 15

性格 食いしん坊


【HP 63】 【MP 10】


【腕力  6】 【魔力  6】 

【体幹力 7】 【精神力 3】

【脚力  6】


【身長 158】 【体重 63】


耐性   なし

特殊能力 なし

月間コスト 10万アルス


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 コックスさんの忠誠度が低いのが気になっていたんだ。

 給料も低いし、それが問題なんだろうか。


「コックスさん、給料ってこれで足りてますかね?」


 俺は不器用なので、単刀直入な聞き方しかできない。

 コックスさんはやや息を飲んでから。


「いいえ、お給金に不満はございませんが……」


 む、何か別の不満があるんだな。

 言ってくだされ!


「その……実は私、自分の店を持ちたいと思っていまして……」

「なんと!」


 独立の意思があったのか!


「先代の頃からお世話になっているのに、このようなことを言うのは甚だ恐縮なのですが……」

「いえいえ、そんなことはないですよ!」


 俺は切なくは感じたが、それ以上に応援したい気持ちが強かった。


「それは素晴らしい目標だと思います、是非とも叶えて下さい!」

「お嬢様……」


 コックスさんは確保しておきたい人員の一人だったけど、独立の意思があるなら話は別なように思える。

 領内に店を構えてくれたら、この上ないことだ。

 村のみんなに美味しい料理を沢山食べさせて、肉体改造計画を大いに盛り上げてもらいたいぞ!


「是非とも、領内にお店を建ててくださいね! 当面、税率を上げるつもりもありませんから!」

「そ、そうですか……! では、準備ができ次第、連絡申し上げます! 本当にありがとうございます!」


 ずっと言いたくて言えなかったことなのだろう。

 頭を上げた後のコックスさんの表情は、随分とスッキリしていた。


 そしてペーター君だ。


「コックスさんが退職する前に、色々教えて貰わないといけないね」


 調理技能を身につけてもらって、もう少しお給金を高くしたいところだ。

 かなりぽっちゃり少年だけど、せっかく忠誠度が高い人材だし。


「えー、コックスさんいなくなっちゃうのー?」

「え?」


 だがペーター君は、がっかりしたようにそう言った。


「コックスさんと仕事がしたいのかい?」

「うんうん」


 一緒に辞められちゃうと、流石に調理場が寂しくなってしまうが。

 俺はちらりと、コックスさんの顔を伺う。


「えーと……ちょっといきなり人を雇うのは難しいですね……ごめんよペーター君」

「えー……」


 ペーター君の表情はますます冴えない。

 というか彼は、普段どんな仕事をしているんだろう。

 調理師という肩書のわりには、料理技術が身についていないようだが。


「彼は普段どんな仕事を?」


 俺はコックスさんに聞いてみる。


「えーっと、彼は……その、力がありますので、食材運びなどを……」

「芋の皮むきも出来るよ!」


 ほうほう?


「何か、得意料理はあるのかな?」

「うん! マッシュポテトが作れるよ!」


 それは……茹でた芋を潰すだけか?

 俺でも作れるな……。


「でもね、おいらの作ったマッシュポテトは、コックスさんのみたいには美味しくないんだ」

「そうなのか、なんでだろうね?」

「なんかね、味がしないんだ!」


 うむ? それは、味付けがなってないんじゃないか?

 料理人の修行って、見て技を盗んだり、残り物を味見して味付けを覚えたり、そんなんだったよな……?


「コックスさんがやっている通りに作っても、似たような味にならない?」

「ううん、何度も味見して作り直すんだけど、全然同じ味にならないの!」


 センスに難があるんだろうか?

 それとも……。


「そんなに味見して作り直したら、無くなっちゃわない?」

「うん! 殆どなくなっちゃう!」

「……ほ、ほほー」


 こ、れ、は!


 しかも彼は、かなりぽっちゃり。

 するってーと。


「毎日どのくらい頑張って味見をしているのかな?」

「おいらが作る分はほとんど全部! コックスさんの作る料理は、お嬢様に出す大事な料理だから、頑張って半分くらい味見しているよ!」


 俺は、何も言わずにコックスさんの顔を見た。


「…………」


 目を合わせてくれない。

 サーシャさんとセバスさんにも目を向けてみる。


「…………」

「…………」


 目を、合わせてくれない!


「ぺぺ、ペーター君は、将来どんな料理人になりたいのかな?」

「ううん、おいらがなりたいのは料理人じゃないよ!」


 なんだと!?

 そんだけ食材を浪費しておいて、一体何になろうってんだ!?


「おいらがなりたいのは『美食家』だよ!」

「ぬあーっ!?」


 アウトぉー!

 この子は間違いなく、アウトぉー!


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