第12話 ここほれワンワン


「おかえりなさいませ、お嬢様。王室より招待状が届いております」

「きたー!」


 ついに、婚約破棄シーンまできた!

 あとはいつでも良いからお城の大広間に行けば、都合よく誕生パーティーが始まるぞっ!

 そこで王太子にお熱いのを一発くれてやれば良いのだが――。


「まあ、そのうち行きます!」


 と言って俺は、サーシャさんか受け取った招待状を、ダイニングのテーブルの上に置いた。

 まだ時間は全然ある。そう急ぐこともあるまい。


「それよりもサーシャ、もう走るくらいじゃステ値があがらなくなっちゃって」

「まあ……そんなにお強くなられたのですね」


 体重が落ちて筋力がついたせいで、走る速度が馬並みになっている。

 それと聖女様が出現したことでHPの自然回復速度が増して、猛ダッシュしてもなかなかHPが減らなくなってしまったのだ。


「では、またブラウンベアー狩りをいたしますか?」

「ううーん、それも良いんだけど……」


 狩りに関して言えば、ちょっと気になっていることがある。


 このゲーム、もしプレイヤーがHP0になって死んだ場合、最寄りのリスポーン地点からの再スタートになる。

 ジャスコール領内であれば、公爵家の玄関がリスポーン地点だ。

 デスペナルティは、24時間のあいだ能力値半減で、さらに移動速度がめっちゃ遅くなる。

 要は、大怪我して動けないということだ。


 ではNPCが死んだ場合どうなるかと言えば、その場でモンスター同様、ポリゴンの欠片となって消滅してしまう。

 そして、復活させる手段ないらしい……。


「お嬢様?」

「いえ、なんでも……」


 つまるところ、プレイヤーなんかよりもよっぽど人間らしく、一度限りの人生を生きているわけだ。

 使用人が死ぬことを気にしないプレイヤーもいるみたいだけど、俺はそういうのはいやだ。

 みんなの命は大切にしたい……。


「今日はちょっと、狩りとは別のことを試してみたいかなーって……」


 充分な戦力で望めば、クマ狩りくらいで戦闘系NPCがやられることはないのだろう。

 しかしそれでも確率はゼロじゃない。

 できるだけ危ない橋は渡らないようにしよう。 


「では、素材収集でもなさいますか?」

「あ、それいい!」


 のんびり系ファンタジーの定番だな!

 俺は、コックスさんが作ってくれたクマ鍋で胃袋を満たすと、番犬のベンジャミンとともに素材収集に向かった。

 ちなみにベンジャミンの犬種はドーベルマンである。



【体重 61→65】



 * * *



「ワンワンワーン!」

「わんわんわーん!」


 近くの河原に来た。

 ベンジャミン先生にならって、大きな声で吠える。

 先生は、流石はドーベルマンなだけあって、腹の底に響くような良い吠えっぷりだ。


 すると。


【新スキル『吠える』を獲得しました】


 何に使えるのだろうと思いつつ、近くの草原でぴょんぴょん跳ねているツノウサギに向かって吠えてみると……。


「きゅー!」

「みみー!」


 すると、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。

 どうやら自分より格下のモンスターを逃亡させる効果があるようだ。


「ワンワンワーン!」

「わおーん!」


 さらにスキルが強化されることを期待して、吠えまくってみた。

 すると……。


――ウオオーーン。


 どういうわけか、山の方からシルバーウルフの群れが集まってきたのだ。


「ワフン!?」

「わほ!?」


 どうやら逆に、格上を呼び寄せてしまう効果もあるようだ……。


「グルルル!」

「ガルウウー!」


 牙を向いて敵意をみなぎらせている狼達、その数ひいふうみい……15頭。

 やばい! こういう危険もあったか……。

 このままでは俺はともかく、先生がやられてしまう。


「べ、ベンジャミン! ステイ!」

「バウ!」


 ひとまずその場にとどまらせて、俺が両手にもった盾でかばってやる。

 クマをも倒した俺だ、狼如きにそうそう遅れはとるまい……。


「どっからでもかかってこい!」


 最初に来たやつから血祭りに上げてやろう!


「ん? どうした!?」

「グルルルルー!」

「ウウウウー!」


 しかし狼達は、俺達を警戒するだけで一向に攻めてくる気配がなかった。


「ん……もしや」


 格上のようでいて、実際の能力は拮抗しているということか?

 縄張りを荒らされたと思って出てきたのだろうか。


 うむ……ならばもうひと押し!


「わおおおおおーん!」


 俺は、腹の底から声を絞り出して吠えてみた。


「ギャウン!?」

「ビクゥッ!」


 すると、シルバーウルフの群れに動揺が走った。

 よし、いけるぞ、もう一息。


「グルォオオ……ヴオオオオ! ガオオオオーーーン!!!」


【新スキル『スタンハウリング』を獲得した】


 そしてなんと! 新技を獲得してしまった!


