第14話 作戦名は
公爵領にかつてない危機が訪れていた。
ベンジャミンと一緒に河原で宝石探しをしていたら、なんとゴブリンの巣を発見してしまったのだ!
「こういう時は、慌てず落ち着いて……」
ゲーム内から外部サイトにアクセスする。
こんな時こそ攻略情報だ。
令嬢プレイ向けの攻略サイトで、ゴブリンの巣について調べる。
【ゴブリンの巣】
最もポピュラーな、モンスター大量発生(アウトブレイク)。
浮島内での発生頻度は年に3回程度。他のアウトブレイク同様、領内に竜人がいると発生しなくなる。
洞窟出現後、速やかに250〜300体程度のゴブリン族が出現するが、戦闘系NPC10人程度で鎮圧することが出来る。
王室に救援要請を出す場合は、500万アルス程度の支出が必要になるので、可能であれば自領のNPCを雇って対応しよう。
巣の最深部にいるゴブリンキングが1000万アルス相当の財宝を所持しており、討伐によって得られる素材を含めれば1500万アルス程度の収入が見込める。
しかしながら、1日で村人NPCを半減させるくらいの破壊力があり、防衛力が十分ではないうちに発生すると、収入以上の損失が出る場合がある。
ログインしたら、領地がメチャクチャに荒らされていた……なんていう憂き目に会いたくない方は、速やかに竜人の庇護を得ることをオススメする。
「ふむふむ……」
当たりにして大外れなクジを引いたって感じだな。
どうする、俺。
洞窟から出て周囲を見渡すと、既に日が暮れつつあった。
リアルでの時刻は夜の23時手前ってところか。
でも、このまま放って寝るわけにはいかないぞ……。
「オトハさまー!」
「おっ」
屋敷の方から、使用人達が何人か走ってきた。
ベンジャミン先生が呼んでくれたみたいだ。
サーシャとセバスさん、それに門番のゴッズさんの3人だ。
「何やら大変なことになったようで」
「ワンワン!」
「ええ……これ、ゴブリンの巣ですよ」
と言って3人は、洞窟の中を覗き込む。
「確かにこれは、ゴブリンの巣ですな……」
厳しい表情を浮かべるセバスさん。
総白髪で細身な人ではあるのだが、65歳とは思えないほどに鍛えられていて、一振りのロングソードを帯刀している。
「えー、マジすかー、やだなー」
お腹がちょっと出た筋骨隆々のおっさんは、門番の一人のゴッズさんだ。
全ての筋力値が80という、素晴らしい戦闘力の持ち主。
攻略情報によれば、ゴッズさん級の戦闘員が10名いれば、鎮圧できるという話だが……。
「今のうちの戦力じゃ、ちょっと厳しいですよね……」
「はい、少なからぬ犠牲が出るものと思われます」
と言って、険しい表情をするセバスさん。
「しかしながら、大量発生が起こる前に発見できたことは僥倖です。これで打てる作戦が一つ増えました」
「それは?」
「マジュナス様の攻撃魔法で、洞窟から出てくるところを狙い撃ちにするのです」
なるほど、ゴブリン達が狭い場所にいるうちに叩くのだな。
あえて拡散させて各個撃破するという手もあるが、それだと領地に被害が出てしまう。
「マジュナスさんは?」
「もう遅いので、村に帰ってしまっています。すぐに連れてきましょう」
「じゃあ、俺はここで見張っています!」
「いいえ、お嬢様は危ないので屋敷にお戻り下さい」
「え、でも……」
「お嬢様の身に何か逢っては、先代の領主様に申し訳が立ちません。どうかここは、私達におまかせください」
忠誠心MAXなのは、先代からの縁だからか……しかし。
「俺にだってみんなを守る責任があります! セバスさん達ばかり危険な目にはあわせられません!」
それに口には出さないが、死んでもリスポーンできる俺が先陣を切るのは当然である。
「お嬢様……」
するとセバスさんの厳しい目が、少し潤んだような気がした。
「せっかく早めに発見できたんだから、1人も犠牲者を出さない方法を考えますよ! とにかくセバスさんは、早くマジュナス先生を連れてきてください!」
「……御意に!」
それだけ言うと、セバスさんは颯爽と走り去っていった。
全筋力値20で体重も軽いセバスさんなら、俺と同じように、馬と変わらぬ速度で走れるだろう。
「じゃあみんな、作戦を考えよう!」
「はい」
「了解いたしました」
ひとまず現状確認だ。
今屋敷にいるのは、もう一人の門番のグルーズ、侍女のベマとオルマ、裁縫職人のユメル、調理師のコックス、画家のブラム、アサシンのメドゥーナ、そしてベンジャミン先生。
あとは村に帰ってしまっている。
戦闘には向かない、ベマ、オルマ、ユメル、ブラムは屋敷の中で待機、戦闘能力が多少あるコックスさんとベンジャミンにその護衛をさせる。
というのは、マジュナス先生だけで300体近いゴブリンを殲滅することは無理だからだ。
100体程度はいけるとのことだが、その後はフィールド上での乱戦にもつれ込むだろう。
そうなったら、屋敷にいる人達に被害が及ぶ可能性がある。
「それに……」
マジュナス先生は72歳の高齢で、HPも25しかないのだ。ゴブリンとの乱戦に巻き込まれたら、確実にやられてしまうだろう。
ナイフで一突きされたら、それでお終いだ。
「マジュナス先生をここに呼ぶのは、やっぱり危ないんじゃ……」
「しかし、それではまともにゴブリン達とやりあうことになりますし、近隣住民への被害も大きくなるでしょう。私たちはみな、お嬢様のために命を捧げる覚悟は出来ております。是非とも懸命なご判断を!」
サーシャの言うことにも一理ある。
だが!