「ギャン!」

「キヒン!」


 シルバーウルフは、みな尻尾を股に挟んですくみあがってしまった。

 よし……今のうちに退散しよう……かと思ったが、別に俺は不殺プレイをしているわけではないのだった。

 しかも我が家の財政は火の車……。


「よし! ベンジャミン! ゴー!」

「バウワウー!」


 それから俺は、先生とともに猛然と飛びかかって行った。

 シルバーウルフのHPはブラウンベアーの比ではなく、鉄の盾で何度かひっぱたくだけで容易に倒す事ができた。

 ベンジャミンも、流石に軍用犬のドーベルマンなだけあって、野生の狼と対峙してもまったく引けを取ることはなかった。


 そして俺は、合計632の経験値と、毛皮(小)×5をゲットした。

 少しは財布の足しになるだろう。



 * * *



「ヒール」

「わふうん」


 出掛けに経験値4000と引き換えに教わったヒールを、ベンジャミンにかけてやる。

 若干負傷させてしまった。

 危ない危ない。


「よーしよしよし」

「わうーん!」


 70アルスで購入したブラシで、ベンジャミンの毛並みを整えてやる。

 忠誠値はすでにMAXではあるのだが、やらずにはおけないのだよ。


「よし、綺麗になった」

「わんわーん!」


 主従の絆を強めたところで、さっそく素材収集いってみよう!


「ベンジャミン! サーチ!」

「ワン!」


 さっそく河原のあちこちを嗅ぎ回って、何かを探し始めるベンジャミン。

 俺も自前のスキルを使って、金目の物を探す。


「鑑定!」


 ベルベンナさんに教わった鑑定スキルを、今こそ活用する時だ。

 河原の石ころの中に価値ある鉱石が紛れていれば、これで発見できるはずだ。


「おっ、さっそく!」


 川の中にキラリと光る反応が!

 ドロワをたくし上げてザブザブと川の底をさらう。


「これは?」


 すると、ひまわりの種ほどの大きさの赤い石が見つかった。

 俺の鑑定スキルでは、具体的な名称まではわからない。

 とにかく価値はあるだろうという程度だ。


「よし、とにかく沢山あつめてベルベンナさんに鑑定してもらおう!」


 宝石鑑定Bを持つあの人なら、純度まで見抜いてくれるぞ!


 それからどんどん、河原の石や川底を漁っていった。

 透明な石、黒い石、不思議な模様を持つ石。

 実に様々な石が見つかった。

 1時間ほどで、小高い山が出来るくらいの量が貯まった。

 これは鑑定結果が楽しみだ。


 そして。


「うおおお! これわああー!」


 鑑定スキルなんてもって無くてもわかるその輝き。

 それは間違いなく……。


「金だあああー!」


 黄金の粒であった。


「うおおおー! これはテンションあがるー!」


 明らかに金目のものとわかるそれを前に、俺は小躍りして喜んだ。


「わんわーん!」

「ん?」


 いつの間にか、随分と遠くまで行ってしまっていたベンジャミンが、大きな声で俺を呼んできた。


「どうした!?」


 採集品をアイテムボックスにしまうと、俺は山の斜面で何かをほじくっているベンジャミンの下へと向かう。


「ハッハッハッ!」

「何かあるのか?」


 土の下に、何か匂うものがあるようだ。

 さすがはドーベルマン先生、警察犬になるだけはある!

 俺は鉄の盾をアイテムボックスから取り出すと、その角をスコップ代わりにして土をほじくった。


「ワンワン!」

「むむ? だいぶ深いのか?」


 掘れば掘るほど、匂いは強くなっていくらしい。

 やがて、俺の身体がすっぽり入るくらいの穴が出来た。鉄の盾だとかえって掘りにくくなったので、素手で掘り進めることにした。


「ハッハッハ!」

「うおおおおー!」


【新スキル『掘る』を獲得した】


 スキルって言うほどのものじゃないと思うけど……あ、でもちょっとだけ掘りやすくなった!

 俺はHPバーが削れるほどの勢いで手を振り回し、どんどん穴を掘っていった。


「これは、かなり良いトレーニングになるんじゃないですか? 先生!」

「ワンワーン!」


 特に、腕力値にビンビン来ている感じですよー!?

 ここまでプレイしてきてわかったことなんだけど、腕力だけ増やすって言うのは結構難しいことだ。

 重いものをぶん回すには、どうしても足腰がしっかりしていないといけない。

 必然的に、脚力と体幹力が鍛えられてしまうのだ。


「よっしゃ! これはもう腕力極振るしかねーな! うおおおお!」

「わおおおおーん!」


 そして俺はベンジャミンとともに、せっせと山の斜面に穴を掘り進めて行った。

 ドロワ姿で。


 今の俺を見て、婚約破棄直前の令嬢だと思う者は、一人も居ないだろう……。




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名前 オトハ・キミーノ

身分 公爵令嬢

職業 戦士

年齢 17

経験値 1211


【HP 100】【MP 35】


【腕力 24→28】【魔力 13→14】

【体幹力   17】【精神力17→19】

【脚力    20】


【身長 175】 【体重 65→62】


耐性   恐怖D 刺突D

特殊能力 経営適正D 回復魔法D 宝石鑑定D

スキル 猛ダッシュ 生産(宝飾)D 吠える(new!) スタンハウリング(new!) 掘る(new!)



装備

 鉄の盾×2

 絹の下着

 ドロワーズ

 革のブーツ


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名前 ベンジャミン (忠誠度:100)

身分 家畜(ドーベルマン)

職業 番犬

年齢 5

性格 用心深い


【HP 35→38】【MP 10】


【腕力 11→13】【魔力   1】 

【体幹力   11】【精神力 11】

【脚力    11】


【身長 80】 【体重 15】


耐性   空腹B

特殊能力 番犬B

スキル 吠える 噛み付く 掘る

月間コスト 5000アルス


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