「いいや、それは出来ない!」
「お嬢様!」
誰一人として犠牲者は出さない!
もっと何か他に手がないか考えるんだ……。
「マジュナスさんが使える魔法は?」
「はい、それは……」
マジュナスさんが使える魔法を、一通りサーシャに教えてもらう。
・ファイヤーボール(炎)
・エクスプロージョン(炎)
・アイスダガー(水)
・ウォーター(水)
・アースウォール(土)
・アースダガー(土)
・ウィンドカッター(風)
・トルネード(風)
・ヒール(回)
・セルフヒール(回)
・キュアー(回)
・クイック(補)
・ディレイ(補)
・マジックエンパワー(補)
・ストロングネス(補)
・サンダーボルト(光)
・リフレクト(光)
・セデューション(光)
・ヘイト(闇)
・サイレンス(闇)
「なるほど……」
ポピュラーな魔法は大体つかえるみたいだ。
ファイヤーボールも、魔力125のマジュナス先生が使うと、火炎放射器なみの威力になるようだ。
しかし、ここで俺はアースウォールに着目した。
「土魔法で洞窟を塞いで、侵攻を遅らせることはできないかな」
「ある程度は可能かと思います、しかしゴブリンの掘削能力はかなりのものです、すぐに他の場所に穴を開けて出てくるでしょう」
「うん、とにかく時間を稼げればそれでいい。もし塞ぎきれなくて何匹か出てきちゃうようなら、ゴッズさんとグルーズさんで対応し……」
「しゃっ!」
俺が全部言い切るまえに、グルーズさんが奇声で答えてきた。
流石はせっかちさんだ。
『しゃっ!』はたぶん、わかりましたの短縮形だろう。
頭は丸刈りだし、レベルの高い野球部みたいな人だな。
こんにちはを縮めて『マッ!』って言ったりするノリだ。
「なるほど、出来るだけ時間をかけて各個撃破するという作戦ですね」
「うん、そうです。でも何があるかわからないから、メドゥーナさんはずっとマジュナス先生を護衛してください」
「……(ふるふる)」
しかしメドゥーナさんは首を横に振った。
なに……忠誠度の低さがここで影響したか……?
代わりにサーシャさんが答える。
「使用人が使用人を護衛するなど聞いたことがございません。メドゥーナはお嬢様の専属の護衛です」
「え……そういうもんなの?」
「はい、そういうもんです」
「なんとかならないの?」
「いいえ、こればかりは……。それにお嬢様は、護衛を外して何をなさるおつもりですか?」
と言って、ジトッとした目で俺を見てくるサーシャさん。
無茶しようとしていることがバレているみたいだ。
「後生ですから、危ない橋は渡らないで下さいませ……!」
「うむむ……」
ちょっと、試してみたいアイデアがあるんだけどな……。
サーシャさんは、何があっても俺を守る気でいるらしい。
だが俺は別に死んでもデスペナくらうだけなので全然問題ない。
合理的に考えれば、第一戦力のマジュナスさんこそ護衛されるべきなのだ。
「いいやならん!」
「お嬢様!」
だからここは、一つ心を鬼にして独裁を貫こう!
まさに悪役令嬢っぽくな!
「俺の……じゃない、わたくしの命令は絶対ですことよ!?」
「…………」
「…………」
語気を強めて言うと、二人は流石に黙った。
「言うことを聞けないというのなら、二人ともこの場で解雇しますわ!」
「う、そこまで……」
「……(ふるふる)」
サーシャはしぶしぶ承諾したらしかった。
なおも首を横に振るメドゥーナに、再度命令する。
「メドゥーナはマジュナスさんの護衛をして、絶対に死なせないこと! そして自分の身も必ず守ること! いいですわね!」
「……(こくり)」
よし、言うこと聞いてくれた!
どうやら、お嬢様口調がポイントのようだ。
そう……俺の出す作戦は考えるまでもなく決まりきっていたのだ。
とーちゃんの秘蔵のゲームの作戦名を借りるならこうだ。
『いのちを大事に!』
大切な仲間の命を、無駄に散らせたりはするものか!
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